「未来への不安や恐れを描きたかった」ポン・ジュノ監督『パラサイト』とコロナウイルスを語る

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ライター:BANGER!!! 編集部
「未来への不安や恐れを描きたかった」ポン・ジュノ監督『パラサイト』とコロナウイルスを語る
ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』

祝『パラサイト』オスカー獲得!ポン・ジュノ&ソン・ガンホ凱旋来日

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』(2019年)が、第92回アカデミー賞において作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞した。これまでアカデミー賞において外国語映画が作品賞を受賞したことはなく、今回の出来事は歴史的な快挙といえるだろう。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

日本からの反応も好調だ。2020年1月の公開直後から連日多くの観客が劇場につめかけており、2月22日時点で動員で220万人、興行収入は30億円を突破。公開1ヶ月ほどで、日本における韓国映画の歴代興行収入1位に躍り出た。

ソン・ガンホ(左)ポン・ジュノ監督(右)『パラサイト 半地下の家族』

表現したかったのは「人間同士の礼儀が失われた時に何が起こるか」

そんな状況を受けて、ポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホが、およそ1ヶ月ぶりに来日を果たし、2月23日(日)に日本記者クラブにおいて会見を行った。第92回アカデミー賞での受賞直後ということもあり、異例とも言える数の報道陣が集まり、お祝いムードで二人を迎えた。

ソン・ガンホ(左)ポン・ジュノ監督(右)『パラサイト 半地下の家族』

しかし、監督は至って冷静に「カンヌとオスカーの受賞やランキングに入り続けていることは光栄だが、本来の目標ではない。劇場に足を運び、熱い反応をくれた観客にこそ感謝したい」と胸中を明かす。

そんなポン監督は、『パラサイト』の大ヒットについて、「貧富の差を描いたことに注目が集まっているが、大胆なストーリー展開や俳優たちの素晴らしい演技によるところが大きい」と話す。たしかに、同作に出演している俳優たちの演技は素晴らしかった。例えば「におい」についての表現だ。

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』

言うまでもないことだが、スクリーンに映ることのない「におい」を観客にイメージさせることは難しい。にもかかわらず『パラサイト』を観ていると、様々な生々しい臭気が漂ってくるのだ。監督は「今回のような(演技が難しい)シナリオを書くことができたのも、俳優の力を信じていたからです」と脚本執筆を振り返る。表現したかったのは、「人間同士の礼儀が失われた時に何が起こるか」だ。

「におい」は、人の経済状態や労働環境を反映している。だからこそ不用意に指摘すれば大きく礼を失することにもなりかねない。そして『パラサイト』では、偶発的に「におい」への指摘が行われ、その結果「ある重要な出来事」が起こってゆく。

ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』

「ウイルスに感染すること以上に、人間の心が作り出す不安や恐怖が恐ろしい」

今回の会見で印象的だったのが、多くの人が『パラサイト』のメインテーマと捉えている「貧富の差」についての指摘だ。監督いわく、本作の目的は「格差拡大」を暴き出すことではなく、「格差問題を解消できないのではないか」という「不安や恐怖」を描くことだったのだとか。

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』

監督は、東アジア地域を中心に世界中をパニックに陥れている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、『パラサイト』と同じく人間の不安や恐怖を描いた『グエムル 漢江の怪物』(2003年)を引き合いに次のように語る。

「実は、ウイルスが存在していなかった『グエムル』の世界と、我々の現実では少し事情が違います。とはいえ(コロナ)ウイルスに感染すること以上に、人間の心が作り出す不安や恐怖が恐ろしいのは同じ。『グエムル』でも描いたことですが、何かを恐れすぎたり、過剰に反応することで、逆に状況の克服が難しくなってしまうことなども考えられます。そこに国や人種に対する偏見が加わったりすれば、本当に恐ろしいことが起こる。私はもうじき解決すると信じていますが……」

ソン・ガンホ(左)ポン・ジュノ監督(右)『パラサイト 半地下の家族』

終盤はコロナウイルスや感染拡大に伴う差別やヘイトクライムについて、シリアスに語った監督だが、実はメッセージを声高に叫ぶのは大の苦手なのだとか。「メッセージやテーマを伝えるなら、真顔ではなく冗談交じりが好きなんです。俳優の素晴らしい演技のもと、映画として面白く伝えたいですね」と語る。

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』

『パラサイト』は、そんな監督の思いを如実に反映した作品だ。いま同作を通じて、ポン・ジュノのメッセージは世界中に広がりつつある。そして、これまで格差問題について考えたことがなかった人々さえも議論に巻き込んでいる。同作の舞台となったソウル市内では、なんと半地下住宅に暮らす人々に対して、行政からの補助金支出が決定した。『パラサイト』は、そしてポン・ジュノ監督は、間違いなく社会を変えつつある。

ソン・ガンホ(左)ポン・ジュノ監督(右)『パラサイト 半地下の家族』

『パラサイト 半地下の家族』は2020年1月10日(金)より公開中

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『パラサイト 半地下の家族』

過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族だ。

“半地下”の家は、暮らしにくい。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が悪い。Wi-Fiも弱い。水圧が低いからトイレが家の一番高い位置に鎮座している。家族全員、ただただ“普通の暮らし”がしたい。「僕の代わりに家庭教師をしないか?」受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる。“受験のプロ”のギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。

パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。

制作年: 2019
監督:
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