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コーチェラでの女王の大舞台を見て、共に歌い踊ろう!『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』

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ライター:#野中モモ
コーチェラでの女王の大舞台を見て、共に歌い踊ろう!『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』
Netflixオリジナル映画『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』独占配信中

春といえば、例年ならコーチェラの話題でもちきりの季節。過去20年、ロック、ダンスミュージック、ヒップホップ、ポップなど、さまざまなジャンルの最新動向に目を配ったプログラムで絶大な人気と信用を獲得してきた音楽フェスティバルだ。アメリカ合衆国カリフォルニア州の砂漠地帯コーチェラ・ヴァレーに巨大なパーティが出現し、その模様はライブ配信され世界の注目を集める。2012年以降、4月中旬の金・土・日の週末、2週連続での開催が定着していたが、2020年は残念ながらCOVID-19感染症の流行に伴って延期が決定された。

Netflixオリジナル作品『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』は、2018年のコーチェラでのビヨンセのライブと、そのバックステージを収めたドキュメンタリーだ。その素晴らしさと文化的背景についてはもうすでにいろいろなところでさんざん語られているが、近年有数の元気が出て気合いが入る映像作品として、ここで改めて紹介したい。

黒人女性アーティストとして初めてコーチェラのヘッドライナーに!

現在は多彩なラインナップを誇っているものの、もともとインディーロックの文脈からスタートしたコーチェラは、やはり演者も観客も白人の占める割合が高く、黒人女性アーティストがヘッドライナーを務めたのはこの年のビヨンセがはじめてだ。したがってこのショウはひとつの歴史的偉業であり、開幕前から「Beychella(ビーチェラ)」と呼ばれて大きな期待が寄せられていた。そんな大舞台のテーマに彼女が選んだのは、HBCU(Historically Black Colleges and Universities 歴史的黒人大学)だった。

Netflixオリジナル映画『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』独占配信中

公民権運動の成果により、アメリカ合衆国の教育の場での人種差別が違法とされたのが1965年。HBCUはそれ以前から黒人たちに高等教育の機会を提供してきた大学群を指す。ビヨンセは、このHBCUの文化として知られるマーチングバンドとダンスのスタイルを、自分のステージに取り入れたのだ。総勢200名以上という出演者たちが、お揃いの「ビヨンセ大学」エンブレム入りのスウェットでピラミッド型の大階段にずらりと並ぶ姿は壮観。おなじみのヒット曲の数々も歯切れのいいビッグバンド仕様にアレンジされ、大きな広がりと高揚感が生まれている。

『HOMECOMING ビヨンセ・ライブ作品』は、コーチェラでの2回のパフォーマンスからの映像(黄色い衣装が1週目、ピンクの衣装が2週目)に、数ヶ月にわたる準備期間の記録が挿入される構成になっている。ニーナ・シモンやオードリ・ロードなど黒人の偉人たちの言葉が引用され、ビヨンセがこのショウに込めた想いも語られる。幼い日のビヨンセはHBCUに憧れていたけれど、10代半ばからガールグループの一員としてステージに立ってショウビジネスの最前線で活躍することになり、進学は叶わなかった。「ディスティニーズ・チャイルド(1997年デビュー、2005年解散)が私の大学だった」と彼女は語っている。

使い切れないほどの莫大な富を手にしたはずのビヨンセを突き動かすものとは?

ビヨンセはもともと2017年のコーチェラに出演する予定だったのだが、思わぬ妊娠が明らかになり、この年はキャンセルした。2012年の長女に続く二度目の出産だったが、こんどの双子はたいへんな難産で緊急帝王切開に至ったという。出産当日の体重は218ポンド(約99キログラム)まで増えていた。カメラは彼女がふたたびステージに立つために体型を整え、また体力を取り戻そうと、厳格なダイエットとトレーニングに励む姿も追う。真剣なまなざしでリハーサルに取り組み、愛する家族とくつろぎ、妊娠前の衣装がまた着られるようになって大はしゃぎ……舞台裏での豊かな表情を見ると完成したステージのありがたみが増すし、好きにならずにいられない。

Netflixオリジナル映画『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』独占配信中

もうすでに人生何周でも遊んで暮らせるだけの莫大な富を手にしているはずの彼女を、ここまで体を張ったすさまじい重労働に向かわせるものはいったい何なのだろう。それはやはり「これまでの歴史上ずっと弱い立場に置かれ、見過ごされがちだった人々――黒人そして女性――には立派な力があることを世界に示すのだ」という強力な信念、そして創作とパフォーマンスそれ自体にある喜びなのだろうな、と思う。

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私自身はもともと彼女の曲の「お金なら腐るほど稼いでるし」という方向のセルフボーストの流儀や猛烈な家族愛にたじろいでしまうほうだ。商売上手なスターが貧しい大衆からお金を集めて大企業をますます富ませる構造を批判的に捉える視点も忘れたくない。それでもビーチェラには、人が集中して何かに打ち込む姿って美しいなあ、と感嘆のため息が出てしまう。それがつまりは優れたパフォーマンスの魔力ということなのだろう。

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自主隔離で鬱々……でも前を向き、共に歌い、尻を振ろう!

ビッグバンドを乗りこなす緩急自在のヴォーカルに女王様然とした立ち居振る舞い、超一流アーティストの一世一代の大舞台だ。「浮気絶対許さねえ」曲での激しい怒りの咆哮も、たまに見せるいたずらっぽい笑顔も、完璧にコントロールされているのにすごく生きている感じがする。

ケリー・ローランドとミシェル・ウィリアムズを迎えたディスティニーズ・チャイルドの再結成、夫のジェイ・Z、妹のソランジュ、フランスの双子ダンスユニット「レ・ツインズ」の客演もあって飽きさせない。これまでビヨンセとその周辺の音楽に親しんでこなかった人にも届くパワーがあるのではないだろうか。

2020年4月にYouTubeで公開されたコーチェラ20周年ドキュメンタリー『Coachella: 20 Years in the Desert』とあわせて鑑賞して、アメリカのポップミュージック史に思いを馳せるのも一興。

非常事態に心も体も重苦しくなってしまいがちな現在、ビヨンセほど自分に厳しくなるのは無理でも、とりあえず部屋で一緒に歌ってみたり尻を振ってみたりするのはいかがだろう。運動不足解消になるのはもちろん、あなたが自分の中に眠っている強さを呼び醒ますことをビヨンセは応援してくれるはず。私も改めて「ボロは着てても心はディーヴァ」の意気を持ち続けたい、と思った。

文;野中モモ

『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』はNetflixで独占配信中

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『HOMECOMING:ビヨンセ・ライブ作品』

コーチェラ・フェスティバル2018でビヨンセが魅せたパフォーマンス。ショーとしてのコンセプトから文化的メッセージまで、そのすべてに熱い想いが込められている。

制作年: 2019
監督:
出演: