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2020年限定 追悼上映『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』ゴダールやゲンズブールを魅了した伝説的女優に迫る

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ライター:#野中モモ
2020年限定 追悼上映『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』ゴダールやゲンズブールを魅了した伝説的女優に迫る
『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』© Les Films du Sillage - ARTE France - Ina 2017

アンナの魅力を伝えたい! 関係者の情熱が奇跡の劇場公開を実現

1960年代、フランスから起こった映画の新しい波“ヌーヴェルヴァーグ”を象徴する顔となり、世界中の人々を魅了した女優アンナ・カリーナ。『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』は、2019年12月に79歳で逝去した彼女の生い立ちとキャリアを、インタビューとアーカイヴ映像で紹介する作品だ。

使用されている映像の権利関係上、本来日本では公開できない作品だったが、プロデューサーの各方面への尽力により、2020年限りという条件付きで公開が許諾されたとのこと。上映時間は1時間弱と短く、鑑賞料金も抑えめに設定されている。ちょっと変わった興行スタイルに、アンナ・カリーナを街の映画館で観たい、そして彼女が携わってきた映画の魅力を広く伝えたいという関係者の熱意を感じる。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

元夫ゴダールの傑作群が生まれたのも女優アンナ・カリーナのおかげ?

アンナ・カリーナの生涯は女優になる前からドラマチックだ。1940年、ナチスドイツ占領下のデンマークに生まれた。父親は最初から不在。母親とも折り合いが悪く、貧しい暮らしの中でアメリカの映画や音楽にあこがれた。17歳で家を飛び出してパリに向かう。カフェでモデルにスカウトされ、たまたま出会ったココ・シャネルの提案で「アンナ・カリーナ」を名乗ることになった。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

初の長編映画を準備中だったジャン=リュック・ゴダールは、石鹸のCMに出演していた彼女に目をつけた。ふたりの出会いから、『女は女である』(1961年)、『女と男のいる舗道』(1962年)、『気狂いピエロ』(1965年)、『アルファヴィル』(1965年)などの傑作が生まれることになった。アニエス・ヴァルダ監督の『5時から7時までのクレオ』(1961年)でも新婚夫婦の仲睦まじい姿を見ることができる。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

アメリカに渡り自ら映画製作を行う多才ぶり! シンガーとして日本公演も

本作では、60年代半ばにゴダールと別れた後のアンナ・カリーナの多彩な活動も十分に紹介され、「ヌーヴェルヴァーグのミューズ」と称される彼女が自らの手で果敢に人生を切り拓いてきた女性であることがわかる。ジャック・リヴェット監督の『修道女』(1966年)も、彼女の存在感あってこその傑作だ。セルジュ・ゲンズブールはピエール・コラルニック監督のミュージカル『アンナ』(1966年)のために14曲を書き下ろした。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

70年代に入ると、アンナ・カリーナはアメリカに渡って自らプロダクションを設立し、製作・脚本・監督・出演を務めた映画『VIVRE ENSEMBLE(共に生きる)』(※原題)を発表。90年代にはイングマール・ベルイマンの舞台に出演。執筆活動も行う。シンガーとしてのフィリップ・カトリーヌとの共同作業や、2000年の日本公演の思い出が語られるあたりは、フレンチ・ポップス愛好家も嬉しいだろう。

アンナの美しさを凝縮した、夫デニス・ベリーからのラブレター

本作の監督はアンナ・カリーナの4人目の夫デニス・ベリー。若い頃は俳優として何本かの映画に出演し、30代以降は主にテレビ映画の仕事をしてきた。赤狩りでハリウッドを追放されたジョン・ベリー監督の息子で、1950年代から60年代にかけて父と共にパリに暮らした。1982年にアンナ・カリーナと結婚する前には、ジーン・セバーグと結婚していたそうだ。つまり『勝手にしやがれ』(1959年)と『気狂いピエロ』、ゴダール監督の代表作2本の主演女優の夫となった人物なのだ。そんな人生が現実に!? と驚いてしまう。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

ベリー監督は2017年のこの作品を「アンナへのラブレター」だと語っている。ネガティヴな話にはあまり深く踏み込まず、ひたすら美しく気さくで素敵なアンナ・カリーナを見せていく姿勢に、若い頃からモテてきた人ならではのおおらかさってあるよね、とか思ってしまう。「俺が育てた」とは言えないし、言わない。みんなのあこがれを壊さないように、美しい部分を切り取って。60年代から現在までの半世紀以上にわたって愛されてきた大女優が輝くのは、やはりスマートフォンの画面でなく暗闇のスクリーン。吸い込まれるような瞳と大きな口で躍動する彼女の姿をみつめる体験は、20世紀の人々にとって映画がどんなものだったのかを理解する助けになるはずだ。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』は2020年6月13日(土)より新宿ケイズシネマほか全国公開

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『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』

アンナ・カリーナ80歳、ジャン=リュック・ゴダール90歳を祝福すべき2020年を目前にして、2019年12月14日アンナ・カリーナはパリで逝去。本作は、パートナーであるデニス・ベリー監督が万感の思いを込めて作り上げた、アンナへのラブレター(本人談)。

制作年: 2017
監督:
出演: