仕事、セックス、人間関係に葛藤……パリの大人たちのコミカルでほろ苦い会話劇『冬時間のパリ』

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ライター:野中モモ
仕事、セックス、人間関係に葛藤……パリの大人たちのコミカルでほろ苦い会話劇『冬時間のパリ』
『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

フランス映画界の至宝オリヴィエ・アサイヤス監督が描く大人の仕事と恋

ここ数年、日本でもコンスタントに新作が公開されているオリヴィエ・アサイヤス監督。デジタル化の波に変化を迫られる出版業界人たちが恋に仕事に右往左往する新作『冬時間のパリ』(2018年)は、「フランス映画、邦題に“パリ”入れられがち問題」の事例となったが、原題は「Doubles vies」。英語では「Non-Fiction」というタイトルがつけられている。「二重生活」そして「ノンフィクション」。私生活を作品に反映させてきた小説家とその妻の政治家秘書、編集者と女優、2組の夫婦の人間模様を描いた群像劇である。

『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

レオナール(ヴァンサン・マケーニュ)は、不倫の恋の話も含めた私小説をたびたび発表している小説家。無名ではないが売り上げは芳しくなく、生活は妻で政治家の秘書をしているヴァレリー(ノラ・アムザウィ)頼りだ。老舗出版社でレオナールを担当する編集者のアラン(ギヨーム・カネ)は敏腕と評判が高いが、本がなかなか売れない昨今、その地位は安泰とは言えない。アランの妻セレナ(ジュリエット・ビノシュ)は、舞台からテレビドラマシリーズに進出して人気を集めている女優だが、最近はその役に飽きてきている。レオナールとセレナは6年にわたって秘密の関係を続けており、アランも社内のデジタル部門に新しく採用された部下と浮気する。

『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

仏出版業界の“あるあるネタ”に思わず苦笑い! 日本社会とダブるトピックも満載

とにかく誰もがしゃべりまくる映画だ。パーティで、カフェで、職場で、自宅で、彼らは会話を交わし、自分の見解を言葉にする。私的な経験をもとに書くにあたって他人を巻き込むことは(どこまで、どんな風になら)許されるのか? 電子書籍やウェブアプリの登場は紙の本をいかに変えていくのか? 旧来の出版産業とSNSの関係は? イメージ先行の風潮と政治への失望にどう対処すればいいのか? そういった、いま日本で暮らしていても気になるトピックについてガンガン語られているのは、同時代の新作を観る理由のひとつになるだろう。

『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

主な登場人物たちが出入りする場には、いかにも現代的な人物が続々あらわれ、パリの出版業界を覗き見する感覚を味わえる。たとえば勢いに乗る人気ブロガー、デジタル革命を謳って中高年を煙に巻くやり手の20代、内幕ものでベストセラー作家になった元ラジオの政治記者、郊外のいい家に住んでいる出版社の社長……。本がたいして売れているわけではない著者が、書店でのトークイベントやラジオ出演などの営業活動に駆り出されるのも、日本と同じだなあと苦笑いしてしまう。レオナールがネットでの論争について読者から問いただされる場面で、自業自得とはいえちょっぴり気の毒にもなってしまうのは、ヴァンサン・マケーニュの愛嬌のなせるわざだろう。

『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

あえてアナログなコミュニケーションで描かれるほろ苦い人間関係

しかし、結局のところ主な登場人物4人が「古い世界」で既にある程度の地位を築いている大人たちということもあり、彼らが直面している「デジタルの脅威」は、結局のところ会話で語られるぼんやりとしたものなのだ。その点、アサイヤス監督は前作『パーソナル・ショッパー』(2016年)で意欲的な試みをしていただけに、少々肩透かしを食らった感がある。

あの映画では、クリステン・スチュワート演じる主人公は基本的にいつもひとりで行動しており、しょっちゅうスマートフォンの画面に目をやる描写が新鮮だった。まだ映画であまり表現されていない、現代のメディア感覚を捉えようとしたスリリングな作品になっていたと思う。

『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

それに対して『冬時間のパリ』は、デジタル化が進んだからこそ浮かび上がる、顔をつきあわせた会話とセックスという古典的なコミュニケーションの強さに注目した作品だと言えるだろう。ウディ・アレンが引き合いに出されているのもむべなるかな。年を重ねた女性が主導権を握って恋愛していて楽しそうなのと、案外保守的かつカップル文化が根強くダメ男が甘やかされているのと、どちらもあるのがパリ。それを再確認させられる映画だった。

『冬時間のパリ』©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

文:野中モモ

『冬時間のパリ』は2019年12月20日(金)ロードショー

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『冬時間のパリ』

敏腕編集者のアラン(ギヨーム・カネ)は電子書籍ブームが押し寄せる中、なんとか時代に順応しようと努力していた。そんな中、作家で友人のレオナール(ヴァンサン・マケーニュ)から、不倫をテーマにした新作の相談を受ける。内心、彼の作風を古臭いと感じているアランだが、女優の妻・セレナ(ジュリエット・ビノシュ)の意見は正反対だった。そもそも最近、二人の仲は上手くいっていない。アランは年下のデジタル担当と不倫中で、セレナの方もレオナールの妻で政治家秘書のヴァレリー(ノラ・ハムザウィ)に内緒で、彼と秘密の関係を結んでいるのだった……。

制作年: 2018
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