「暴走上官を止めろ!」のはずが……ラーナー・ダッグバーティ主演、異色の戦争映画『インパクト・クラッシュ』

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ライター:安宅直子
「暴走上官を止めろ!」のはずが……ラーナー・ダッグバーティ主演、異色の戦争映画『インパクト・クラッシュ』
『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

インド初! ラーナーさん主演のサスペンスフルな潜水艦映画

CS映画専門チャンネル ムービープラスのインド映画コレクションに新しい1本が加わりました。TV初放映となる『インパクト・クラッシュ』は2017年のヒンディー語作品で、主演はラーナー・ダッグバーティ、ケイ・ケイ・メーナンほか。『バーフバリ』二部作(2015/17年)でラーナー演じるバラーラデーヴァの父役を演じたナーサルもちょっとだけ顔を出します。

『インパクト・クラッシュ』
DVD販売:アメイジングD.C.

インドは1947年の独立以来、隣国のパキスタンと絶えず軍事的緊張状態にあり、これまでに(1999年のカールギル紛争も含むと)4回の戦争が起きています。戦時以外でも小競り合いは多々あり、両国の軍は国境エリアで常に臨戦態勢にあります。そしてインドは、軍人に憧れる若者たちに一番人気があるのが、陸海空のうちの陸軍であるという珍しい国。少なくない本数が作られている戦争映画も、陸軍を舞台にしたものがほとんどです。そんななかで公開された本作は、「初の潜水艦戦争映画」というふれこみでした。

『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

さて、本作の時代背景は、1971年12月に勃発した第三次印パ戦争の直前となっています。当時のパキスタンは、インドを挟んで1000km以上離れた東西の領域に国土が分かれるという特異な状態でした。そのうちの東パキスタン(現在のバングラデシュ)に独立運動が起こり、西パキスタンにある首都イスラマバードに代表される国家権力はそれを弾圧します。それに伴い、印パ間の緊張も高まっていきます。

東の独立派を武力弾圧するにあたり、パキスタン軍の中枢は、東に派遣する兵員の補給ルートを確保するため、インド海軍の空母やベンガル湾沿いのインドの港湾の破壊を画策。そちらにインド軍の目を向けておいて、自軍への補給物資を東パキスタンに輸送しようというのです。

『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

この作戦の暗号無線を傍受したのが、インド東部海軍司令部でした。提督は潜水艦S21に偵察を命じます。このS21の艦長ランヴィジャイ・シン(ケイ・ケイ・メーナン)は、やや問題のある人物。しかし他艦は出払っており、やむを得ない選択でした。シン艦長は、敵を見つければ司令部からの命令も待たずに攻撃する抑えのきかない性格なのです。自軍から戦闘の口火を切ることは避けたい提督は、お目付け役兼ストッパーとしてアルジュン・ヴァルマー少佐(ラーナー・ダッグバーティ)を同乗させることにします。極秘任務として出港したS21は、ベンガル湾のただ中で、性能の点で勝るパキスタンの潜水艦ガーズィーと遭遇します。

『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

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歴史的事実を先に書いておくと、このガーズィーは1971年12月4日、第三次印パ戦争開戦の直後に93名の乗員もろともヴィシャーカパトナム沖で沈没しています。その経緯は軍事史上の謎とされており現在も不明、インド側とパキスタン側の説明も食い違っています。そこに至る経緯を自由に創作して緊張感のある人間ドラマにしたのが本作なのです。

『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

潜水艦ものなので、戦闘といっても敵が目に見えるわけではなく、頭脳戦の性格が強く、さらには自艦内での逃げ場のない人間関係の軋轢が息詰まる緊張を増幅します。さすがにこういうプロットとなると、ソング&ダンスを入れることも難しいように思われますが、どうなのでしょう。そしてキャストに連なる人気女優タープスィー・パンヌの役どころとは?

『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

本作をご覧になる方々の中には、テルグ語映画のファンの方も多いでしょう。本作はヒンディー語とテルグ語の2言語同時公開でした。また、本作がデビューとなったサンカルプ・レッディ監督は、ハイダラーバード出身のテルグ人です。前半では密室の心理劇が緊密に構成されているのですが、後半になるとテルグ語アクション映画の雰囲気が少しずつ入り込み、クライマックスで全開に。このあたりがテルグ語映画ファンには堪えられないところかもしれません。さらに、戦争映画お約束の愛国センチメントもこってりです。

『インパクト・クラッシュ』© 2017 THE GHAZI ATTACK

もうひとつ、ストーリーのほとんどが海中で展開する本作ですが、東部海軍司令部のあるヴィシャーカパトナムが母港だというのもくすぐる点です。アーンドラ・プラデーシュ州沿海部第一の都市であるヴィシャーカパトナム(通称ヴァイザーグ)は、軍港、商港、そして美しい海岸線が有名なところ。このビーチには、S21(実在しましたが、ガーズィーと遭遇したという事実はないようです)とほぼ同時期に稼働していた潜水艦S20クルスラ号が、役目を終えて保存されています。

テルグ語映画の聖地巡礼@ヴァイザーグでは、ソングシーンなどにも時折登場するこの潜水艦をお見逃しなく。(※ヴィシャーカパトナム市観光局公式サイト

文:安宅直子

『インパクト・クラッシュ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年11月放送

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『インパクト・クラッシュ』

第三次印パ戦争直前の1971年。ヴィシャーカパトナムの海軍基地から出航する潜水艦S21に、海軍士官アルジュンが乗り込んだ。冷酷な艦長や乗組員たちに囲まれ、荒れた海での過酷な哨戒、敵潜水艦との攻防など戦争の現実を目の当たりにするアルジュン。そんな中、S21に新たな命令が下される。

制作年: 2017
監督:
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