60代主婦が夫の浮気で家出!? スウェーデンのベストセラー作家原作『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』

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ライター:野中モモ
60代主婦が夫の浮気で家出!?  スウェーデンのベストセラー作家原作『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

40年連れ添った熟年夫婦、しかし夫の浮気発覚で妻が家出!

ブリット=マリーは専業主婦。40年にわたって家を完璧に整理整頓された状態に保ち、多忙な夫のために食事を用意する暮らしを続けてきて、これが自分の人生だと思っていた。そんなある日、夫の浮気が発覚。ブリット=マリーはこのままではいられないとスーツケースひとつで家を出る。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

職業安定所に赴いたものの、ブリット=マリーには職歴が無く、63歳という年齢もネックになって、仕事の選択肢は限られている。そこでようやく紹介されたのが、田舎の村ボリにあるユースセンターの管理人の職。地域の子供たちのサッカーチームのコーチも業務に含まれているという。ブリット=マリーはひとりバスに乗ってボリに向かい、半ば成り行きで新しい生活に乗り出すことになるのだった。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

原作はスウェーデンのベストセラー作家、フレドリック・バックマンによる小説。こちらは「ブリット=マリーはここにいた」のタイトルで2018年に翻訳されている。2012年に発表された初の小説「幸せなひとりぼっち」と、その映画版も日本に紹介済みだ。こちらはトム・ハンクス主演でハリウッド映画化が進行中とのこと。著作は46か国以上で翻訳され、世界累計1000万部を超えるというからたいした人気だ。

“まるで絵本みたいな国”でマイノリティとして生きる人々の力強さ

この映画はインテリアや旅の雑誌などでプレゼンされる「あこがれの北欧」とはまたちょっと違った角度からスウェーデンの日常を見せてくれる。ブリット=マリーが赴くボリは、洗練された都会でもなく大自然が美しい田舎でもなく、寂れた退屈な村だ。ユースセンターと呼ばれる施設は日本で言うと児童館にあたるような場所で、いくつかの部屋に工作道具、テレビ、ゲーム、ビリヤード台や卓球台、テレビとソファなどが置いてある。だがブリット=マリーの他に職員はいない。日本ではそんなに放っておかれることはあり得ないのではないだろうか(スウェーデンでも現実にはもうちょっと上から管理・監督が入るものだと思うが)。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

そこに集まってサッカーをしている子供たちは、半分ぐらいがブラック/ブラウンの有色人種。中には経済的に困窮している家庭の子供もいる。ブリット=マリーが出会う大人たちも、街の「なんでも屋」的存在の有色人種の親子であるとか、ほぼ目が見えない元サッカー選手の女性であるとか、スウェーデン社会においてはおそらくマイノリティとされる人々だ。日本で暮らしていて、とにかく庶民にお金と暇が行き渡っていないのが由々しき問題だと考えている身としては、この映画で社会階層としては決して恵まれているほうではない人々も公共施設を利用し、サッカーという余暇活動を通してコミュニティを築いている様子に、やはり“社会の豊かさ”を感じずにはいられない。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

60代の女性が夫の裏切りを知ったとき、特に大騒ぎせず、すぐさま仕事を探しに行く。子供たちはサッカーのことを何も知らない高齢女性が突然コーチとしてやって来たとき、すぐに暖かく迎え入れはしないが、これ見よがしに意地悪をしたりもしない。みんなプラクティカルで話が早いのだ。ブリット=マリーの主婦としてのスキルがサッカーのコーチ業にも役立ち、意外な才能が発揮されたりすることもない。しかし、ただそこにいて労働を積み重ねることで信頼関係は生まれる。声を張り上げたり号泣したりせず、平熱のまま力をあわせる人々の姿は、「絵本のようにかわいい、夢のような北欧」とはまた違う部分で、やっぱりうらやましく思うのだった。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

主演ペルニラ・アウグストはイングマール・ベルイマン監督の『ファニーとアレクサンデル』(1982年)に出演し、『愛の風景』(1992年)では第45回カンヌ国際映画祭・女優賞を受賞したスウェーデンのベテラン。『スター・ウォーズ エピソード1』(1999年)『エピソード2』(2002年)のアナキンの母親、シミ・スカイウォーカー役でも知られている。監督・共同脚本のツヴァ・ノヴォトニーは女優としても活躍しており、 『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(2017年)ではヒロインを演じた。全編ワンカットの初監督・脚本作品『Blindsone(原題)』(2018年)が各地の映画祭で高い評価を獲得したという注目の才能だ。エンディングテーマのインディゴ・ガールズ「クローサー・トゥ・ファイン」でノスタルジックなあたたかい気持ちになる中高年も少なくないだろう。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

文:野中モモ

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』は2020年7月17日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開

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『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』

ブリット=マリーはスウェーデンに住む専業主婦。結婚して40年、仕事で多忙な夫のために毎日食事を作り、家の中を綺麗に整えておくことが自分の役割だと信じて疑わなかった。しかしある日、彼女に人生の転機が訪れる。夫が出張先で倒れたという知らせを受け病院へ駆けつけると、付き添いには夫の長年の愛人が……。

制作年: 2019
監督:
出演:
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