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原作を読んで(たまに飲んで)改めて見た『人間の証明』は様々な業を背負った人間たちの「業イングマイウェイ」の集大成だった

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ライター:#玉袋筋太郎
原作を読んで(たまに飲んで)改めて見た『人間の証明』は様々な業を背負った人間たちの「業イングマイウェイ」の集大成だった
『人間の証明』DVD 編集部私物

「読んでから見るか、見てから読むか」原作と映画が互いに作用し合う作品

「玉さん、旬な映画を選んで欲しいんですよぅ」という編集部の願いを全く無視して今回オレが選んだのは、角川映画第二弾『人間の証明』(1977年)なんだな。

『人間の証明』DVD 編集部私物

公開された当時、映画と小説とテレビCMを巻き込んだ角川メディア戦略の大成功作品だね。まさか、この年齢になって見直すとは思わなかったっていう映画をチョイスしたら、編集部から『人間の証明』の原作と映画が送られてきた。要するに、公開時のキャッチコピー「読んでからみるか、見てから読むか」を実践してから、この原稿を書けという任務だ。

結構仕事が立て込んじゃっていて読んだり観たりする時間が足りなかったが、どうにか任務を達成したので、こうして締切ギリギリに間に合った。それでは優秀な編集部さん、 映画のあらましヨロシク!

「“キスミー”に行くんだ」ハーレムを飛びだした黒人青年ジョニーは、東京のホテルの42階直行エレベーターの中で鮮血に染まってしまう。“西条八十詩集”と「ストウハ……」という最後の言葉を残して。その頃、42階では女流デザイナーの八杉恭子のファッションショーが催されていた。棟居刑事らはニューヨーク市警と共に事件を捜査する。キスミーとは? ストウハとは? ジョニーは母に会うため日本へ来たのでは……? 推理はめぐり、捜査が進むにつれて浮かびあがる八杉恭子の影。新しい事実が掘り起こされ、また意外な事件が生まれてゆく。父と子、母と子、男と女の愛が見えない意図に絡みあい、そして感動のラストシーンが―。

今回オレに「読んでから見るか、見てから読むか」と突きつけられた任務。映画は何度か見ているから、原作を読んでから改めて本編を見ることにした。原作は森村誠一先生の大ベストセラー。実はオレ読んでなかったから、読みだしたら止まらないんだわ。

つまり「読んでから、見るか」状態だったんだけども、オレの場合「読んでから、飲んでから、見るか」っていう余計なコピーが入ってくるんだよ。途中に「飲んでから」が入っちゃうから、読むのに時間がかかるわけ。で、締切が迫ってくるんだわ。ならば「読んでから、飲んでるから、読んでる途中で見てから、読んでから、書くか」になってやがんの。

『人間の証明』本 編集部私物

角川メディアミックスをさらにミックスさせた玉袋ミックスでの『人間の証明』。しかし、これが意外にイケたんだ。競輪的にレース展開を言えば、バリバリに先行していたのは原作、それが最終4コーナーで映画が大きく捲くってゴール前で激しい競争になり、映画が先にゴールして2着に原作が入ってきた見事なレース! って感じ。

原作と映画との相違点が、ハッキリ見えてくるんだよね。「あ~原作のあの表現を映画はこうしたのか」とか「原作で書かれていたニューヨークのスラムを映画は上手く表現してしているな」とか。普通は相違点を茶化し気味になってしまうのだけども、原作も映画も素晴らしいから決してネガティブではない『人間の証明』が、オレなりに多角的に証明できた。

様々な業を背負った人間たちが繰り広げる「業イングマイウェイ」の集大成

『人間の証明 角川映画 THE BEST』
価格 ¥2,000+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

多数の人物が登場するこの作品。誰を主人公、というか物語の中心に置いて見るかによって、捉え方が変わる。殺されたジョニー・ヘイワードを中心に見るのか? ジョニーの母親である八杉恭子を中心に見るのか? 事件を追う棟居刑事を中心に見るのか? 八杉の放蕩息子の恭平を中心に見るのか? ニューヨークの刑事ケン・シュフタンを中心に見るのか? 恭平にひき逃げされた女性の旦那の小山田を中心に見るのか? 小山田の妻と密通していた新見を中心に見るのか? 麦わら帽子を中心に見るのか? 西條八十を中心と見るのか?

……とにかく『人間の証明』は、よりどりみどりの“お好み食堂”状態なわけだから、「孤独のグルメ」の井之頭五郎でも食べきれないほどの豊富な品書きで、複雑に絡み合う登場人物それぞれが背負って生きている“業”、すなわち<業イングマイウェイ>の集大成が『人間の証明』なのだ。

読む者、見る者に「自分の証明」をさせる作品、それが『人間の証明』

原作~映画~原作で本作と向かい合ったのだが、現実と物語が重なってしまうようになった。八杉恭子と放蕩息子・恭平の関係なんか三田佳子とバカ息子・高橋祐也と重なるし、棟居がガキの頃に眼の前で米兵(ケン・シュフタン)にフルボッコにされた父親は、昔、池袋に行ったときにヤクザに絡まれて殴られたオレの親父と重なるし、あの頃の忘れられない母のぬくもりやら、一人の女性を巡って繰り広げられる小山田と新見に女性トラブルを抱えていた昔の自分を重ねるし……。『人間の証明』は読む者、見る者に「自分の証明」をさせるのである。

そして何より、本作のジョニー・ヘイワードに松田優作の人生を重ね合わせてしまった。優作の最初の奥さんである松田美智子さんが、その出会いから結婚・離婚までを書いた著書「越境者 松田優作」を読んでから観るのも作品に深みが出る。ジョニーも優作も母の愛に飢えた越境者だから、俳優・松田優作はこの作品のジョニーに対し、どのような感情で芝居をしていたんだろう?

『人間の証明』DVD 編集部私物

映画の終盤、ジョー山中演じる可愛そうなジョニーと岡田茉莉子演ずる母の八杉、そして松田優作演じる棟居刑事の芝居を観ていて、心臓が張り裂けんばかりになっておかしくなってしまった。『人間の証明』は原作と映画と、酒との併用は避けたほうがいいと証明してくれたのだ。

文:玉袋筋太郎

『人間の証明』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年11月放送

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『人間の証明』

「キスミーに行くんだ」とハーレムを飛びだした黒人青年ジョニーが、東京のホテルのエレベーター内で死体で発見された。鮮血で染まった胸に、“西条八十詩集”を抱いたままで・・・。ジョニーが最期に口走った「ストウハ」という言葉を手掛かりに、棟居刑事はNY市警と共に事件を捜査する。

制作年: 1977
監督:
出演: