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『おかあさんの被爆ピアノ』AKB48・武藤十夢主演! 戦争を親から子、孫へと語り継ぐことの大切さ

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ライター:#BANGER!!! 編集部
『おかあさんの被爆ピアノ』AKB48・武藤十夢主演! 戦争を親から子、孫へと語り継ぐことの大切さ
『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

原爆の恐ろしさを伝える“被爆ピアノ”の音色に触れ戦時へ想いを馳せる

『おかあさんの被爆ピアノ』は、監督・脚本の五藤利弘が2009年にドキュメンタリー番組「NONFIX」(フジテレビ系)で被爆ピアノについて取材し、番組内で放送されたことがきっかけで誕生した。被爆ピアノとは、爆心地から3キロ以内にありながら焼け残ったピアノのことで、当時一般家庭に普及していたアップライトピアノがほとんどである。家屋が爆風で吹き飛ばされたためピアノにも傷がついており、内部にガラスの破片や木片が入りこんでかなり傷んでしまっているが、広島にはそれを修理する調律師が存在し、被爆ピアノをトラックに積んで原爆の悲惨さを訴えるコンサート活動を全国で行っている。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

この調律師のエピソードを基に製作されたのが、映画『おかあさんの被爆ピアノ』である。気象予報士の資格を持つことで知られている才媛・AKB48の武藤十夢と、広島の隣県である島根県出身の佐野史郎がダブル主演を務め、森口瑤子、宮川一朗太らベテラン俳優がそれを支えている。また、日本アカデミー賞を何度も受賞している広島県出身の部谷京子が美術を、コンサートのシーンにも出演した谷川賢作が音楽を担当するなど、日本を代表する一流のスタッフが参加していることにも注目したい。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

戦争は本当に終わったのか? 親、子、孫、それぞれの世代にとっての戦争が交錯する

主人公の江口菜々子(武藤)は、大学で幼稚園教諭の免許を取得するために苦手なピアノを練習する日々を送っていた。そんな時、広島の祖母の家にあったピアノが、娘である母親の手によって被爆ピアノの調律師に寄贈されたという新聞記事を見つけ、初めて祖母が被爆者であり、母が被爆二世であることを知る。菜々子は「どうしてこんな大事なことを私に相談してくれなかったの?」と母に訴えるが、母は「原爆のことは知らない方がいい」と言うばかり。納得がいかない菜々子は、東京で開かれた被爆ピアノのコンサートにこっそりと出かけ、そこで出会った調律師・矢川(佐野)のもとで被爆ピアノについて学ぶことを決意する。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

なぜ、孫が主人公なのにタイトルが「おかあさん」なのか。そこには、戦争の当事者ではないはずの「子の世代の戦争」についての想いも込められている。被爆二世の母親は幼い頃に弟を白血病で亡くしており、自身もいつか発病するかもしれないという恐怖の中で生きてきた。また母親のセリフは、被爆二世であることで婚姻などに支障があったという差別や偏見に晒された過去を匂わせている。広島での生きづらさから、母親は祖母をひとり故郷に残し東京で生活する道を選んだ。母親の戦争はまだ終わっていないのである。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

現在60代前後の人の多くは親が戦争を経験している「子の世代」だが、振り返ってみると高度成長期やバブルの中で戦争は「触れてはいけないこと、語ってはいけないこと」のような後ろめたさがあったかもしれない。働けば働いただけ裕福になれた時代、親は子に生きるか死ぬかの悲惨な体験を語りづらかったという部分もあっただろう。また、親から戦争の苦労を聞かされた子の中には、もっと親に楽をしてもらいたいとがむしゃらに働いた人もいたかもしれない。しかしバブルが弾け、戦後の雇用体系が破綻し、孫たちが生きる時代では必死で働いても裕福な暮らしをすることが難しくなってしまった。実際に現代の若者の多くは、何かを諦めたように必要最小限の暮らしを選択している。そんな「孫の世代」が、いま少しずつ祖母や祖父の戦争体験を知り、彼らに寄り添い、次の世代へ戦争の悲惨さを伝え始めているのだ。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

遺伝子が伝わるように、戦争の悲惨さを伝えていく――広島からのメッセージ

劇中、菜々子は調律師の矢川や母親から戦争について話を聞くことで、自分なりの戦争への想いを外の世界に向けて発表することを決意する。若さゆえにそれは大変未熟なものだったが、未熟だったからこそ再び挑戦することを誓う。それは自らのルーツである戦争・原爆と、これからもずっと向き合い続けていくということだ。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

生きものは親から子、子から孫へと遺伝子を伝えてゆく。それと同じように、祖父母や両親が語ってくれた悲痛な戦争体験を自分たち、そしてより若い孫世代へと紡いでいかなければならない。毎年、蝉の声が聞こえてくる季節には伝え聞いた戦時の話を思い出し、いまも世界のどこかで起こっている戦争に想いを馳せる……。それが被爆国に生まれた我々の責務であり、次世代へ伝えていくべき課題ではないだろうか。

『おかあさんの被爆ピアノ』© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

『おかあさんの被爆ピアノ』は2020年8月8日(土)より K’s cinema ほか全国ロードショー

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『おかあさんの被爆ピアノ』

昭和20年8月6日に広島で被爆したピアノを持ち主から託された調律師・矢川光則。彼自身も被爆二世。爆心地から3キロ以内で被爆したピアノは被爆ピアノと呼ばれる。矢川は現在、数台の被爆ピアノを託され修理・調律して、それを自ら運転する4トントラックに載せて全国を回る。東京で生まれた江口菜々子は大学で幼児教育を学び幼稚園教師を目指しているものの、将来について漠然としている。

被爆ピアノの一台を母・久美子が寄贈していたことを知った菜々子は、被爆ピアノコンサートに行き、矢川と出会う。矢川を通して被爆ピアノ、広島のことを考えるようになり、祖母のことを知るうちに自身のルーツを探していく。母・久美子はどうして広島から出て行ったのか? 祖母・千恵子が菜々子に伝えたかったこととは? 調律師・矢川がなぜ被爆ピアノを伝える活動をしているのか? 菜々子はルーツを辿り、被爆ピアノの活動を辿りながら次第に何かを見つけていく……。

制作年: 2020
監督:
出演: