映画の今、世界の今「時代と生きる『ロッキー』シリーズの軌跡」 越智道雄

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ライター:越智道雄
映画の今、世界の今「時代と生きる『ロッキー』シリーズの軌跡」 越智道雄
『クリード 炎の宿敵』©2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
イタリアの種馬ことロッキー・バルボアの魂を受け継ぐアツ~いボクシング物語の続編『クリード 炎の宿敵』が2019年1月11日(金)から公開! ということで、スポ根映画の枠を超えた不滅の金字塔『ロッキー』シリーズを越智道雄先生が解説してくれました!

『ロッキー』シリ-ズの大ヒットはマルシアノ幻想の再生か

『ロッキー 』(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

イタリア系はまだ大統領を生み出していない。非英国系でカトリックというハンディはアイルランド系より不利なわけだ。ローマ帝国という世界最初の覇権国家という歴史、コロシアムでの闘技士の歴史もアメリカでは有利とはならない。この背景ではイタリア系アメリカ人にとってロッキーの重要性は俄然増す。ただ、ロッキーの才能が弾けるのは30歳とずいぶん遅い。30歳になっても高利貸しの取り立て人で食っている。この遅さがいわゆる「大器晩成」の基本だと分かるのはリングで打ちのめされても執拗に起き上がる姿に露呈する。こういう粘っこい潜在力は「ため」が基本になる。

ただし、フィラデルフィアが舞台という点では、ここが白人労働者の集中地域で、公民権運動で利益を得た有色人種と女性に比べて何ら得るところがなかった白人男性は、この不満をエネルギーにして今回トランプを大統領に押し上げた—-フィラデルフィアこそ、その中心的舞台というわけだ。その意味でも『ロッキー』(1976)はトランプで白人労働者が爆発する予兆を担っていたと言える。

ロッキーがボクサーとしての天賦の才能を自覚せず、30歳になっても高利貸しの取り立て人で食っていることは、イタリア系がマフィアでアメリカ社会に食い込んできた経緯のミニチュアでもある。後は運を天に任せるしかない。まさにその「運」は、アメリカ建国200年祭にかこつけた世界チャンピオン、アポロ・クリード(黒人)の対戦相手が怪我をして急遽代役が必要になり、アポロの気まぐれで無名のロッキーが代役に選ばれた事で開けた。

ロッキーには「イタリアの種馬」というあだ名がついているが、アポロはこれが気に入り、急遽代役に選ぶ。過酷な特訓のあげく、ロッキーは善戦、僅差で敗れたものの、首尾よく全く新たな人生に乗り出す。この展開は遅い目覚めという点でも「種馬」のあだ名の意味を顕在化したことになる。

『ロッキー2』(1979)では、再度アポロの挑戦に応じてついにチャンピオンを掴むのだが、優柔不断さは相変わらずで、こうなると優柔不断さも主人公の潜在力の温床という気がしてくる。次の『ロッキー3』(1982)は、スタローン自身が脚本と監督を兼任、シリーズの幕引きを図ったのだが、ロッキーは新進黒人ボクサー、クラバー・ラングに敗れ、最後に再試合で雪辱する。『ロッキー4/炎の友情』(1986)では、ソ連崩壊の危機に臨んでゴルバチョフが台頭した時期に作られた映画だけに、ロッキーはアメリカと覇権を争ったソ連の威力の名残を止める。強力なボクサー、イワン・ドラゴの挑戦を受けるが、ロッキーが受ける前にアポロ・クリードが受けてしまい、リングで死ぬ。ロッキーはソ連での弔い合戦で何度も倒されながら、例の「ため」で立ち上がりついにドラゴを破る。

『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)で主人公は現役引退、トレーナーになっている。現役を去ると、息子との関係も難しくなる。同時に世話をするボクサー、トミー・ガンとの関係も入り込む。このボクサーが白人であることは、ボクサーの大半が黒人になりはてた現状での白人側のこだわりを反映している。すでにこの時期、ボクサーは黒人の独壇場になっていた。イタリア系はロッキー・マルシアノという同胞がヘビー級チャンピオン(王座期間は1952-56)だったせいで、南アなみに白人チャンピオンへの幻想からの目覚めが遅れた。その意味では、『ロッキー』シリ-ズの大ヒットこそ、マルシアノ幻想の再生とも受け取れる。さらにロッキーの息子役にスタローンが実子を使ったことにも幻想の残滓が窺える。映画『ロッキー』もマルシアノのファーストネームに由来している。

『ロッキー』シリーズでは描かれなかった人間性の残滓

『クリード 炎の宿敵』©2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

今回の最新シリーズ『クリード 炎の宿敵』では、アポロ・クリードの庶子アドニスがイワン・ドラゴの息子ヴィクターの挑戦にさらされる。後者はもろに実父がトレーナー、ロッキーは最初トレーナーを拒否するが、アドニスが初戦でドラゴ・ジュニアに惨敗するに及んで、ついにアドニスに対してデスヴァレー近くの砂漠で特訓を施し、モスクワでの対決に臨ませる。

アドニスは特訓のおかげでロッキーなみの「ため」を獲得し再戦に挑む。同時に、ロッキー戦に敗れたばかりか、美貌の妻まで奪われたイワン・ドラゴの息子に対する態度には、『ロッキー4/炎の友情』では描かれなかった人間性の残滓が浮かび上がる。

スタローンは72歳、皮膚色素の少ない白人であるために顔は小皺だらけだ。劇中でアドニスに対して「これからはお前の時代だ」とつぶやくが、死の床にあった筆者の一番若い叔父から同じ言葉を聞いたことを鮮烈に思い出した。兄弟で最も冒険心が旺盛だったこの叔父は、もろに日本の「南進政策」に乗り、台北帝大を出てパラオに入植した。

それでも、スタローンは『ランボー』は演じ続けるそうだから、高齢者の励みにはなり続けるわけだ。

文:越智道雄

『クリード 炎の宿敵』 1月11日(金)より、全国ロードショー

【特集:俺たちのクリード】BANGER!!!執筆陣が全力で読み解く!アポロVS.ドラゴから、アドニスVS.ヴィクターへ。

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クリード 炎の宿敵

『ロッキー4/炎の友情』でロシアの王者ドラゴとの壮絶なファイトの末、帰らぬ人となったアポロ。前作『クリード チャンプを継ぐ男』でロッキーのサポートを受け、成長した亡きアポロの息子・アドニスは、父を殺した男・ドラゴの息子であるヴィクターと対峙することになる。アポロVSドラゴから、アドニスVSヴィクターへ。時代を超えて魂のバトンが手渡される因縁の対決。世紀のタイトルマッチのゴングが、いま鳴り響く!

制作年: 2018
監督:
脚本:
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