香港の宝石アンソニー・ウォン主演 半身不随の偏屈じいさんとフィリピン人家政婦の感動物語『淪落の人』

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ライター:大倉眞一郎
香港の宝石アンソニー・ウォン主演 半身不随の偏屈じいさんとフィリピン人家政婦の感動物語『淪落の人』
『淪落の人』NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

タイトルの罠

「淪落(りんらく)」て何よ? と思った人はいませんでしたでしょうか。私の場合、ぼんやり非倫理的な行いにより地獄に落ちる人のことかしら、でも、「淪」が三水だから変だな。と、文学部卒業なのにわからんじゃ恥ずかしい、知っていたことにしようかとウダウダ悩んだが、ここに正直に知らなかったと告白します。

広辞苑によれば、「淪落」とは「落ちぶれること。堕落すること。」だそうです。想像と近からず、遠からず。であるから、タイトルからは暗~い、どよよ~んとした作品を思い浮かべるかもしれないが、いけません。タイトルで判断するのは間違い。

『淪落の人』NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

映画『淪落の人』(2018年)は、確かに絶好調の状態にあるわけではないが、意外に元気ながら、車椅子での生活を余儀なくされている爺さんと、その爺さんと戦いながら高みを目指すフィリピン人女性の話です。ホロリと涙をこぼしながらも、明るい未来を期待させる香港映画の秀作。

ちなみに、香港での原題は『淪落人』、日本語と同じ意味で、英題は『STILL HUMAN』。こちらは辛さを強調しすぎ。どんな作品もタイトルは難しい。

定番を秀作にする実力

車椅子での生活者と介護者とのバディ物語となると、誰もが『最強のふたり』(2011年:フランス)を思い出すわね。あんまり良くできていたんで、リメイクの『THE UPSIDE/最強のふたり』(2017年:アメリカ)が2019年に日本公開となりました(※Amazon Prime Videoではタイトル『人生の動かし方』で配信中 ※2020年1月31日現在)。ご覧になりましたでしょうか。

そんなわけで、設定が似ているこの作品は作りにくかったろう、でも、どうしてこの題材を? と訝しんだが、初の長編監督作品を撮ることになったオリバー・チャンは、そういう面倒なことは考えなかったらしい。母親が車椅子で過ごすことになり、苦しい生活を送った自分の幼い頃の記憶と、実際に香港でフィリピン人女性が車椅子の中年男性と颯爽と走り去って行くのを目撃した印象、そこからの発想でできた映画だから、自然体なわけだ。

『淪落の人』NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

香港の宝石と私が呼ぶアンソニー・ウォンが演じるリョンは事故で半身不随となり、車椅子でしか移動できない。やけっぱちになっているので、不機嫌な爺さんになってしまった。これまでの外国人家政婦兼介護者は長くもたない。不機嫌な上に広東語しか話せない人間の世話をするんだから、うまくいくはずがなくて、すぐに辞めてしまう。難儀なことだ。でも、本人のせいである。そこへただ一人の友人の紹介で、家政婦として出稼ぎに来ていた若い娘エヴリンがやってくる。彼女はタガログ語と英語しか話せない。意思疎通不可能。ますます不機嫌になるリョン。世話をしてもらいたいのか、いじめて追い出したいのか、何が望みだリョン。

しかし、いつまでも相手が何を言ってんだかわからないじゃ、基本的な生活さえ営めなくなる。仕方がない。単語だけでも英語を覚えてみるか。おや、なんだか調子が出てきたか。

ところが、エヴリンも貧しい家族を養うためにやってきたわけで、「金送れ、金送れ」とフィリピンから電話がかかってくるたびに、うなだれてしまうくらい消耗する。聡明な彼女は向上心旺盛だが、自分のためにできることは無いに等しい。身体は自由に動いても、精神的には拘束されているに等しい。

あ~あ、やんなっちゃった、なエヴリンの唯一の慰めは、同じくフィリピンから出稼ぎにきた女性たちと休みの日に1日ダラダラ過ごして、愚痴を言い合うことくらい。リョンとエブリン、これからどうする。人生は一度だ、なんでもうまくいくわけなんてないが、不機嫌、憂鬱で一生暮らすことなんてできんぞ。何かを変えてみようじゃないか。

『淪落の人』NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

この先は、映画館に足を運んで、ご確認いただきたい。香港は暑いし、今はさらに熱い政治の風が吹いているけれど、この作品からは清涼な風が吹いてくる。

アマさん

香港で日曜日に街を散歩していると、あら、という光景を必ず目撃することになる。同じアジア人だけど、明らかに外国籍の女性たちが大量に集まって、何をするでもなく座り込んで動かない。デモか、座り込みの抗議活動か、一瞬ひるむがなんのことはない、出稼ぎで来ている家政婦の女性たちが、週1日の休みを母国語を話しながら、のんびり過ごしているだけ。

「アマ(阿媽)さん」と呼ばれる方々で、現在、香港には約30万人いると言われている。香港の人口が約730万だから、べらぼうな割合でアマさんが暮らしている。かつては富裕層のみが彼女たちを雇えていたが、経済成長、共働き世帯の増加に伴い、一般家庭でも優秀な優秀なアマさんが必要になってきたのでございます。

『淪落の人』NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

ともあれ、アマさんの大多数はフィリピンから、ついでインドネシア、その他、タイやミャンマーとアジア各国からやって来る。アマさんとしてやって来て、香港で次のステップを見い出し、羽ばたく人もいるらしい。なんだかいい話じゃないかい。

日本にアマさんを雇える余裕がある人なんて、どのくらいいるんだろうか。その前に、英語で話す必要のある家政婦を雇いたいと思う人がいるかしら。日本を嘆くわけじゃないけど、異文化と接触して、理解して、心を通わせることから新しい希望が見えてくると思っている私としては、そういう意味からも『淪落の人』、いい映画だと思いましたよ。心を開くためにもご覧ください。

『淪落の人』NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED © 2018

アンソニー・ウォンは脚本を読んで、制作費が限られていることを知り、ノーギャラで出演したそうである。そんな作品。

文:大倉眞一郎

『淪落の人』は2020年2月1日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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『淪落の人』

突然の事故で半身不随となってしまった男、リョン・チョンウィン。妻とは離婚、息子とも離れて暮らし、人生に何の希望も抱けないまま、ただただ日々を過ごしていた。妹ジンインとの関係もうまくいかず、慰みは唯一の友達である元同僚のファイとの会話と、海外の大学に通う一人息子の成長だけ。

そこに若いフィリピン人女性エヴリンが住み込み家政婦としてやってくる。広東語が話せない彼女に最初はイライラを募らせたチョンウィンだったが、片言の英語で会話をしながらお互いに情が芽生えていく。やがて、エヴリンが生活のためにやむを得ず写真家への道を諦めたものの、今でも心の中で夢を追い求めていることを知ったチョンウィンは、彼女の夢を叶える手助けをしようと思い始めるが……。

制作年: 2018
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