まるで“地獄のクラブ”に閉じ込められたような恐怖と快感!
『カノン』(1998年)『アレックス』(2002年)などの鬼才ギャスパー・ノエが、またしてもとんでもない問題作を作った。
1996年のある夜、有名な振付家の呼びかけで選ばれた22人のダンサーたちが人里離れた建物に集まり、アメリカ公演のための最後のリハーサルをしている。このリハーサルの長回しが最高なのです。「思わずクラブに行きたい!」と叫びたくなります。
そのままパーティーを始めたダンサーたち。その会場に置かれた、大きなボールに入ったサングリアには、なぜかLSD(ドラッグ)が入っていて、ダンサーたちは次第に我を忘れトランス状態へと堕ちていく。一体、誰が何の目的でサングリアにドラッグを入れたのか? そして、理性をなくした人間たちの狂った饗宴はどんな結末を迎えるのか……?
一度始まったら、もう目が離せないですよ。いや、とんでもない地獄のクラブに閉じ込められたような恐怖と快感があなたを襲います。「踊ることの喜びを作る映画、ジェットコースターに乗っているような気持ちになってくれると嬉しいな」と監督が言うように、ハラハラ・ドキドキ。「これは一体何の映画!?」と思わず叫びたくなります。
カンヌ映画祭での上映時に途中退室する人も多かったそうですが、賞賛もされていて、まさに賛否両論なんですけど、多分、退室した人はこの映画の本当の意味、“体験する”という感覚についていけなかったんでしょうね。
『CLIMAX #クライマックス』公式サイト
— 映画『CLIMAX クライマックス』 2019年11月1日公開 (@climax_2019) October 18, 2019
REVIEWを更新‼️#石野卓球 、#sugiurumn 、#AyaSato 、#小倉優香 、#djdaruma 、#塚本晋也#熱量ヤバめ のコメントは、ABOUT THE MOVIEからチェケラ???#ギャスパーノエ#最近肌寒い#ソフィアブテラ#ダフトパンクhttps://t.co/7bHNeTOYjn pic.twitter.com/T1MCwqBZqc
80年代後半にイギリスで生まれたレイブ・カルチャーの狂乱、最終的にはベルリンのラブ・パレードに100万人も集める一大カルチャーになった、あの時代を再現しているようなのです。我らのテクノ・レジェンド石野卓球が「恐怖のアシッドパニック! Giorgio Moroderの『Utopia』の使い方最高!」と言っているように、あの時代を疑似体験するために、この映画を観てもらいたい。
この世界観は日本のテクノ黎明期を支えた伝説のクラブから生まれた
この映画は、そんなレイヴ・カルチャーを賛美している映画ではないです。監督いわく「(ドラッグとかアルコールは一種のメタファーでしかなく)何かのきっかけで全てを壊してしまうこと、物を作りあげるよりも壊してしまうことの方が簡単だよ、ということを伝えたかった」だそうです。
監督はこういう音楽、ダンスの世界は「東京の<MANIAC LOVE(青山にあった伝説のクラブ)>で出会った」そうです。元々こういう世界が好きな人なのかなと思っていたのですが、違ったのですね。
MANIAC LOVEに入られたのは『エンター・ザ・ボイド』(2009年)を撮っている時のことなんでしょうかね。もしかしたら、当時会ってたかもしれないと思うとびっくりです。監督は純粋そうなアジアの少年、少女たちが毎夜遊び惚けているのを見て、これはなんとかしないといけないと思ってくれたのでしょう。確かに、あの頃のMANIAC LOVEは異常なまでの盛り上がりでした。
閉鎖された奇妙な場所で物語が起こるというのは、まさにMANIAC LOVEじゃんと思うのですが、「『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)のような閉所空間で起こるカタストロフィーを撮りたかった」そうです。まさか、この映画から『ポセイドン・アドベンチャー』のような王道パニック映画の名前が出るとは、どんだけ引き出しが多いんですか。
僕は、ジャン=リュック・ゴダールやルイス・ブニュエルのような不条理を描きながら、すごいメッセージが込められているのかなと感じていました。ギャスパー・ノエって、クエンティン・タランティーノに匹敵するくらいの映画オタクだと思うんですよね。編集の仕方もタランティーノっぽい。そしてカメラワーク、ライティング、編集も上手い! これこそ映画だと叫びたくなるような作品です。
個性豊かなダンサーたちの見事な演技と魅力的な踊りに惚れ惚れ!
いま思ったんですけど『カメラを止めるな!』(2018年)にも似てるなと。いつ「はい、カット!」って声がかかるのかなと思ってました。でも、そんなオチじゃないんですよね。
ほとんど即興で撮られたらしく、ダンサーたちに好き勝手にやらせたそうです。ダンサーの人たちってこんなに演技が上手いのか、とびっくりします。というか、こんなにキャラの濃い人たちをよく集めたなと。
そんな中でも一番素晴らしいのは、『キングスマン』(2014年)で殺し屋(ガゼル)を演じたソフィア・ブテラがキュートでセクシーで、惚れてしまいました。男のダンサーだとフランス映画の定番、女性心をくすぐるダメ男を演じてたロマン・ギレルミクというダンサーさんがよかったです。
とっても不思議な映画で、この映画は何を伝えたいのかよく分からなかったのですが、監督いわく「アンチ・ドラッグ映画」だそうで、「若い人たちに見て欲しい」と。
唯一、オチがベタだったのは残念かなと。もっとすごいどんでん返しがあってもよかったのかなと思ったのですが、でも、それを超えるスピード感と狂気がきっとあなたを虜にしてくれるでしょう。ギャスパー・ノエは天才監督だと言わしめる作品です。
文:久保憲司
『CLIMAX クライマックス』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開