E・ノートン監督・主演! 障害を持つ探偵が腐敗したNYの闇に迫る『マザーレス・ブルックリン』

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ライター:BANGER!!! 編集部
E・ノートン監督・主演! 障害を持つ探偵が腐敗したNYの闇に迫る『マザーレス・ブルックリン』
『マザーレス・ブルックリン』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

50年代のNYを舞台にチック症の探偵が巨悪を追い詰める!

名優エドワート・ノートンの主演・監督作『マザーレス・ブルックリン』が2020年1月10日(金)、ついに公開。ジョナサン・レサムの同名小説を原作に、1999年の映画化オファーから20年を経て完成した、ノートン悲願の企画だ。

『マザーレス・ブルックリン』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ノートン演じる主人公の私立探偵ライオネル・エスログは、極度のチック症を患っているが驚異的な記憶力の持ち主。あるときボスのフランク(ブルース・ウィリス)が何者かに殺害されたことから事件の真相究明に奔走し、やがて都市開発に絡む強大な黒幕にたどり着く。

『マザーレス・ブルックリン』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

物語の舞台となるのは1950年代末のニューヨーク、ロサンゼルス・ドジャースがまだブルックリンにいた時代。男性は中折れハットにぶ厚いジャケットやコート姿、女性は鮮やかな原色が眩しい落下傘スタイルと、そのファッションからも当時の風俗が伝わってくる。ノートンは『チャイナタウン』(1974年)などの影響を公言しているが、“ハードボイルド”と呼ぶには柔らかな空気が流れていて、劇中でトム・ヨークの楽曲を大フィーチャーしていることからも、本格的なノワールを標榜しているわけではないことが感じ取れる。

ノートンの実人生とも重なる“都市開発”が大きなテーマ

映画は原作の時代設定(90年代後半)から大幅に時間を巻き戻しているのが大きな改変ポイントだが現代劇と共通する部分が多い。基本的には「横暴な権力者といかに戦うか?」というテーマが貫かれていて、いわゆるジェントリフィケーション現象ともつながる問題を描く。有名な都市開発者の祖父を持つノートンだけに、アレック・ボールドウィン演じるモーゼス・ランドルフのモデルとなったのは、おそらく都市計画家のロバート・モーゼスだろう。彼は都市開発に乗じて貧困層の市民を露骨に郊外へ追いやった人物で、本作におけるランドルフは完全に悪役だが、「評伝ロバート・モーゼス:世界都市ニューヨークの創造主」(鹿島出版会)などを読めば、その悪印象が(若干は)変わるかもしれない。

『マザーレス・ブルックリン』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ちなみにランドルフは原作には登場しないキャラクターなのだが、ボールドウィンがこの役を演じたのは、人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」でさんざんドナルド・トランプのモノマネを披露してきたことと無関係ではないはず。なお、物語の重要な役割を担う女性ローラ(ググ・ンバータ=ロー)も、同じく原作には登場しない映画オリジナルキャラである。

『マザーレス・ブルックリン』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

そのローラが序盤で行動を共にしているギャビー(チェリー・ジョーンズ)は、都市活動家のジェイン・ジェイコブズがモデルと思われる。彼女の功績は映画『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』(2016年)に詳しいので、素性がよくわからない活動家おばさんかとスルーせず背景を知れば、より深く本作を楽しめるはずだ。

そのほか気になるキャラクターといえば、マイケル・ケネス・ウィリアムズ演じるセクシーで洒脱なトランペッター。生粋のブルックリンっ子でもあるウィリアムズが、まるでマイルス・デイヴィスのようなカリスマペッターぶりを披露し、意外な活躍を見せてくれる。ハーレムの燻り立つようなジャズクラブのシーンは、ジャズ好きでなくともワクワクしてしまうほどの熱気にあふれているが、モーゼスによる無茶振り都市計画をきっかけに、サウスブロンクスでヒップホップが誕生したことを考えると感慨深い。

演技はもちろんノートンの監督としての手腕に改めて脱帽!

本国では、ノートンが障害を持つ主人公が登場する小説を原作に選んだのはアカデミー賞狙いなのでは? とか言われたりしていたようだが、実際に本作を観れば、その批判が全く的外れだということがわかるだろう。ノートン演じるライオネルは奇天烈さだけを売りにしているわけでもなければ同情を誘うようなキャラクターでもなく、作品にウィットなユーモアとカタルシスをもたらしている。突然大声で叫んだりしてしまう症状をしっかり描きつつも、ストーリーの妨げにならないよう完璧にコントロールしてみせた演出手腕は見事というほかない。

『マザーレス・ブルックリン』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

2時間強の上映時間ながらミステリー展開に混乱することもなく、政治的なテーマを扱いながら説教くさくなることもない、新たな知識の派生を促し充実した映画体験を与えてくれる、素晴らしい映画であった。ノワールだなんだという先入観は捨てて、純粋にエドワート・ノートン監督の新作を楽しんでほしい。

ところでJ・レセムといえば、何年か前にデヴィッド・クローネンバーグが何らかの作品の映画化権を獲得したと報じられたことがあったような気がするが、そちらがどうなったのか気になるところ。他にレオス・カラックス監督(『ポンヌフの恋人』[1991年]ほか)も彼の小説に興味を持ったことがあるらしいが、映画界からモテモテ状態のレセムの著作もチェックしておいて損はなさそうだ。

『マザーレス・ブルックリン』は2020年1月10日(金)より公開

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『マザーレス・ブルックリン』

1957年、ニューヨーク。障害の発作に苦しみながらも驚異の記憶力を持つ私立探偵のライオネルは、人生の恩人であり唯一の友人でもあるボスのフランクが殺害された事件の真相を追い始める。ウイスキーの香りが漂うハーレムのジャズ・クラブからマイノリティの人々が集うブルックリンのスラム街まで、僅かな手掛かりを頼りに天性の勘と抜群の行動力を駆使して大都会の固く閉ざされた闇に迫っていく。やがて、腐敗した街で最も危険な黒幕に辿り着くが……。

制作年: 2019
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脚本:
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