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まるで予言!? 新型ウイルスの恐怖をリアルな科学考証とシミュレーションで描く『コンテイジョン』

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ライター:#椎名基樹
まるで予言!? 新型ウイルスの恐怖をリアルな科学考証とシミュレーションで描く『コンテイジョン』
『コンテイジョン』WARNER BROS. / Allstar Picture Library / Zeta Image

新型インフルエンザの恐怖を描くディザスタームービー!

コロナウイルスの影響で自由が制限され、長く社会活動が停滞している。52年間生きてきて、こんな状況は初めてだ。驚き苛立つ。しかし、どこかSFめいた、非現実の中で生活しているような、奇妙な感覚も覚える。

スティーヴン・ソダーバーグ監督による映画『コンテイジョン』は、インフルエンザの世界規模のパンデミックを描いた作品で、都市のロックアウト、食料・日用品の買い占め、隣人への疑心暗鬼など、現在の社会状況を予見したような内容だ。

タイトルの「コンテイジョン」とは「接触感染」の意味で、社会性の強い作風の映画制作会社<パーティシパント・メディア>の作品である。 2011年に公開されたこの作品は、2009年の新型インフルエンザの世界的流行と、2003年のSARSの発生を受けて制作されたのだろう。ウイルスの感染力の強さはインフルエンザを、あっという間に死に至る症状はSARSを、それぞれ想起させる。

本作はインフルエンザをテーマにした、いわゆるディザスタームービーである。したがって、他のディザスタームービーと同じく世界各国を舞台にした群像劇だ。しかし『コンテイジョン』が他のディザスタームービーと一線を画す点は、作中で展開される状況が、まるでシュミレーションを見ているようにリアルなことだ。映画が現実となったような、今の状況に鑑みると、この作品が専門家への入念な聞き込みのもとで作られていることを、皮肉にも証明している。

『コンテイジョン』WARNER BROS. / Allstar Picture Library / Zeta Image

パンデミック下における社会状況の描写と共に、ウイルスに対抗する医療チームも非常にリアルに描かれている。「ウイルスハンター」なる職種を初めて知った。それは、現地に赴いて他人に聞き込みを行い、ウイルスの感染ルートを辿っていく地道な仕事だ。感染ルートを探ることがワクチン開発には重要だそうだ。この仕事は自身も感染の危険に晒される。使命感がなければ務まらない仕事である。ケイト・ウィンスレットがその役を演じた。

M・デイモン、K・ウィンスレット、G・パルトローら超豪華キャスト競演!

もう一つ『コンテイジョン』で特筆したいのは、キャストの豪華さである。マット・デイモン、ジュード・ロウ、マリオン・コティヤール、ケイト・ウィンスレット、ローレンス・フィッシュバーン、グウィネス・パルトロー。ビックネームが並ぶ。しかし、群像劇のため各俳優が絡み合うことはなく、個性がぶつかり合い、嘘くさくなることをうまく回避している。

ミッチ(マット・デイモン)の妻であるベス(グウィネス・パルトロー)が最初の媒体となり、香港からシカゴにウイルスを持ち込んでしまう。ベスは浮気相手に会うためにシカゴに立ち寄ったのだった。なんともやり切れないストーリーを入れ込んだものだと思う。ベスは帰宅後に発症し、さらに息子にも感染させてしまい、二人とも死亡する。

『コンテイジョン』WARNER BROS. / Allstar Picture Library / Zeta Image

ベスは死後解剖で、頭皮を剥がされる。額の部分で繋がっている、裏返った生々しい頭皮を、自らの顔面に掛けられるという非常におぞましいシーンである。浮気した妻へのパニッシュメントとも思えるシーンが差し込まれるところが、なんともハリウッド映画的に思える。

また、これは完全に余談であるが、この原稿を書くにあたって、グウィネス・パルトローを検索したところ、ブラッド・ピットとの婚約と破局、コールドプレイのボーカル、クリス・マーティンとの離婚、敬愛し親友だったマドンナと決裂、親友のウィノナ・ライダーと絶縁など、非常に激しい人間付き合いをしていて、個人的に俄然興味が湧いてしまった(笑)。

意思を持った生物のよう……「ウイルス」と「マネー」の不気味な関係性

2009年の新型インフルエンザは、終息に約1年かかった。今回のような非常事態にならなかったのは拡大の規模が小さかったからだ。深刻な事態にはならなかったが、逆にそれがきなくさい告発を招いた。

欧州評議会の保健委員会長が、2009年の新型インフルエンザは、大企業がワクチンを売るために「偽りのパンデミック」を宣言するようWHOに圧力をかけた、医学スキャンダルの1つだと述べた。イギリスの医師会雑誌の編集長は、パンデミックを担当するWHOの顧問に、抗ウイルス薬とワクチンを生産している製薬会社との間に金銭関係があるという調査を発表した。

『コンテイジョン』でも1200万人のフォロワーを持つブロガー、アラン(ジュード・ロウ)が、WHOと製薬会社の癒着の陰謀論を唱える。しかし、彼は株式投資で一儲けをたくらんでデマを流して、証券詐欺で逮捕される。これは、件の告発者に対する当てつけのストーリーなのだろうか? 彼らはブロガーなどではなく、非常に権威ある機関の責任ある立場の人間であるが……。なんともモヤモヤする。

人間が、そのコントロールに苦慮している2つの巨大なモンスター、「ウイルス」と「マネー」が密接に関係しあっている現実は、身の毛がよだつほどの不気味さだ。ウイルスは細胞がなく、自己増殖できないので「生物」とは認められない。一方で遺伝子を有する。「生物」「非生物」両方の特性を持っている。ウィルスに「種の保存」や「生息域拡大」の本能はあるのだろうか? また「マネー」は、増殖する意志を持つ生き物のようみえる。文明の産物である「ウイルス」も「マネー」も、オカルトじみた存在に思える。

文:椎名基樹

『コンテイジョン』はNetflixほかで配信中

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『コンテイジョン』

香港出張からアメリカに帰国したベスは体調を崩し、2日後に亡くなる。時を同じくして、香港で青年が、ロンドンでモデル、東京ではビジネスマンが突然倒れる。謎のウイルス感染が発生したのだ。新型ウイルスは、驚異的な速度で全世界に広がっていった。
米国疾病対策センター(CDC)は危険を承知で感染地区にドクターを送り込み、世界保健機関(WHO)はウイルスの起源を突き止めようとする。だが、ある過激なジャーナリストが、政府は事態の真相とワクチンを隠しているとブログで主張し、人々の恐怖を煽る。その恐怖はウイルスより急速に感染し、人々はパニックに陥り、社会は崩壊していく。国家が、医師が、そして家族を守るごく普通の人々が選んだ決断とは──?

制作年: 2011
監督:
出演: