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音楽を武器に世界を変える!反差別運動を描いた超パンクなドキュメンタリー『白い暴動』を監督が語る

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ライター:#佐藤久理子
音楽を武器に世界を変える!反差別運動を描いた超パンクなドキュメンタリー『白い暴動』を監督が語る
『白い暴動』Photograph by Ray Stevenson

ザ・クラッシュの1stアルバムと同じ名を冠したパンクなドキュメンタリー

『白い暴動』という題名を目にして、同名のアルバム(英題は『The Clash』)でデビューした英国パンクバンド、ザ・クラッシュのドキュメンタリーかと思ったが、そうではない。これは70年代後半にザ・クラッシュとも関わりのあった、英国で人種差別反対を唱えた団体「ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)」を追ったドキュメンタリーである。

『白い暴動』

もっとも、このムーブメントは音楽とは切っても切り離せない。なぜならきっかけは、エリック・クラプトンが1976年にステージで放った「移民は自国に帰れ」という差別発言にショックを受けて始まったものだから。本作は、そんなRARのムーブメントがどんどん支持者を増やし、ついに10万人のデモ行進と、ロック・フェス(ザ・クラッシュも出演)を実現させた状況をドキュメントしたものだ。

監督は英国生まれながら、自身もイランとパキスタンにルーツを持つルビカ・シャー。彼女は子供の頃、両親が差別を受けていたことから、この時代に若者たちをも巻き込んだ極右主義の風潮について調べるうちにRARのことを知り、映画にしようと思い立ったという。強い意志と熱いモチベーションをたたえた彼女に、話を聞いた。

「当時のRARの闘いは今日の社会にも繋がるし、とても触発される」

わたしがこの時代のナショナリストたちに興味を持ったのは、両親から人種差別について聞かされてきたことにあります。とはいえ父と母はそのことについて、詳しく話そうとはしませんでした。きっと、わたしに負の影響を与えたくなかったからでしょう。

とにかく、この時代に興味を持ってリサーチをするうちにRARのことを知り、デヴィッド・ボウイに関する短編ドキュメンタリー『Let’s Dance: Bowie Down Under』を一緒に作ったジャーナリストのエド(エド・ギブス/本作のプロデューサー兼共同脚本家)と、RARについての短編(『White Riot』)を作りました。

『白い暴動』photograph by Syd Shelton

幸い短編の評判がよかったので、長編を作ることしたのです。RARについてはこれまで光を当てられることがなかったし、この時代の彼らの闘いは、今日の社会にも繋がるとても触発されるものになるだろうと思ったからです。

でも長編を作り始めた5年前は、まだトランプが大統領になることもブレクジットもなかった。実際、この映画を作っている最中にそういったことが起こり、わたしたちはこの作品のテーマと今日の社会との関係性をもっと意識するようになったのです。

『白い暴動』

「若い世代に訴えかけること、それこそがこの映画を作った目的」

制作中に、世の中がどんどん右に傾いたせいで、いまや本作で描かれていることがより切実なものとなって観る者に迫ってくる。

『白い暴動』

ドキュメンタリーとして本作がユニークなのは、題材だけではない。当時の音楽に合わせた畳み掛けるようなテンポと、貴重なアーカイブ映像はもとより、アニメーションなど独自のファンキーな映像を混ぜた、エンターテインニングな仕上がりになっていることだ。こうしたスタイルについて、シャー監督はこう語る。

最初から、この映画は当時を知る人々だけではなく、いまの若い人にも観てもらうことを視野に入れていました。そういった点で、前作の短編とは異なる、何かフックになるスタイルが欲しかった。だからアーカイブ映像だけではなく、アニメーションを混ぜることにしました。それにRARが当時発行していた雑誌はとてもセンスが良く、アーティスティックでクリエイティビティに溢れていた。そんな彼らへのオマージュも込めて、こうした手法を用いたのです。

『白い暴動』ルビカ・シャー監督

わたしにとって、若い世代に訴えかけること、それこそがこの映画を作った目的でもありました。あの時代、彼らはこんな素晴らしいことを成し遂げた。ならばわたしたちにだって何かできるじゃないかと、みんなに感じて欲しい。彼らのムーブメントは、わたしたちのイマジネーションを触発するような、大きな刺激に溢れたものだったと思うのです。

『白い暴動』photograph by Syd Shelton

「何か訴えたいことを多くの人に届けるために、音楽は大きな効果を発揮する」

本作は2019年、ワールドプレミアを迎えた第63回BFIロンドン映画祭でみごと最優秀ドキュメンタリー賞に輝き、2020年2月の第70回ベルリン国際映画祭では、ジェネレーション部門14plusで披露され、スペシャルメンション賞(準グランプリ)を受賞した。実際ベルリンの会場は、当時を知る大人よりも、むしろ10代から20代の若者たちが過半数を埋めていたように思う。上映後のQ&Aでも、若い層から熱心な質問が飛び交った。

『白い暴動』photograph by Syd Shelton

これまで音楽と関わりのあるドキュメンタリーを制作してきたシャー監督だが、音楽は彼女にとってどんな存在なのだろうか。

音楽はいろいろな楽しみ方があると思います。リラックスしたり、気分を高揚させたり。わたし自身もロックだけでなく、いろいろな音楽が好きですよ。もちろん、すべての音楽に政治的なメッセージが込められなければいけないわけではないでしょう。

でも、音楽は世界を変える手段にもなり得る。あの時代の彼らは音楽を武器にした。わたしたちが何か訴えたいことがあるとき、それを多くの人に届けるために、音楽は大きな効果を発揮すると思います。

『白い暴動』

現在はデヴィッド・ボウイに関する長編ドキュメンタリーを、再びエド・ギブスとともに準備中だという。彼女のことだから、きっとまたユニークなドキュメンタリーを披露してくれるのではないか。今から待ちきれない思いだ。

文:佐藤久理子

『白い暴動』は2020年4月3日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

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『白い暴動』

経済破綻状態にあった1970年代のイギリス。市民が抱いていた不安と不満は、第二次世界大戦後に増加した移民たちへ転嫁されていった。街は暴力であふれかえり、黒人やアジア人が襲われた。そのなかで、レッド・ソーンダズを中心に数人の仲間たちで発足された“ロック・アゲインスト・レイシズム”、略称RARは、人種や生まれによる差別の撤廃を主張し、雑誌を自費出版して抗議活動を始める。RARの発信するメッセージはやがてザ・クラッシュをはじめ、トム・ロビンソン、スティール・パルス等の音楽と結びつき、支持されていく。

1978年4月30日、RARが決行した約10万人による大規模なデモ行進と、その終着地での音楽フェスは市民が一つになった瞬間であり、観る者の心を揺さぶる。監督はBBCでドキュメンタリー番組を手掛けてきたルビカ・シャー。彼女自身もアジア系移民の家族に生まれ、両親が直面した人種差別について聞き興味を抱いたことで製作を決意。わずかな若者たちから始まり、時代を動かす程の運動へと拡がった若者たちの闘いに、当時の貴重なアーカイブと本人たちへのインタビュー、彼らに賛同したアーティストたちの圧巻のパフォーマンスで迫る。

制作年: 2019
監督: