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史上初ベルリン2冠!「“障がい者と性”への興味がきっかけ」HIKARI監督長編デビュー作『37セカンズ』

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ライター:#BANGER!!! 編集部
史上初ベルリン2冠!「“障がい者と性”への興味がきっかけ」HIKARI監督長編デビュー作『37セカンズ』
『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

史上初のベルリン2冠達成! HIKARI監督の衝撃デビュー作『37セカンズ』

2019年に世界三大映画祭のひとつ<ベルリン国際映画祭>で映画祭史上初となる2冠(「パノラマ観客賞」「国際アートシネマ連盟(CICAE)賞」)を受賞した映画『37セカンズ』が、2020年2月7日(金)より公開。脚本も手掛けたHIKARI監督は、多くの名監督を輩出した南カリフォルニア大学で学んだ新鋭。初の長編映画となる本作で注目を集め、早くも世界中からオファーが殺到しているという。

本作は、生まれた時に37秒息をしていなかったことで、身体に障がいを抱えてしまった貴田ユマが、これまでの自分の世界から脱するため、夢と直感だけを信じて、道を切り開いていく物語。その主人公のユマ役には実際に障がいを持つ演技未経験の佳山明(かやまめい)を主人公に起用し、神野三鈴や渡辺真起子、板谷由夏ら経験豊富な俳優陣が桂山の好演をサポート。制作陣にもワールドワイドに活躍するスタッフが集結し、世界基準の映像を作り出している。そんな話題作を手掛けたHIKARI監督に、本作に込めたテーマやキャスティング、撮影エピソード、映画製作の近況などをたっぷり語っていただいた。

『37セカンズ』HIKARI監督

まさに引く手あまた! マイケル・マン総監督のTVシリーズも進行中

―初監督作品『37セカンズ』が、世界中で多くの反響を得ています。取り巻く環境も変わってきていると思いますが、今の心境はいかがでしょうか?

今すぐにでも撮影に入りたいぐらい、早く次の作品を作りたいですね。私自身は脚本を手掛けませんが、監督として参加するテレビシリーズ(マイケル・マンが総監督を務める)が2本、来年の8月に撮影が決まっています。その後は、自分の脚本で次回作を作りたいですね。

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1 more day till the world premier!!! Pictures are from last night on Berlinale red carpet!! Our team were invited to the opening ceremony. Thank you so much, Berlin!! ワールドプレミアまであと1日!写真は昨晩のレッドカーペットの様子。37Seconds にチームはステキなオープニングセレモニーにご招待頂きました。明日のプレミアにワクワク❤️ Photo by @rotbuschtee #37Seconds #37SecondsFilm #wheelchair #movie #film #cinema #Berlin #Berlinale #Panorama #internationalfilmfestival #filmmaking #filmmaker #movieshooting #filmset #Manga #Comicartist #HIKARIFilms #Diversity #femalefilm #Japan #US #disabilityisastateofmine

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―『37セカンズ』との共通点はありますか?

いろんな出来事が起きても、最後には希望が持てる作品というところですね。今まで撮ってきた私の作品、そしてこれから撮る作品でも共通するところであり、永遠のテーマです。

―それは監督ご自身の生き方として、モットーとされていることでしょうか?

そうですね。私自身はオプティミスティック(楽観的)な性格で、何でもできるよね! という考えを前提に生きています。失敗しながらも、ひとかけらの成功を掴んで、今に至ると思っています。その時にやりたいことがあれば、苦労してでもそこに向かいたいという意志を持ってやってきたので、今いる自分はその気持ちに導かれてきたように思えます。映画を通じて、自分のモットーとしていることを伝えていきたいし、若い人たちに希望を与えられたらいいですね。「世界はいいものだよ」と伝えたいです。

『37セカンズ』メイキング写真©37 Seconds filmpartners

「“障がい者と性”というテーマに興味を持ったことが製作のきっかけ」

―『37セカンズ』は、映画全体のトーンはポジティブに明るく描かれていますね。

先ほどお話した通り私自身がポジティブなので、劇中の台詞にも出てきますが「悪いことがあったら、おめでとう」だと。“ピンチはチャンス”とはよく言ったものです。生きていく中で、私たちがしなければいけないのはお金を稼ぐことや大成功することではなく、常に前進してハッピーになること。幸せなことはどんどん周りに伝わって、そうすると平和な世界になると思うんです。主人公のユマは、普段は行かない道に行って失敗する、嫌な気持ちになるけれど、それがあったから新しい出会いがあって、新しい道が開けていきます。人生はその繰り返しですよね。失敗することが怖くて「どこにも行かない」と言っていたら、そこ止まりなんです。自分の直観を信じていったら、扉は開いていきます。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

―『37セカンズ』はどういった発想から生まれた作品なのでしょうか?

きっかけは、本作で車いすに乗っている男性を演じてもらった熊篠(慶彦)さんとの出会いです。 熊篠さんとお話しているときに“障がい者と性”についての話題になり、そのテーマに興味を持ったことからスタートしました。彼から色んな障がいを持つ方々を紹介してもらい、1年くらいかけて皆さんの実体験を聞くことができました。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

―ユマ役を見つけるのが一番難しいことだったかと思います。

そうですね。インタビューを重ねるたびにそれぞれの物語が頭に浮かんできました。最終的にユマ役を佳山明ちゃんに決めたのは、彼女のピュアさに惹かれたのと、撮影を通じてユマの成長を彼女に描けるのではないかと思ったからです。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

―佳山さんと出会ったことで物語が変わりましたか?

そうですね。もともとあった物語は、下半身不随の女性の話でした。明ちゃんはまた違った体質なので撮影に入る前に彼女や彼女のお母さまにインタビューをし、物語を書き直しました。 彼女はまったくお芝居の経験がなかったので、彼女が一番近く感じる設定を序盤や中間に入れて、演じやすい環境を作るように工夫しました。明ちゃんはとてもナチュラルに演じてくれましたね。とても頑張ってくれました。

『37セカンズ』メイキング写真©37 Seconds filmpartners

「撮影を通して明ちゃんは色んな意味ですごく成長したと思う」

―撮影を通じて、佳山さんの成長を感じられた部分はどこでしょうか?

全部でしょうね。映画の撮影を通じて、彼女が体験したことのないことを毎日体験していくことで、彼女の中でもいろんな発見があったと思います。これから自分がどうしていきたいのか、いやいや今のままでいい、というのも彼女の選択だし、心の面も、女性らしさも、撮影を通じて色んな変化があったと思います。

―ユマは母親から与えられた地味な服を着ていることが多く、“かわいい服”を着てみたいという願望を持っていました。服はこの物語で新しい世界へのキーアイテムになっていると思います。このアイテムを取り入れた理由は?

まず、私が子供の頃から服が大好きで、小学校3年生ぐらいにはスカートなどを作っていました。大学でも舞台芸術を学んでいたのですが、自分が舞台に出ていないときはコスチュームルームに入って、シェイクスピアの舞台に合う時代物の衣装などを作っていましたね。私自身、新しく服を作った時、そしてそれを着た時は、自分らしさを感じる、何か特別な感情を抱くことができました。その感情を主人公のユマに反映したいと思いつつ、心がワクワクする服を着た時に感じること、服を通じて自分をどう象徴していくかを表現できたらなと思ったんです。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

―物語の中で、ユマに影響を与える女性として渡辺真起子さん演じる舞が登場します。渡辺さんは、ユマを包み込むような素晴らしい演技を披露していますね。

世の中にはカッコいい女性、頑張っている女性が多くいて、そういう女性をありのままに描きたいと思っていました。渡辺真起子さんもそうですし、雑誌の編集長の藤本を演じてもらった板谷由夏さんもそうですが、自分を持って生きている人たちは輝いています。真起子さんは多くの作品に出演されている大女優ですが、普段の彼女がとにかくカッコいいし、お茶目で、とても素敵な人です。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

由夏さんも女優やタレント業、そしてニュースキャスター、モデルをやりながら、自分で企業を持ってファッションデザイナーとしても活躍されていて、私にとって憧れのような生き方をされている方です。プロとして、その道で生きているカッコいい女性を演じてもらいました。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

「車椅子だって世界のどこにでも行けるというメッセージを込めた」

―ユマの母親を演じた神野三鈴さんと佳山さんは撮影前に一緒に暮らしたというお話を聞いたのですが、そこでの経験が演技にも活かされていましたか?

三鈴さんに初めて会ったときに、明ちゃんと1週間なり3日なり、できるだけ一緒に寝泊まりして、ご飯を食べて、障がいを持つ子供を持つ母とはどういうものかを感じてもらいたいとお願いをしました。そうしたら、彼女もちょうど同じことを思っていたみたいで、「意気投合ですね。ぜひお願いします」と二人の共同生活が決まりました。そして介助の方も一緒に泊まれるバリアフリーのマンションを見つけて、そこで数日過ごして、ショッピングを一緒にしてもらいました。三鈴さんのおかけで、私が知らないところでも明ちゃんとの絆を深めてくださって、とても感謝しています。明ちゃんの輝きは、三鈴さんの影響も大きかったと思います。本当に尊敬できる女優さんです。

『37セカンズ』©37 Seconds filmpartners

―物語の中で海外ロケのシーンもありました。あえて海外のシーンを入れた意図を教えて下さい。

障がい者の人たちにも、介護士がいれば世界のどこにでも行けるというメッセージを込めています。車いすに乗っていると飛行機に乗れないと思う方も多いようです。順序をたどって時間をかければ、フリーランスでも介助手の方々がたくさんいるので、そういう方々といれば海外へも行けるし、電車に乗るときだって助けが必要であれば「どなたか手伝ってください」と声を掛ければ、みんな手を差し伸べてくれます。障がい者も健常者も、「助けて下さい」と言う勇気さえあれば、絶対にドアは開いていくと思います。やりたいことをやる、前進していくことは、自分が失敗することを怖いと思っているからであって、一歩を踏み出すことは簡単なことなんですよと。海外の設定もそうですし、主人公のユマが進んでいく姿を通じて、この映画で伝えたいことでした。

―最後にBANGER!!!の読者にメッセージをお願いします。この作品は、障がい者についてではなく、一人の人間の魂が成長していくお話です。家族や新しい出会いが描かれていて、共感できる部分も多くあると思います。そして、ローラーコースターに乗っている気分にもなれる物語です。先入観なく観て頂けると嬉しいです。ぜひ劇場でご覧下さい。

『37セカンズ』HIKARI監督

『37セカンズ』は2020年2月7日(金)より全国順次ロードショー

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『37セカンズ』

生まれた時に、たった37秒息をしていなかったことで、身体に障害を抱えてしまった主人公・貴田ユマ。親友の漫画家のゴーストライターとして、ひっそりと社会に存在している。そんな彼女と共に暮らす過保護な母は、ユマの世話をすることが唯一の生きがい。
毎日が息苦しく感じ始めたある日。独り立ちをしたいと思う一心で、自作の漫画を出版社に持ち込むが、女性編集長に「人生経験が少ない作家に、いい作品は描けない」と一蹴されてしまう。その瞬間、ユマの中で秘めていた何かが動き始める。これまでの自分の世界から脱するため、夢と直感だけを信じて、道を切り開いていくユマ。その先で彼女を待ち受けていたものとは……。

制作年: 2019
監督:
出演: