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平均17歳の幼き兵士たち!奇襲上陸作戦の真実『長沙里9.15』 銃・戦車・地雷の再現度高し

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ライター:#大久保義信
平均17歳の幼き兵士たち!奇襲上陸作戦の真実『長沙里9.15』 銃・戦車・地雷の再現度高し
『長沙里9.15』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

グラフィックと字幕あるいはモノローグを用いた状況説明に続いて本編が始まり、最後はモデルとなった人物の写真が紹介されてエンドロールへ――。『長沙里9.15』は、そんな近年の戦争映画のフォーマットにのっとって展開するので、安心して鑑賞できる(?)韓国映画です。

『長沙里9.15』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

知られざる陽動作戦

冒頭で示されるように1950年6月25日、北朝鮮の韓国侵攻により朝鮮戦争が勃発します。

実は開戦初頭の7月上旬の時点で、国連軍総司令官ダグラス・マッカーサー将軍とそのスタッフは仁川上陸を企画していたのですが、北朝鮮軍の進撃が急すぎて反撃作戦どころでなかったんですね。それが、8月中旬になって「釜山橋頭堡(橋頭堡:きょうとうほ=以後の作戦の足掛かりとなる拠点や地域のこと)」確保の目処が立ったところで、仁川上陸作戦計画が始動したのです。

『長沙里9.15』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

9月15日に決行された仁川上陸作戦は、軍事的にも政治的にも必ず成功させる必要があり、欺瞞行動による計画秘匿が図られました。アメリカ軍主体の国連軍は、朝鮮半島西側の港湾地域を片っ端から爆撃したり、9月12日に群山への模擬上陸行動を見せつけたり、また14日~15日には東海岸部の三陟に猛烈な爆撃を実施。そして9月15日早朝、独立遊撃第1大隊が同じく東海岸の長沙里に陽動のための上陸作戦を行なったのです。

長沙里上陸作戦は戦史書でも数行から1頁ほどの記述で済まされることが多いのですが、それが1本の映画になるのですから感動です。この作戦では多くの齟齬があり多くの犠牲が出ているのですから、その犠牲者の数だけドラマがあるはずです。でも“話題”はやはり仁川上陸作戦に流れてしまうんですね。もちろん映画(それも韓国映画)ですから脚色はモリモリです。でも台風(アメリカ呼称「キジア台風」)で上陸用舟艇が座礁してしまったこと、そして部隊に学徒兵がいたことなどは、事実です。

『長沙里9.15』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

後退につぐ後退により、韓国軍では将兵が払底状態でした。土地(領土)を失うことは、人という資源を失うことでもあるのです。そして古今東西、10代の若者は熱情にかられて行動してしまう傾向にあります。劇中で描かれる、郷里や家族のために志願した学徒兵の献身と団結は痛々しさすらあります。

一方で、韓国内を進攻する北朝鮮軍も正規軍将兵を消耗した挙げ句、韓国の青少年を強制徴兵したのも事実です。この北朝鮮軍強制徴兵のせいで、友人知人だった韓国人同士が戦う状況に陥ったのです。

『長沙里9.15』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

地雷“あるある”

昨今の考証重視の趨勢から、兵器や軍装の再現度ももちろんハイレベル。ソ連式装備の北朝鮮軍が、ボルトアクションのモシン・ナガン小銃やPPSh41サブマシンガン(SMG)、PM1910水冷式機関銃、DP軽機関銃。そしてアメリカ式装備の韓国軍が、M1ガーランド自動小銃、M1カービン、M3SMGなのは当然として、学徒兵が持っているボルトアクション小銃が日本陸軍の九九式なのは、ガンマニアのハートをワシ掴みです。実際に当時の韓国軍は日本時代の小火器を相当数装備していたんですね。ちなみに陸上自衛隊の前身の警察予備隊も九九式小銃改を装備していた時期があります。

そして北朝鮮軍のT-34-85戦車にいたっては「韓国にはまだ動く状態のがあるのか!」てな貴重品です。片側の履帯(キャタピラ)が切れた状態で無理矢理に動くシーンは“実戦あるある”と言えるでしょう。

そして「あ! 地雷を踏んでしまった……足を上げたら爆発する!!」という、映画における“対人地雷あるある”もやっぱり登場します。実際のところ「地雷を踏んだことを察知した瞬間に足を着地状態で固定する」という反応は無理なんですが……。

でも劇中で軍曹が説明するように、1~10キログラムの圧力重量で爆発する対人地雷に対し、100~300キログラムの圧力重量で爆発するように設定されている対戦車地雷は、歩行者が踏んだぐらいでは爆発しないのは本当です。もっとも、対戦車地雷の上で飛び跳ねるのは止めておいた方が良いと思いますが……。

このように凝った設定がちりばめられたなかで、UH-1ヘリコプターが登場するのは解せないところ。なぜならUH-1の初飛行は1956年なので時期的に合わないからです。考えるに、キャラクターの場面転換をテンポ良く行なうため、敢えてUH-1を使ったのかもしれません。

仁川上陸作戦の成功により、首都ソウルを奪還し北朝鮮領内に攻め込んだ国連軍ですが、1950年12月には建国宣言直後の中華人民共和国が軍事介入。夥しい消耗と損害の果ての1953年7月27日、ようやく休戦となり今日にいたるのです。

文:大久保義信

『長沙里9.15』は2020年6月5日(金)より公開

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『長沙里9.15』

北朝鮮の猛攻を受け敗走を続けた韓国軍は、戦況を打開するためマッカーサー将軍の指揮下で大規模な上陸作戦を計画していた。それが後に伝説とも言われるクロマイト作戦(仁川上陸作戦)である。奇襲上陸をなんとしても成功させるべく、軍上層部は無謀とも言える陽動作戦を発動する。「長沙里(チャンサリ)に上陸せよ」と命じられたイ・ミョンジュン大尉らが率いるのは、訓練期間わずか2週間、平均年齢17歳の772人の学生兵たち。使い古された武器とわずかな弾薬、そして最小限の食料だけを支給された彼らはまさに「捨て駒」だった。それでも祖国のため、愛する者たちを守るため、土砂降りのごとく降り注ぐ銃弾を受けながら、部隊は決死の上陸を試みる。

制作年: 2019
監督:
出演: