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規格外の大人気ファーストレディ “ミシェル・オバマ物語” Netflixドキュメンタリー『マイ・ストーリー』

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ライター:#野中モモ
規格外の大人気ファーストレディ “ミシェル・オバマ物語” Netflixドキュメンタリー『マイ・ストーリー』
Netflixオリジナルドキュメンタリー『マイ・ストーリー』独占配信中

アリーナ級の会場が熱気に包まれるミシェル・オバマの出版イベント!

ミシェル・オバマの自叙伝「マイ・ストーリー」(原題:BECOMING)は、2018年に刊行されて以来、世界累計1000万部以上が売れているという破格のベストセラーだ。日本でも2019年夏に翻訳が出版されている。本と同じタイトルを冠したNetflixオリジナル作品『マイ・ストーリー』は、世界34都市を訪問した彼女の“ブックツアー”に密着し、その半生と人柄を紹介するドキュメンタリーである。

Netflixオリジナルドキュメンタリー『マイ・ストーリー』独占配信中

欧米では新刊書籍のプロモーションとして作家が各地を旅して回り、書店などでトークやサイン会をおこなうのが常套手段となっており、これがブックツアーと呼ばれる。そうした催しで本の作者と読者たちが会話を交わすシーンを映画やドラマで見たことがある人も少なくないだろう。

第44代アメリカ合衆国大統領バラク・オバマの妻として、同国史上初のアフリカ系アメリカ人ファーストレディを2期8年にわたって務めたミシェル・オバマの場合、ブックツアーも規格外だ。東京ドームとは言わないまでも横浜アリーナぐらいの座席数は余裕でありそうな大会場が、彼女と同じ時間と空間を共有したいと願う人々でぎゅう詰めになるのだ。歌でも踊りでもスポーツの試合でもなく、お話をするだけで。

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That's a wrap! When I think about all the people who have come out to our events over these past few weeks, I think about a little working-class kid named Michelle LaVaughn Robinson—an ordinary girl who had some tales to tell, some failures and some successes, too. She had a lot to learn, a lot to experience, a lot to give—more than she ever could have imagined. I’ve spent a lot of time thinking about my story lately, and what I keep coming back to is that no matter where we came from, we all share so much. People of all backgrounds, skin colors, and political persuasions can relate to feeling uncertain or overwhelmed. We’ve all been a little frustrated by the slow, frustrating growth necessary to get where we want to go. We’ve all struggled with the balancing act that can take over days, years, or decades of our lives. And I want us all to remember that these are the moments and lessons that make us who we are -- every little twist and turn, every little bump and bruise, and ultimately every joys and every triumph, no matter how large or small. So I hope all of you believe in your story. I hope you recognize that what you see as a weakness might actually be a strength. I hope you recognize the power of your voice. And I hope you remind yourself that there isn't one right way to be an American. There isn’t one way to make your contribution in this country. So thank you all for your part of our story. Thank you for being who you are. And to everyone who’s read my memoir, or come to one of our events, or posted something online, thank you for being on this journey with me. Thank you for helping me continue to become. I hope my story can serve as a boost in your own process of becoming, too. I love you all. #IAmBecoming

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相手役がオプラ・ウィンフリーをはじめ有名人の中の有名人ばかりとはいえ、これは並大抵のことではない。そのスケールの大きさと観衆の熱気から、彼女がいかに特別な存在なのか、そしてアメリカという国がいかに他の国と違っているのかが浮かび上がってくる。

「自分の人生じゃなくなるの」「妹が世界一有名になるなんて経験するべきことじゃない」

ミシェル・ロビンソンは1964年、シカゴのサウスサイド地区に生まれた。決して裕福ではないが愛情あふれる家庭で育ち、プリンストン大学からハーバード・ロースクールに進学。法律事務所で弁護士として働いていた時にバラク・オバマに出会い、結婚した。自身も一流のキャリアを築いてきたミシェルだが、ふたりの娘の出産、そして夫の国政進出に伴い、家族のサポートに力を注ぐことに。その率直で人間味あふれるスピーチとフレッシュな存在感は、政敵からの攻撃の対象になったものの、結果的に“アメリカ合衆国史上初の非白人大統領”の誕生におおいに貢献した。

2017年1月にドナルド・トランプ夫妻にホワイトハウスを明け渡した彼女は、ファーストレディになれたことは自分の人生の中でこの上ない名誉だが、これほど重責を担う仕事は他にないと語る。一挙手一投足が注目の的となり、あらゆる仕草が分析され、「自分の人生じゃなくなるの」と。他人の目に晒されジャッジされるという誰もが日々生活するうえである程度は避けられないことを、彼女はものすごく極端なかたちで経験してきたのだ。

このブックツアーでは、大きなアリーナでのトークに加えて、もっとこぢんまりとした集まりで読者と直接に語り合う機会も設けられていた。支持者たちの談話からは、アメリカ合衆国において、“奴隷の子孫”であるミシェル・オバマがファーストレディとして活躍したことが、どれだけ大きな意味を持っていたのかをうかがい知ることができる。分断を乗り越えるために勇気を出して心を開き、自分の真実のストーリーを他の人々に伝えよ、そのためには自分のストーリーに価値があると信じなければ、という彼女の呼びかけは、今、国を問わず広く必要とされているものだろう。

Netflixオリジナルドキュメンタリー『マイ・ストーリー』独占配信中

ミシェルが少女時代を過ごしたシカゴの家の紹介や、母親と兄のインタビューもある(父親は既に他界)。成功した妹が誇らしいけれど、「妹が世界一有名になるなんて経験はするべきことじゃない」と語る兄の言葉は、実感がこもっていて印象的だ。護衛官やスタイリストといったミシェル・オバマの日常業務を支えるスタッフの仕事ぶりの紹介も興味深い。ミシェル曰く、ファッションにばかり注目されてしまう状況を利用し、自分を表現するツールとして「進歩的で若々しく多様性を重視する」装いを心がけたそうだ。

本作を監督したのは、ハリケーン・マリアの被災者たちを追ったNetflix短編ドキュメンタリー『アフターマリア:見捨てられた家族』(2019年)のナディア・ハルグレン。音楽は新世代ジャズのスター、カマシ・ワシントンが担当。あたたかい響きの劇伴に加え、カーク・フランクリン、フランク・オーシャンらの楽曲も見せ場を盛り上げる。

世界はあっという間に変わってしまうのだということを思い知らされる

マイノリティの人権を擁護し、親しみやすくあろうと努める知的でおしゃれなオバマ夫妻と愛らしい娘たちは、まさに理想のカップル、理想の家族に見える。身内びいきばかりで弱者に冷たい政策を次々に打ち出すトランプ政権そして安倍政権の惨状にうんざりしている身には、崇高な理想を堂々と謳う彼女たちの姿はあまりにもまぶしい。オバマ夫妻がホワイトハウスの主だった時代、同性婚の全州合法化や保険制度の改良など、アメリカ社会はマイノリティでもより生きやすい方向へとある程度は歩みを進めたように思える。

しかしその一方で、オバマ政権が大規模な軍事介入により世界のあちこちで人や環境を傷つけ命を奪ってきたこと、銃規制に及び腰で自国の市民にもたくさんの犠牲を出したことなど、負の側面も決して忘れてはならないだろう。そもそもファーストレディが重大な責務を担うシステムを当然のものとして受け入れたくない気持ちもある。それは人物の評価においてあたりまえのように“規範に則ったよき家族を築いていること”が求められる社会を象徴していると思うから。

ミシェル・オバマはこのドキュメンタリーで、アリーナを埋める大観衆に「集まることの力」について語っている。COVID-19感染拡大を受けて、人との身体的距離を縮めることが危険に直結するとされている2020年5月現在、世界はあっという間に変わってしまうのだということを思い知らされる映像だ。社会的弱者がますます困難な立場に追いやられていくこの状況下で、私たちはどうすれば想いを共有し、つながりあうことができるのか。個人のストーリーは歴史という大きなストーリーと結びついており、よりよい社会を築いていけるかどうかは今を生きる私たちひとりひとりの肩にかかっているのだ。

文:野中モモ

『マイ・ストーリー』はNetflixで独占配信中

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『マイ・ストーリー』

自伝「マイ・ストーリー」の出版ツアーで、人生や人とのつながり、希望について語るミシェル・オバマ元大統領夫人の姿をカメラに収めた密着ドキュメンタリー。

制作年: 2020
監督:
出演: