S・キングへのオマージュ!? 観終わっても謎だらけ!“騙し”のサスペンス『告白小説、その結末』

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ライター:大倉眞一郎
S・キングへのオマージュ!? 観終わっても謎だらけ!“騙し”のサスペンス『告白小説、その結末』
『告白小説、その結末』© 2017 WY Productions, RP Productions, Mars Films, France 2 Cinéma, Monolith Films. All Rights Reserved.

一生一本

人は誰でも一生に一本は小説が書ける、という夢のような話をまことしやかに語る友人がいて、「そうだ、その通り」と何の裏付けもなく激しく同意し、俺も一本と言わず、10冊くらいは出版して、老後はその印税でのんびり暮らしながら、雑文書いて、気楽に暮らす、と確信を持って人生設計をしていた。ところが気が付いてみれば、なんと今年で63歳。すでに老後じゃん。実は筆者、本はこれまで2冊出版しているが、一冊は旅の話と写真で構成していたので、全然小説じゃない。もう一冊は11年間続いていた杏さんと一緒に本を紹介するラジオ番組を書籍化したものなので、これも物語とは全く関係がない。

小説を書こう、そのうち書こう、もう少し構想を練らなきゃ、構想ってどう練るんだっけか、だいたい物語ることってどういう意味だ、まるっきりなに書いていいんだかわからない、ということになり、ついにほぼ小説で生きていくことを断念。それでも恐ろしいことに、一本は書くんだろうな、中編で芥川賞、と夢想している自分がいる。

面白いかどうか、評価されるかどうかは置いといて、自分の体験をなぞったものを書くことは難しくない。日記プラスアルファだから、誰にでも書ける。みんなブログをあれだけ書いているんだから、いちいち宣言するほどのことではない。私も「大倉眞一郎の迷走」というタイトルで、比較的暇だった頃、約3年間、毎朝起床するなり1~2時間で書きなぐって、上げていたことがある。いま読み返すと涙が出るほど悲しいシロモン。興味があっても読まないで

私は父親のことをテーマに書いちゃおうかな、と多少の取材を始めているところ。母親が亡くなってから発表するつもりだが、あと20年は無理。

「家族」について書く

『告白小説 その結末』(2017年)では細かな内容は明らかにされないが、主人公のデルフィーヌは母親との葛藤、家族について赤裸々に綴った「小説」を発表する。それが大ヒットとなり、サイン会でも長蛇の列、マスコミにも追いかけられ、時代の寵児となる。しかし、どうにも浮かれた気分にはなれない。それどころか憂鬱。自分の抱えていた苦い記憶を文字に起こし、発表したものが売れているという状況に馴染めない。それに追い打ちをかけるように、家族の誰かとおぼしき名を名乗らない人物から「自分の家族の内情をぶちまけて、家名を汚した」と彼女を弾劾する内容の手紙が何通も届く。

『告白小説、その結末』
価格:DVD 3,800円+税
発売元:㈱キノフィルムズ/木下グループ
販売元:TCエンタテインメント

憂鬱な作家は続編ともいうべき次作を期待されているが、もう自分のことについては書きたくない。でも、なにを書けばいのか構想はまとまらない。書けない。どうすればいいの、という苦境に追い込まれていたところに、彼女の小説のファンでゴーストライターをやっているという美女が現れる。彼女の名前はELLE(エル)。フランス語で「彼女」という意味。変わった名ではあるが、特に気にはならない。エルは他人の人生を書くのはつまらない、とこぼすが、そのぶんデルフィーヌの小説には激しく共感する。デルフィーヌは自分と重なる闇を持つ彼女と話をすると癒される。

『告白小説、その結末』© 2017 WY Productions, RP Productions, Mars Films, France 2 Cinéma, Monolith Films. All Rights Reserved.

ところが、一番言われたくない本当のことをズバズバ突いてくるので、耐えられない息苦しさも感じる。「次作はフィクションを書く。自分の話はもうこれ以上は書かない」と苦しみを訴えるデルフィーヌに、「続編以外、書く意味がない。フィクションにはなんの価値もない」と責め立てる。「そのために自分にできることはなんでもやってあげる。一緒に住む。メールの整理、雑用、なんでもやるわ」。グイグイくるエルに対して疑いも持つが、もはや彼女なしではデルフィーヌは自分を支えられない。

二人のやりとりに、観る者は不快さを隠せないだろう。なぜこんな女に支配される? ゴーストライターの前は企業のコンサルをやっていて、問題点を洗い出し、解決に導く仕事をしていたというエルは何者なのか。何を企んでいるのか。デルフィーヌは結局、何がしたいのか?

『告白小説、その結末』© 2017 WY Productions, RP Productions, Mars Films, France 2 Cinéma, Monolith Films. All Rights Reserved.

「騙し」のポランスキー

この映画の冒頭、いきなり英語で「Based on a true story」とスクリーンに出てくるので、「あ、そうなの?」と思ってしまうけど、実はこれが映画のタイトル。ややこしい。観終わっても謎だらけ。何が起こったのかは観る人が判断するしかない。

『告白小説、その結末』© 2017 WY Productions, RP Productions, Mars Films, France 2 Cinéma, Monolith Films. All Rights Reserved.

で、原作であるデルフィーヌ・ド・ヴィガンの「デルフィーヌの友情」を読んだ。こちらも原題を訳せば「実話に基づいて」。長いけど吸い込まれるようだった。この小説、なんとスティーヴン・キングへのオマージュとなっている。映画を観ている時には全く気がつかなかったが、なるほど、確かにそうだった。

原作の小説と映画で「私」を混乱に陥れる。ある意味、不快なテーマだが、書くということについて改めて認識を新たにした次第。小説を書こうとバカなことを考えている人は必見。ロマン・ポランスキー、嫌な奴。

『告白小説、その結末』© 2017 WY Productions, RP Productions, Mars Films, France 2 Cinéma, Monolith Films. All Rights Reserved.

『告白小説、その結末』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年5月放送

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『告白小説、その結末』

自殺した母親との生活を綴った私小説がベストセラーとなった後、スランプに陥った作家デルフィーヌ。そんな彼女の前に、熱狂的なファンだという美女エルが現れる。謎の脅迫状にも悩んでいたデルフィーヌは、献身的なエルに信頼を寄せ、一緒に暮らし始めるが……。

制作年: 2017
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
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