薬物、借金……大女優の半生を描いた『ジュディ 虹の彼方に』 今昔の“ショービズ界”を考える

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ライター:野中モモ
薬物、借金……大女優の半生を描いた『ジュディ 虹の彼方に』 今昔の“ショービズ界”を考える
『ジュディ 虹の彼方に』©Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

レネー・ゼルウィガーが『オズの魔法使』で知られるミュージカル女優を熱演!

ジュディ・ガーランドはハリウッド黄金期を代表するミュージカル・スター。1939年、16歳で『オズの魔法使』の主演に抜擢され、世界に知られる顔となった。『ジュディ 虹の彼方に』(2019年)は、そんな彼女が47歳で生涯を閉じるおよそ半年前、1968年から1969年の冬にロンドンの舞台に立った日々を描いている。レネー・ゼルウィガーがジュディ役を熱演し、第92回アカデミー賞主演女優賞を獲得したことでも話題の作品だ。

『ジュディ 虹の彼方に』©Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

『オズの魔法使』以降も、『若草の頃』(1944年)『イースター・パレード』(1948年)『スタア誕生』(1954年)など数々のヒット作に恵まれ、シンガーとしてのステージ活動も成功。押しも押されぬ大スターの地位についたジュディ・ガーランドだが、私生活は波乱続きだった。薬物依存に苦しみ、経済的に困窮した彼女は、ロンドンの劇場から5週間にわたる公演への出演依頼を受け、まだ幼い娘と息子を不本意ながら元夫(生涯5人のうち3人目)のもとに預けて、ひとり旅立つ。

『ジュディ 虹の彼方に』©Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

つらいお話だけど……名曲によるクライマックスには否応なく感動!

物語の主な舞台が1969年のウエストエンド(ロンドンの劇場街)という時点で、胸が高鳴る人も少なくないだろう。スウィンギング・ロンドンの最盛期は過ぎて、やや退廃的な気分が出てきたものの、まだザ・ビートルズは解散していない時期。デヴィッド・ボウイはソロデビューしたものの売れなくて悪戦苦闘中(この映画には出てこない)。エンターテインメント業界ではテレビはまだ新興勢力で、劇場の存在感がおそらく今よりずっと大きかった。ロックンロールに先行するイギリス大衆音楽のヒーロー、“スキッフルの王様”ことロニー・ドネガンも健在だ。そんな時代が華やかだがギリギリ悪趣味に振り切らない衣装と美術で再現され、タイムスリップ観光気分を味わえる。

とはいえ、ジュディの脳裏にフラッシュバックする子役時代の思い出は痛ましいことこの上ない。2歳からショウビジネスの世界に入り、ずっと過酷な競争とプレッシャーに晒されてきた。周りの大人たちは彼女に極端なダイエットを命じ、十分な睡眠も取らせず、薬物を与えて働かせる。現在の感覚からすると、あまりに酷い児童労働搾取だ。

『ジュディ 虹の彼方に』©Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

そうやって傷ついてきたスターの孤独ときらびやかなステージの対比には、あざといなあと思いつつも、やはり感情を揺さぶられてしまう。ビッグバンドとダンサーを従えて歌う軽快でごきげんなナンバーにはうきうきさせられるし、ジュディ・ガーランドを永遠のゲイ・アイコンにした名曲「虹の彼方に」は、さすがに威力抜群だ。この曲の作詞家エドガー・イップ・ハーバーグの来歴を知るとまた説得力が増すので、興味のあるかたは調べてみてほしい(貧しい生まれにめげずに理想を追い求めた人なのだ)。Netflix『マリッジ・ストーリー』(2019年)に続く「クライマックスが既存の名曲で反則」映画とも言える。

半世紀以上を経て過酷さを増す、名声の代償に非人間的な扱いを強いる残酷な構造

この映画の原作は、ピーター・キルターによる2005年初演の舞台作品「End of the Rainbow」。監督のルパート・グールドもイギリス演劇界の大御所で、これが舞台の人たちの作品だというのは納得がいく。演者と観客が互いに反応しあう劇場空間を映し出し、「われわれの喝采がステージの上でスポットライトを浴びるスターにとって何か良き意味を持つものでありますように」という観客側の祈りが通じるところを見せてくれるからだ。身も蓋もない言い方をすれば「オタクが報われる」ドリーム映画になっているのだ。

ステージ上で輝く誰かに憧れた経験のある人間にとって、それは甘い夢だ。しかし、今日でもアイドルをめぐる悲しい事件が後をたたないことを思うと、ちょっとうしろめたい気持ちも沸いてくる。名声の代償に非人間的な扱いを強いる残酷な構造は、ジュディ・ガーランドの死から半世紀以上の時を経た現在も変わっていないし、情報技術の進化によって更に過酷になっている部分すらある。はたしてスターに勝手に夢を見ることはどこまで許されるのか? 故人に言ってほしいことを勝手に言わせてもいいのか? この映画はどの程度史実に沿っているのか? 私は昨年末にテレビで見たAI美空ひばりがすごく嫌だったのだけれど、あれとこれはどの程度違うのか?

『ジュディ 虹の彼方に』©Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

レネー・ゼルウィガーはジュディ・ガーランドにあまり似てはいないが、堂々と歌い踊り、大衆に愛されたスターらしい威厳と愛嬌を見せてくれる。アイドルやステージアクターを熱心に推したことのある人々の感想を聞いてみたいし、舞台に立つ側の人々がこれを観てどう思うのかも気になるところだ。

文:野中モモ

『ジュディ 虹の彼方に』は2020年3月6日(金)より全国ロードショー

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『ジュディ 虹の彼方に』

かつてはミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨していたジュディ・ガーランドが、窮地に立たされていた。1968年、度重なる遅刻や無断欠勤のせいで映画出演のオファーも途絶え、今では巡業ショーで生計を立てているのだが、住む家もなく借金は膨らむばかり。まだ幼い娘と息子をやむなく元夫に預けたジュディは、ロンドンのクラブに出演するために独り旅立つ。英国での人気は今も健在だったが、いざ初日を迎えると、プレッシャーから「歌えない」と逃げ出そうとするジュディ。だが、一歩ステージに上がると、たちまち一流エンタテイナーと化して観客を魅了する。ショーは大盛況でメディアの評判も上々で、新しい恋とも巡り会い、明るい未来に心躍るジュディ。だが、子供たちの心が離れていく恐れと、全存在を歌に込める疲労から追い詰められ、ついには舞台でも失態を犯してしまう──。

制作年: 2019
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