離婚プロセスに泣き笑い “賞レース最有力”も納得『マリッジ・ストーリー』

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ライター:野中モモ
離婚プロセスに泣き笑い  “賞レース最有力”も納得『マリッジ・ストーリー』
Netflix映画「マリッジ・ストーリー」独占配信中

かつてふたりのあいだに確かに存在していた、今も完全には無くなっていない愛情

およそ10年にわたる結婚生活を終わらせることを決意した30代の夫婦、チャーリーとニコール。Netflixオリジナル作品『マリッジ・ストーリー』(2019年)は、ふたりが離婚に向けてこれまでの自分たちの関係を振り返り、互いに傷つけ合うはめになりながら人生の新しいステージに一歩を踏み出そうともがく様を、ところどころに笑いを交えながら追ったビタースウィートな人間ドラマだ。

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監督・脚本は『イカとクジラ』(2005年)『フランシス・ハ』(2012年)のノア・バームバック。主人公の夫婦を演じるのはアダム・ドライヴァーとスカーレット・ヨハンソン。賞レースの最有望株と目されるのも納得の、見応えのある作品に仕上がっている。

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チャーリーはニューヨークで劇団を主宰する演出家。次の作品でブロードウェイに進出することが決まっている。ニコールは彼の劇団の看板女優。かつて駆け出しの映画女優だった彼女は、チャーリーと結婚して故郷のロサンゼルスを離れ、舞台に立つようになった。息子をもうけてあたたかい家庭を築き、公私共に力をあわせて前進してきたふたり。しかし、それぞれのキャリアの選択やチャーリーの浮気などで不満が積み重なり、別々の道をゆくことを決断したのだ。

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はじめは穏健に協議離婚を進めるつもりだったふたりだが、息子の親権をめぐって裁判で争うことになり、思いがけず対立は激化。かつてのパートナーを「敵」とし、はっきり切り分けられないものを無理やり切り分けることを要求する訴訟という手段のダークサイドに巻き込まれていく様が軽妙に描き出され、笑ってしまうのと同時に肝が冷える。だが、そうした別れのプロセスを通じて、かつてふたりのあいだに確かに存在していた、今も完全には無くなってはいない愛情が改めて浮かび上がりもするのだった。

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映画界から注目を浴びるミュージカル・ナンバーも必聴

ニューヨークで暮らし続けたいチャーリーと、ロサンゼルスで新しい生活をはじめたいニコールの関係を描いた本作は、ふたつの都市の物語でもあり、その対比の表現も見どころだ。映画・テレビのLA、演劇のNY。陽の光きらめく広々としたLA、晴れていてもどこか落ち着いたトーンのNY。基本的に移動は車のLA、地下鉄と徒歩のNY。それぞれの空間感覚を伝える撮影は、ロビー・ライアンによるもの(『わたしは、ダニエル・ブレイク』[2016年]『女王陛下のお気に入り』[2018年]ほか)。

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ランディ・ニューマンによる小規模オーケストラのスコアも柔らかく耳に心地よい。加えて、スティーヴン・ソンドハイムのミュージカル『カンパニー』からのナンバーも強い印象を残す。ブロードウェイの劇場に集う中流・上流階級の客に、「たとえ当面の生活の不安は無い立場だろうが人間は孤独」ということを突きつけて大きな感情を喚起するソンドハイム作品に、近年、映画界からの注目が高まっている様子なのは興味深い現象だ。

こうした美しい映像と音楽、堂々たる演技は観る者の心を揺さぶる。自分がこれまでどんな風に人と関わってきたか、関わってこなかったか、またLAとNYの話ということで元ソニック・ユースのキム・ゴードンとサーストン・ムーアのことなども思い出されて、わんわん泣いてしまった。

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しかし、ノア・バームバックが7歳年上のジェニファー・ジェイソン・リーと離婚して14歳年下のグレタ・ガーウィグと交際している事実を思うと、ちょっと手放しで褒めるのもシャクだなという気分になってしまいもする。この映画、やっぱり男に甘すぎないか!? と……。

結婚・出産を機に貧困に苦しむ現実社会の女性たち、根深い男女の非対称性

これは社会的にある程度成功しているカップルの物語だから、離婚しても双方うまくやっていける。しかし現実には、若い時間を夫や子どもに捧げた結果として貧困に苦しむ女性たちの、もっとずっとつらくてえげつない離婚物語があふれている。女性が出産・子育てに力を注ぐとき、それ以外のやりたいことを諦めざるを得なくなってしまうことがあまりにも多い。そのうえ女性は男性に比べて「若く美しい」ことに価値を置かれがちなのだから不公平だ。

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ああ、結婚とは、人生とは、なんと困難なものか。映画の中でローラ・ダーン演じるやり手弁護士が「父親はダメでも愛されるけど母親は完璧じゃないと世間が許さないの!」と指摘する男女の非対称性、自分が生きているうちに少しでも是正されますように、と祈らずにはいられない。

文:野中モモ

『マリッジ・ストーリー』はNetflixで独占配信中

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『マリッジ・ストーリー』

離婚プロセスに戸惑い、子の親としてのこれからに苦悩する夫婦の姿を、アカデミー賞候補監督ノア・バームバックが、リアルで辛辣ながら思いやりあふれる視点で描く。

制作年: 2019
監督:
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