実話ベースの韓国近代史! 祖国の“言葉”を命がけで守り伝えた人々を描く『マルモイ ことばあつめ』

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ライター:BANGER!!! 編集部
実話ベースの韓国近代史! 祖国の“言葉”を命がけで守り伝えた人々を描く『マルモイ ことばあつめ』
『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

オム・ユナの初監督作品『マルモイ ことばあつめ』が2020年7月10日(金)より公開中だ。オム・ユナって誰だっけ? と首を傾げた人も、『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』の脚本を手がけた人と聞けば、がぜん興味がロッテワールドタワー、いや漢拏山レベルまで高まるのではないだろうか。その期待は裏切られるどころか、もはやハンカチでは足りないほどの涙、そして貴重な“学び”を与えてくれる感動のヒューマンドラマだった!

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

日本統治下の朝鮮半島に“母国語”を守るため戦った人々がいた

『マルモイ ことばあつめ』の舞台となるのは1940年代、日本統治時代の京城(現在の韓国・ソウル)。貧しい暮らしをしていたキム・パンス(ユ・ヘジン)は仕事をクビになり、息子の学費のために朝鮮語学会のリュ・ジョンファン(ユン・ゲサン)のバッグを盗む。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

パンスは読み書きができないゴロツキだが2人の子を持つシングルファーザーで、裕福で親日派の父親を持つジョンファンは日本統治下で徐々に失われていく朝鮮語(韓国語)を守るべく、各地の方言などを集めて朝鮮語の辞書を作ろうとしている青年。本作は、そんな何もかもが正反対の2人が偶然出会い、祖国の言葉を集めるという地道な共同作業を通じて心を通わせていく、実話ベースの近代史ドラマだ。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

ひとえに韓国語と言っても、当然ながら光州や済州島、京畿道などなど我々が比較的知っている有名な地域にもそれぞれ独自の方言が流通している(釜山の方言などが有名?)。ジョンファンが目指したのは、それらを統べたうえで共通の“朝鮮語”を編纂しようという壮大な試みだ。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

しかし日本統治下の朝鮮半島は、学校では子どもたちが日本語を話すよう教育され、個々の名前すらも日本式に変えさせられる(創氏改名)ような状況だった。いまでこそ日本でもハングル文字は身近なものになったが、朝鮮の人々は当時の厳しい支配体制のなか、どのようにして母国語を守ったのか? 本作では、そんな“ことばあつめ=マルモイ”に尽力した人々の姿が描かれる。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

韓国映画やドラマを観ていると、日本語に近い発音の言葉がいくつかあることに気づくが、それはどちらも漢字を起源としているから。やがて漢字語が廃れてウリマル(固有語=ハングル)がベーシックとなってからも、いくつかの言葉に名残があるというわけだ。もちろん、日本統治時代の影響によって定着した言葉もある。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

そんなこんなを踏まえずとも、正直この映画には日本人として、観ていて俯いてしまうようなシーンが多い。それでもこの事実から我々が目を逸らすことは許されないし、流暢な日本語を操る韓国キャスト陣の熱演には頭が下がる思いだ(朝鮮語の弾圧については「朝鮮語学会事件」で調べていただければ概要が分かる)。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

オム・ユナが監督としての才能を証明! ユ・ヘジンの人懐っこい演技も炸裂!!

『タクシー運転手』は、ノンポリのおっさんが軍事政権による弾圧に抗う人々と交流することで意識に変化が芽生える話だったが、同じく『マルモイ』も非識字者のゴロツキがウリマルを学ぶことによって、大切なものを守るべく戦いに身を投じていく姿が描かれる。日常生活に直結した事柄を、多くの観客と同じ目線を持つキャラクターに体験させることで説教くさくならずに学びや気付きを与えてくれるところが、オム・ユナの脚本の特徴だろう。そして地味になりかねないテーマでもしっかりエンタメさせるセンスが、この初監督作でもいかんなく発揮されている。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

パンスはユ・ヘジン史上でも1、2を争うボンクラだが、彼の「生きるためにはとにかくカネ!」な当初のスタンスは、現代に生きる人々にこそ切実に映るはずだ。そして、ついに字が読めるようになったパンスの「いつもの街角が100倍おもしろくなった……」「俺の人生これから!」みたいなキラキラっぷりは、年齢に関わらず学び続けることの美しさを的確に表現している(ヘジンの演技によるバースト効果もあり)。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

実話ベースならではの説得力に、フィクション=登場人物たちの人間くさい凸凹なやり取り(や、どこかで見たことがあるような? 印象的なカット)が加わることによって、猛烈にエモーショナルな人間ドラマが産まれる。選ばれしものが崇高な使命に突き動かされて……みたいなステージから描かないからこそ、オム・ユナ作品が持つ普遍的なメッセ―ジは世界中に届くのだ。『愛の不時着』(2019年)や『梨泰院クラス』(2020年)の爆発的にヒットによって韓国語に対する関心がより高まっているいまこそ、その陰には多くの人々の母国語を守るための、文字通り“命がけ”の尽力があったことを忘れないようにしたい。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

そして、韓国映画界にまたひとり素晴らしい女性監督が誕生したという事実に、めでたい気持ちとうらやましい気持ちが心の中で正面衝突を起こすこと間違いなし。韓国映画界の才能の宝庫ぶり、底なしすぎて恐るべし! である。

『マルモイ ことばあつめ』©2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

『マルモイ ことばあつめ』は2020年7月10日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

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『マルモイ ことばあつめ』

1940年代・京城(日本統治時代の韓国・ソウルの呼称)。盗みなどで生計をたてていたお調子者のパンスは、ある日、息子の授業料を払うためにジョンファンのバッグを盗む。ジョンファンは親日派の父親を持つ裕福な家庭の息子だが、父には秘密で失われていく朝鮮語(韓国語)を守るために朝鮮語の辞書を作ろうと、各地の方言などあらゆることばを集めていた。日本統治下の朝鮮半島では、自分たちの言語から日本語を話すことへ、名前すらも日本式となっていく時代だったのだ。その一方で、パンスはそもそも学校に通ったことがなく、母国語である朝鮮語の読み方や書き方すら知らない。パンスは盗んだバッグをめぐってジョンファンと出会い、そしてジョンファンの辞書作りを通して、自分の話す母国の言葉の大切さを知っていく。

制作年: 2019
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脚本:
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