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英国の実話! 漁師たちの野太いハーモニーに泣き笑い『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』

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ライター:#大倉眞一郎
英国の実話! 漁師たちの野太いハーモニーに泣き笑い『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』
『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

楽しすぎて涙が出る

笑いすぎて涙を拭うのは、私の妻のようなおばちゃんに多いらしいが、楽しすぎて涙が出ることは珍しい、というか、初めての経験だった。「楽しい」には感動が内蔵されているのだが、この作品の場合は「歌」という必殺の武器が備わっているので、感動屋さんは大泣きする。

しかも歌っているのは、ポール・ポッツやスーザン・ボイルのような第一声で人を魅了するようなシンガーではなく、イギリス・コーンウォールの漁師たちで、彼らの野太い声がハーモニーを作り出すという暴力的とも言える力強さは圧倒的。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

こんな話があるんかい、と思ったが、イギリスって意外にこの手の話が多い。『ブラス!』(1996年)なんかは典型的な例だが、この作品も実話を基に作られている。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

コーンウォールに遊びに出かけたチャラチャラのミュージシャンのマネジメント会社の馬鹿どもが、たまたま耳にした漁師の舟歌を冗談の材料にして、「契約してこい」とお調子者の部下をけしかける。誰も売れるなんて思っていないし、漁師たちもそんなことがあるわけないと信用しない。ところが、上司に騙されて契約にまでこぎつけたダニーは色恋も混じった動機で、本気で売れると突っ走る。ものごとの成功失敗は、どっちに転んだとしても根拠のない思い込みが大事。町に一軒だけある、漁師やその奥様方・家族御用達のパブの存続にも関わる一大事も絡まり、話はどんどん面白くなる。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

イギリスとは、どこの国のことか

ところで、“イギリス人”って誰? ラグビーW杯には4チーム(スコットランド、アイルランド、イングランド、ウェールズ)も出てたし、というわけで、実際イギリスなんて国は存在しない。それが「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」たるこの国の面白さ。ロンドンという都市は、ニューヨークがアメリカではないと言われるように、イギリスの本質が凝縮されているところではない。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

連合王国は北アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イングランドで構成された寄せ集め国家である。パッチワークのようであり、それが混じったり、強いプライドをぶつけ合ったりするのを住んでいた7年間見てきて、どの都市に行っても、ある意味外国へ来たように楽しめた。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

この作品の舞台コーンウォールはイングランドの一都市だが、漁港であり、静かで穏やかな人が多いせいか、英語学校に通う日本人も多い。しかし、ここはもともとはいわゆるイングランド人が住んでいた場所ではない。アングロ・サクソン人がイギリスを征服した際に先住民族だったケルト人はスコットランド~ウェールズに向かったが、南に居残ったのがコーンウォール人。したがって、イングランドに対して強い独立心を持っている。このことを理解しておくと、この作品は倍くらい面白くなる。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

バラバラでありながら、その差異が生み出すパワーはイギリスで暮らすとよくわかる。彼らの地元愛は半端ではない。パブに入ればいくつかの世界共通で飲まれているラガーの他に、必ず地元で醸造された無濾過のエールが置いてある。好きな味とか嫌いな味とかうるさいこと言わずに、まず冷えていない地元のエールをパイントで頼むと、少し謎の東洋人を受け入れてくれる雰囲気を感じる。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

小さな町の出来事を見て、イギリスを知るなんてこともよろしいんじゃないでしょうか。
であるから、ブレクジットはもはや避けられない状況だが、それがきっかけで連合王国消滅なんてことになって欲しくないのが、最近私が感じていること。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

漁師をナンパする

まだ私が20代前半で髪の毛フサフサの頃、売れっ子アートディレクターとコピーライターを連れてグラフィック広告の撮影で、北の果て、ヘブリディーズ諸島のルイス島へ撮影に行ったことがある。私一人でなんでもやんなきゃいけない。

「大倉、漁師が欲しいな。お前、港のパブに行って良さそうなのに声かけてこい。オーディションするぞ」

「え、僕がですか」

「なんで俺がやると思った?」

恐る恐るドアを開けた途端に屈強な漁師たちの視線が、私の心臓を100回くらい貫く。もうほとんど死人。中で交渉したふりをして、「いい人がいませんでした」と嘘の報告。結果的には島の演劇集団に頼めたので問題はなかったが、まだ英語のおぼつかない少年+αにそんなことをやらせてはいけない。だいたいロンドンに住むイギリス人でも、なに言ってんだかわからないくらいアクセントが違っているんだから。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

この作品を観て、こんな漁師たちだったらハグに持ち込むまで5分だったのに、と唇を噛んだ。スクリーン上の漁師は全然怖くない。地味とも思える作品だが、キャスティングがすごくて、名前を挙げてもわからないかもしれないが、観ればあれとかあれに出ていた俳優だとすぐに気がつく。みんな、こういう作品には積極的に出演してくれるんだよ。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

ちなみに、この作品の原題は『FISHERMAN’S FRIENDS』。FISHERMAN’S FRIENDは、喉が荒れる漁師のために作られたと言われている、強烈なミント系のトローチ。日本でも手に入りそうだが、かなりの衝撃があるのでミント弱めのものをお勧めします。イギリスで長距離運転の際は、すぐに眠くなる私の友でありました。

こういうタイトルのつけ方も気が利いてるんだよ。いや、本当にコーンウォールで歌っているグループの名前が「FISHERMAN’S FRIENDS」だったらしい。

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

お願いだから観てください。面白さは私が保証します。

文:大倉眞一郎

『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』は2020年1月10日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』

旅先で偶然フィッシャーマンズ・フレンズの浜辺ライブを見かけた音楽マネージャーのダニーは、上司に彼らとの契約を命じられ、小さな港町に居残るハメに。民宿の経営者でシングルマザーのオーウェンはダニーの失言に敵意をむき出しにしていたが、彼が見せた音楽への情熱に心を動かされる。契約できたものの、はたしてフィッシャーマンズ・フレンズは生き馬の目を抜く音楽業界でメジャーデビューできるのか?

制作年: 2019
監督:
出演: