インドからパキスタンへ。“掛け算”が生み出した700キロの旅路。『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

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ライター:髙橋直樹
インドからパキスタンへ。“掛け算”が生み出した700キロの旅路。『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
『バジュランギおじさんと、小さな迷子』©Eros international all rights reserved. ©SKF all rights reserved.
大注目のインド映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』が2019年1月18日(金)から公開される。いま日本でアツい盛り上がりを見せているインド映画界が放つ新年1発目の大本命ということで、高橋直樹氏がディープな情報を交えつつ作品を紹介してくれた。

インドには数多くのカーンがいる

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』©Eros international all rights reserved. ©SKF all rights reserved.

映画界におけるインドの至宝と称され、俳優業のみならず社会貢献にも積極的なアーミル・カーン、ミスター・ボリウッドの異名を持ち、日本では応援上映の走りとなった傑作『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)のシャー・ルク・カーン、そして今回の主役サルマン・カーンの3人だ。

『ミモラ 心のままに』(1999)で魅惑的な青年を演じたサルマンは、国際ランクの犯罪に挑みながら、単身生活するアパートでは羊の乳を絞ったり、洗濯に勤しんだりする庶民派スパイを演じた『タイガー 伝説のスパイ』が代表作。マッチョスタイル、インドが誇る国際的スターとして、年間3~5本の新作に出演し続けている超売れっ子俳優だ。ムンバイには彼のブランドショップがあり、スタイリッシュなアイテムが並んでいる。

インドの映画館は二局に分かれている

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』©Eros international all rights reserved. ©SKF all rights reserved.

 

最新の設備が整った高額のシネコン、昔からのシアタースタイルの低料金の大劇場が至近距離に共存し、観客の懐具合によって観る場所が選択される。値段の格差は、なんと15倍である。インドで国民的な大ヒットを獲得する秘訣、それは貧富の差を超える普遍的な映画を放つことである。ちょっと脱線するが、ジム・キャリー主演の『マジェスティック』の冒頭を思い出してもらいたい。赤狩りの嵐が吹き荒れる時代、キャリーが扮する脚本家に向かって、ヒット作の開発を目論むプロデューサーたちがあれやこれやと注文を出す場面がある。主人公には災難が襲いかかり、かけがえのないペットも必要で、ついには不幸の無理強いが始まる。決して映画を豊かにしない“足し算”をまくし立てる言葉の応酬に、脚本家はどんどんやる気を削がれていく。しかも、学生時代のある行動に共産党員の嫌疑が掛けられ、新作の話しも消えてしまうのだ。やけ酒を煽った主人公が運転する車は事故に遭って……と、この映画のことはここまでにして話を戻そう。

2018年12月現在、インド映画の世界興収のベスト3は、アーミル・カーンの『ダンガル きっと、つよくなる』(2016)、日本でも爆風を巻き起こした『バーフバリ 王の凱旋』(2017年)、そして今回紹介する我らがサルマン・カーンの『バジュランギおじさんと、小さな迷子』である。サルマン・カーンがプロデューサーを兼ね、2015年にインドで公開されたこの映画は、とても良質で、普遍的な作品である。ファミリー層を主軸として、嘘がつけないおじさんと話すことができない少女のコミカルなロードムービーだ。

物語は極めてシンプル

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』©Eros international all rights reserved. ©SKF all rights reserved.

パキスタンに住む愛くるしい少女シャヒーダーは声を発することが出来ない。家族会議で願掛けにすることに決まり、母に連れられてインドの著名な寺院へと向かう。列車に乗り込んだのは良かったが、故郷にもいるヤギが穴に落ちて困っている姿を見た少女は、熟睡する母を残して列車を降りてしまう。一方、猿の化身であるハヌマーン神の熱烈なヒンドゥー教徒のパワン(愛称バジュランギ)は根っからの正直者で、嘘がつけない善人だ。迷子の少女とパワンが出会い、彼が居候する家で同居生活が始まる。だが、インド対パキスタンのクリケット中継の最中、とんでもない事実が明らかになる。シャヒーダーは、インドの宿敵パキスタンの子だったのだ。同居人たちの態度が激変、少女を追い出せと一喝されたパワンは大きな決意をする。どんなことがあっても、迷子の少女を必ず両親の元に送り届けるというのだ。

カシミール山脈の壮大な絶景、大都市デリーからパキスタン国境にあるパンジャーブ、タール砂漠など、インド各地で広大なロケーションを敢行、定番の歌って踊るボリウッドスタイルが躍動し、価値観や意志疎通の反故が生み出す軽妙な会話が笑いを誘う。そんなインド映画のエッセンスに加えて、迷子を送り届ける過程で宗教の違いや、国境をめぐる国際問題などの現実が重ねられていく。クリケットの中継、セルフィーやYouTubeなど、世界共通のコミュニケーションツールも効果的に配され気が効いている。マッチョな好青年と無垢なる少女の二人旅に、現在のインドを取り巻く情勢を盛り込んだ意欲作は、『マジェスティック』に登場する映画会社の重役たちたちの“足し算”的な発想ではなく、ロードムービーを軸に細やかなエピソードを丁寧に積み上げていく“掛け算”で生まれた映画になっている。

察しの良い方ならもうお気づきだと思うが、ラストには大スケールの感動が待っている。クライマックスで溢れる涙を止める必要はない。だからハンカチをお忘れなきように。

文:髙橋直樹

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』2019年 1月18日(金)より 全国順次ロードショー

バジュランギおじさんと、小さな迷子

パキスタンの小さな村に住む女の子シャヒーダー。幼い頃から声が出せない彼女はお母さんと一緒にインドのイスラム寺院に願掛けに行った帰り道、一人インドに取り残されてしまう。そんなシャヒーダーが出会ったのは、ヒンドゥー教のハヌマーン神の熱烈な信者のパワン。母親とはぐれたシャヒーダーを預かることにしたパワンだが、ある日、彼女がパキスタンのイスラム教徒と知り驚愕する。歴史、宗教、経済など様々な面で激しく対立するインドとパキスタン。それでもパスポートもビザもなしに、国境を越えてシャヒーダーを家に送り届けることを決意したパワン。波乱万丈の二人旅が始まった。果たしてパワンは無事にシャヒーダーを母親の元へ送り届けることができるのか?

制作年: 2015
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