難解な過去作の“答え合わせ”を促す不思議なドキュメンタリー『ホドロフスキーのサイコマジック』

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難解な過去作の“答え合わせ”を促す不思議なドキュメンタリー『ホドロフスキーのサイコマジック』
『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

ホドロフスキー自身が考案した行動療法“サイコマジック”とは?

某大学の映像学科に入学した2008年。オールタイムベストが『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年)だった僕は随分と周りに小馬鹿にされた記憶がある。面倒なマウンティングに巻き込まれるのは最悪だ~と、大量の映画がアーカイブされた図書室に向かい、名前だけ知っていたアレハンドロ・ホドロフスキーの『エル・トポ』(1969年)を観た。全体に漂う不穏のムードはサイケデリックであり、理解できなさが魅力的で、取り憑かれるような感覚を憶えた。

『ホドロフスキーのサイコマジック』は、ホドロフスキー自身が考案した行動療法“サイコマジック”を使い、相談者の心の闇を取り除く様子を捉えたドキュメンタリーであると同時に、過去作の演出と紐付けて解読していくという二本筋で話が進んでいく。

『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

“サイコマジック”というのは、科学に基づいて行われるフロイトの精神分析とは対をなす「行動」を使った分析である。タロットを用い、現在の状況にピントをあて、理解を深め、行動し、癒していくというもの。

その行動は相談者それぞれに合わせて実施されるのだが、過去のホドロフスキー作品を鑑賞したときに疑問符がついていた様々な表現と共通項があって、過去作を鑑賞しておくと「こういうことだったんだ~」という答え合わせのような感覚になる。なお、未見の人でもホドロフスキーの演出への理解ができる親切な作りになっているのでご安心を。

『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

どこかオカルティックで不気味ながらも美しい、だけど解けないホドロフスキーの謎

本作を観て最も強く感じたのは、オカルトの必要性というか、信仰するものがある安心感だ。数組いる相談者は、いずれも“家族”“恋人”“血筋”などの問題を抱えていて、それぞれに囚われている。不安やトラウマなどに触れる際、圧倒的なパワーで対面するホドロフスキーの「月経の血で自画像を描け!」などといったぶっ飛び発言にはオカルトを感じざるを得なくて、少し笑ってしまった。

『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

けれども、ホドロフスキーと対峙した後の相談者たちは、瞳孔が開いてるんじゃないかと思うくらい清々しい感情に満ちている。その清々しさが、ちょっとだけ過剰で恐ろしくもあるのだけれど、不安を抱えた人々の精神的支柱としての信仰の重要性も感じさせる。相談者の中でも、ある夫婦の問題が解決し各々の(物理的な)鎖を外して離別する描写は、不気味でありながらも美しく思えた。

『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

とはいえ見終わってからもたくさんの疑問は残り、ホドロフスキーってやっぱりわかんないねえー。ホドロフスキー好きを公言する人はマウンティングで言ってるんじゃないの? なんてことを思ってしまう。ただ、なかなか彼の考えを理解できる人もいないでしょうにと思う反面、そのわからなさや、理解をはみ出した中の得体の知れなさによって本来可視化されない欲望が描かれているところに、強く惹かれているのかもしれない。ホドロフスキーが描く人間というものを、自分と同じ生き物だと思いたくないという感情を抱えながらも見たくなってしまう僕だって、きっと同じ人間なのだ。

『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

そんな謎を紐解くはずの本作を見て、また頭の中に残る新しいはてなを解消するために、ホドロフスキーの次作も観にいくのだろう。その行動がまたホドロフスキーの考えた壮大な“サイコマジック”のひとつなのかも。

『ホドロフスキーのサイコマジック』©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

文:巽啓伍(never young beach)

『ホドロフスキーのサイコマジック』は2020年6月11日(木)まで「寄付込みオンライン先行上映」配信中、6月12日(金)より全国順次公開

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『ホドロフスキーのサイコマジック』

「サイコマジック」とはホドロフスキーが考案した心理療法である。本作では自身のこれまでの作品での映像表現が、いかに「サイコマジック」という技法によって貫かれているかを解き明かしていく。実際にホドロフスキーのもとに悩み相談に訪れた10組の人々が出演し、「サイコマジック」がどのように実践され、作用しているのかを描く。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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