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「脱獄」に学ぶ 苦境からの脱出法! コロナ禍に観たい名作『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』

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ライター:#関根忠郎
「脱獄」に学ぶ 苦境からの脱出法! コロナ禍に観たい名作『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』
『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』US版ポスター

新型コロナウイルスによる自粛の日々……
【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】

巨大な見えない敵(UNSEEN ENEMIY)=新型コロナウイルスの脅威が依然として全世界を覆っている。その感染力の底知れぬパワーは圧倒的で、今を生きとし生ける者の多くは、コロナウイルスに《囚われの身》となって、日々果てしない不安の中で息を潜めている。この果てしない闇が明けるのはいつか。否! この闇と向かい合い、この闇を手なずけ、この闇から一刻も早く脱却を願う人間の意志と智力の必要性を感じつつ、私達は当分の間、執拗な感染症と共存しながらの生活を続けなければならない。このように経済崩壊、医療崩壊などの危機の真っ只中で、国の自粛要請を受けて自宅待機する大多数の人々もまた、ある種《囚われの身》。

このような現状況下で、わたしの脳裏を掠めた1本の映画があった。それが1956年のフランス映画『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』という作品だ。今回、この映画について是非お伝えしたいことがあってパソコンのキーボードを叩きはじめた。ご一読を!

『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』VHSパッケージ(私物)

名作回想第1弾:不朽の名作『抵抗 -死刑囚の手記より-』のレジスタンス精神

今から60年以上前の1956年にフランスで製作され、日本公開は翌1957年で未見の方々も多いと思う。で、真っ先に映画の内容を記すと、たった一言か二言で済む。ドイツによるフランス占領下、リヨン市街でナチスに囚われた一人の若いレジスタンス闘士(フォンテーヌ中尉)が、難攻不落のモンリュック監獄に収監され、やがてその独房から全知全能を使って見事に脱出し、自由の身となってレジスタンス活動に復帰していくといったものだ。

監督はフランス映画の名匠ロベール・ブレッソン(1901~1999年)。代表作として『罪の天使たち』(1943年)、『ブローニュの森の貴婦人たち』(1944年)、『田舎司祭の日記』(1950年)、『スリ(掏摸)』(1960年)、『ジャンヌ・ダルク裁判』(1962年)、『やさしい女』(1969年)、『白夜』(1971年)、『ラルジャン』(1983年)などの名篇があり、世界各国の国際映画賞を数多く受賞している孤高の人。一切の妥協を許さない冷徹厳格な映画作りで知られた監督だ。プロの俳優を多用せず、素人の逸材を探し、発見して大胆な起用をすることでもしられる有名な映画作家。この『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』でも主役(フォンテーヌ中尉)には当時、大学に在学中(哲学科専攻)だったフランソワ・ルテリエという青年を起用、見事な成果を収めている(因みにルテリエはブレッソンの多大な影響なのか後年に映画監督になっている)。

それではナチスの厳重監視下、死刑囚フォンテーヌが如何にして脱獄を果たしたのか? その緊張感に満ちた映画展開を記述してみよう。

脱獄はどのように着手されたか!? フォンテーヌ中尉の理智と意志と作業

リヨン市街でレジスタンス活動中にナチスによって捕らえられたフォンテーヌは、護送車から手錠のまま逃走したが果たせず、手酷い殴打を浴びて監獄の独房に投げ込まれた。これに屈せず彼は、敵側の監視下、時を移さず独房の建築構造をくまなくチェックし、同時に獄内の囚人たちにアプローチ。彼らからまず手錠を外す安全ピンやカミソリを手に入れる。

繰り返しピンで手錠を外す訓練。これが脱獄への第1歩。利するものが何ひとつ見出せぬ独房で、フォンテーヌの冷徹で的確な状況判断、揺るぎない自由への希求と意志が描かれていく。監視の目をかわすフォンテーヌの微細な一挙手一投足、そして何事も見逃さぬその鋭い眼差し。私たち観客は一瞬も目が離せない。この作品を《手》と《眼》によるクローズアップ映像の極北とでも言いたい静謐な緊張感が脈打っている。

そして見事なフィルム編集美学の成果。無駄を一切省いたカットが律義に重ねられていく。全篇100分のモノクロ・スタンダード映像は文句なく素晴らしい。一切の粉飾・虚飾を排除して研ぎ澄まされた透徹の映像感覚。その光と影は映画芸術の極みだと思う。

自由への希求!《無から有》を引き出すフォンテーヌ緊迫の脱獄プロセス

第1段階=独房の中には粗末なベッドと便器代わりのバケツ1個。監獄の中庭が覗ける小さな鉄枠の格子窓がひとつ。鉄錆がこびりついたような古いベッドに汚れたマット。他には何もない。フォンテーヌは自分を閉じ込める狭い独房の建築構造をくまなく点検し始める。先ず第一に厳密な状況の把握だ。

第2段階=フォンテーヌの前に立ちはだかる頑丈なドア(鉄製の枠と分厚い堅木で作られた)。彼はその造作を点検し、ドアの下半分に嵌め込まれた数枚の羽目板を見出す。次にフォンテーヌは食事の後際、運ばれてくる食器とスプーンのうち、スプーンをくすねる。手に入れたスプーンをコンクリートの床で砥ぎ、鋭利なナイフに変貌させる。次はそのナイフで羽目板を外す作業に移る。音を出せない。監視の目を盗んで続ける小刻みの行為は根気と緊張の連続。見つかれば処刑は避けられない。目と耳は極度に鋭敏化する。

第3段階=ある日、フォンテーヌはナチス本部に連行される。死刑の宣告。独房に戻った彼を襲う恐怖、絶望。最早、時間が無い。囚人監視がますます厳しさを加えるさなか、闇雲に脱獄を図った囚人が射殺された。焦りが頂点に達した時、フォンテーヌの許に幾つかの小包が届けられた。レジスタンス同志や家族からの差し入れか。中身は毛布、シーツ、パジャマなど。フォンテーヌは、それらの物をすべてカミソリで切り裂いていく。脱獄に不可欠なロープを作るためだった。しかし布(きれ)だけで編んだロープでは人間の体重を支え切れない。そこで彼はベッドのマットを支えるスプリング(極太の針金)を外して繋ぎ合わせ、これを布のロープと撚り合わせて、監視の目を交わしながら更に更に頑丈な特製ロープを作り上げた。そのゴツゴツしたロープは、フォンテーヌの自由への希求と知恵と労力(地道な作業)を強く感じさせ、深い感動さえ覚えてしまう。

第4段階=愈々決行の直前、フォンテーヌの独房に投げ込まれた正体不明の少年。もしかするとこの少年はナチスが放ったスパイなのかもしれない!? が、しかし疑念を抑えて少年に脱獄計画を明かし、協力を託すフォンテーヌ。やがて二人は夜の闇を衝いて脱獄を決行。厳重な監視を掻い潜って自由の世界に向かって歩いて行く。二人の協同作業で成し得た究極の脱獄!

脱出成るか!? 新型コロナウイルスに囚われの身となった世界の人々

第三次世界大戦とさえ言わしめる、現下の対コロナウイルス防衛ウォーズ。多くの人々は今、コロナウイルスの感染に怯え、ある種の《囚われの身》になって、出口の見えない究極の不安世界の真っ只中にいる。「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」という絶望的言辞もリアルなほどに人々の心を酷く圧迫している。

皆が皆、このような未曽有の困難に押しつぶされそうになっているとき、例えば「映画に何ができるのか!?」とわが身に問えば、無力な私には差し当たり何ひとつ明快な答えは浮かび上がってこないのが無念。只たったひとつだけ思い起こす映画が私にはある。それが本作、『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』だ。

ここにはひとつの大きな困難に向き合い、そこから脱却しようとひたむきに戦う精神があり、知力があり、それに伴う手立てと作業がある。何も利するものもない過酷な悪条件下でもわずかな手掛かりを見出して、有効活用してみるという地道な試みがある。このレジスタンス活動の脱獄劇は実話である。私は大小問わず苦境に陥ったときがあると、決まって《静かなる闘士フォンテーヌ》を思い起こす。

文:関根忠郎

『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』はU-NEXT他で配信中

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『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』

1943年、ドイツ占領下のリヨン。ナチスに捕らえられたフランス軍中尉・フォンティーヌは監獄の独房に入れられた。脱獄を決意した彼は、扉の板を外すために鉄のスプーンを削り、枕の布でロープを自作するなど、着実に脱獄の準備を進めていくのだが……。

制作年: 1956
監督:
出演: