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吹替界の重鎮・羽佐間道夫に聞く!「『あ』だけで喜怒哀楽を表現してごらん、って言うんです」

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ライター:#BANGER!!! 編集部
吹替界の重鎮・羽佐間道夫に聞く!「『あ』だけで喜怒哀楽を表現してごらん、って言うんです」
羽佐間道夫

※このインタビューは2018年に行われたものです

26年ぶりの『ミッドナイト・ラン』吹替

―『ミッドナイト・ラン』(1988年)の吹替えを26年ぶりにやられて、いかがでしたか?

時代も変わりましたし、仲間としてやってきた連中と、今こうして揃うことってなかなかないんですよね。自分のことはさておき、声を聴いていたらみんなあんまり変わらないね。池田(勝)も富田(耕生)も、全然変わってないと思ったよ。

―初めて『ミッドナイト・ラン』をご覧になった時の印象は?

池田くんのやっているロバート・デ・ニーロは、それまで僕が結構やってるんですよね。それを逆転させたキャスティングっていうか。僕は、チャールズ・グローディンが大好きなんだよ。なぜかというと、目がたまらないの。なにもしゃべってないんだけど、娘に会うシーンとか、最後に空港でお金を渡すところとか、なにも言わずに目で全部芝居しちゃう。すごい役者だなと思って。すごい役者に巡りあったなって。ちなみに、僕は『ベートーベン』(1992年)と『天国から来たチャンピオン』(1978年)でも彼を演じています。

―CS映画専門チャンネル ムービープラスでは、『ミッドナイト・ラン』の地上波吹替版が2019年11月、12月にもノーカットで放送されます。

どっちの方がいいのか分からないけど(笑)。カットされていたシーンでは、ジャックとデュークが飛行機の中で食べたいものを話し合うシーンなんかは好きですね。冒険とユーモア、緊張と緩和がうまく組み合わさった映画だと思います。ただ、この作品は我々声優のおかげでさらに面白くなっていると思いますよ(笑)。

―吹替えならではの良さは、どういうところだと思われますか?

吹替えは、14文字(字幕の横書き1行分)では表せないことができる。たくさん詰まったニュアンスを表現できるところかな。恐らく、字幕の何倍もの意味を伝えることができるはずです。小池朝雄さんの『刑事コロンボ』(1967年~)をやった額田(やえ子)さんが、今回の『ミッドナイト・ラン』の翻訳もしたんだけど、彼女のようなものすごい才能のある翻訳者がたくさんいましたからね。

この間、『Dearダニー 君へのうた』(2015年)でアル・パチーノをやったとき、久しぶりにセリフが大切だなぁっていう思いがしましたよ。例えば日本の時代劇は言葉を大切にしていて、言葉で“何か”が浮かんでくるんです。セリフとセリフの間にある空間の美しさが、日本語にはあるんですよ。なぜかっていうと、母音が強いから。母音の後に、一種の間ができるんだよね。

母音を大切にしていると、とても聞きやすいセリフが生まれるんだけど、今はなにを言っているか分からない人が多いね。たぶん、それをチョイスして「ここの日本語をこうしたらいい」という現場の雰囲気が、だんだんなくなってきたんじゃないかなっていう気がするんですよね。僕は今、ラジオで朗読をやっているんだけど、そうすると言葉が大切だなって。言葉で人間の形を浮かび上がらせるわけじゃないですか。それは、落語もそうなんだけどね。そういう言葉の掛け合いみたいなものが、吹替えは面白いんじゃないかな。

僕の場合、リップシンクは全然合わないな(笑)

―羽佐間さんは、事前に役作りをしていくタイプですか?

昔は今みたいに、DVDを家に持ち帰って観るなんてことはなかった。収録とは別の日に、フィルム上映をみんなで観て合わせるリハーサルをしたものです。それで各自が家に帰ってから、どうやって組み立てるかを考えました。本番は、まさに勝負です。相手がどう来るかによって、現場で作っていく作業です。だから最初から役作りをしすぎると、相手に裏切られることもあるし、芝居としては面白みに欠けます。

羽佐間道夫

僕の場合、変な言い方だけど、役を作るというよりは「降りてくる」っていう感じがするの。僕らの仕事は、“塗り絵師”だなと思う。つまり、形あるものに色を塗っていく仕事。だからパレットに色がたくさん入っていないと、いい芝居はできない。その色って一体なんなのかっていうと、日常生活の中で音楽を聴き、小説を読み、雑学を知り、何をしても見聞を広める。そして、「じゃあこの色はパレットの中に入れておこう」となって、それを時々で使うと。

僕の場合、リップシンクは全然合わないな(笑)。ただ、合わせているのは呼吸。役と一緒に呼吸するっていうか。だから『ロッキー』(1976年)は、ボクシングをしなきゃいけないから大変なんだよ。12ラウンド戦って、挙句の果てに「エイドリアーーン!」って言うんだから(笑)。このセリフはもう、最後の雄叫びみたいなものだね。

―地上波で放送された名作吹替の人気が高まっていることについてどう思われますか?

吹替全盛期の頃は、田舎においてはテレビの字幕映画は視聴率が圧倒的に悪かった。なぜなら、電波状態も悪いし小さなブラウン管の画面には14文字しか出てこないでしょう。だから、例えば「園田」なのか「国田」なのか読めないし、濁音と半濁音も飛んじゃうの。『ターザンの新冒険』(1935年)なんか、「ターサンの新冒険」って見えちゃって、ターサンって隣の八百屋のおっちゃんかよ! って(笑)。そこを補うのが我々の役目であって、我々も勉強しながらお届けできるようにすれば、また吹替が王道になってくるんじゃないかな。

―演じていて、しっくりくるなぁと思う俳優はいますか?

ダニー・ケイですね。彼の主演作で僕がアテた『5つの銅貨』(1959年)っていう作品があって、密かに気に入ってます。映画自体も良かったし、一時代の代表的な作品です。化けて面白いのはピーター・セラーズだね。

私たちの役目としては、皆さんが抵抗なくトランスレートできて、映像にぴったり合っていることが大事。ピーター・フォークが出てきた時、「小池朝雄じゃないとコロンボじゃない」ってみんなが言ったんだからね。そのくらい、マッチしているということ。本当はそれが我々の役目ですよね。

何でもやらせる主義の、TBSの熊谷(国雄)さんっていうプロデューサーがいてね。振り返ると、マーロン・ブランド、『評決』(1982年)のポール・ニューマン、『ロッキー』のスタローン、『名探偵登場』(1976年)のピーター・セラーズ、『裸の銃を持つ男』(1988年~)のレスリー・ニールセン、『俺がハマーだ!』(1986年)のデヴィッド・ラッシュもやったよ! めちゃめちゃにキャスティングされたんですよ。「どうして俺を使うの?」って聞いたら「お前がやればなんとかやるから。いいだろう、やれよ」って言われて。僕は、プロデューサーに恵まれて百戦錬磨になったような気がしています。

俳優って、演出家に見い出されて信頼されてやっていくっていうのが一番いい。あんまり色んなことをやるもんだから、280人くらいのハリウッドスターを演じていますよ。キャリアは50~60年になるんだけど、1年に100本以上はやってたと思うんですね。ということは、6000~7000本はやっている計算になる。オファーのメールに、わざわざ「今回は3236本目です」とか報告してくる人がたまにいるけど (笑)。様々な役を演じて、様々なドラマをやらせてもらえたということは、役者冥利に尽きるとは思っています。

「あ」だけで、驚く、泣くなど喜怒哀楽を全部表現

―羽佐間さんは、無声映画に人気声優がライブで声をアテる人気企画「声優口演」のプロデューサーとしてもご活躍です。

無声映画だからセリフがないので、全部自分でセリフを作ることから始めます。その根幹は、落語とか漫才ですね。チャップリンのような喜劇は特にね。例えば、山寺(宏一)はひとりで色んなことができる人だから、犬が18匹出てきても全部違う犬を演じられる。そういう部分を楽しんでいる方もいらっしゃると思います。この間、小津(安二郎)さんの『淑女と髭』(1931年)という無声映画をやったんだけど、大喝采でした。まだ夢はたくさんありますよ。

―若い世代の声優さんや、今後の声優界に伝えていきたいことはありますか?

「あ」だけで喜怒哀楽を全部表現してごらん? って言うんです。驚く、泣く、たった一文字でそういうことができる。そういうことを表現できる場は、どうも寄席とかそういう語りの芸が集まっているところじゃないかなっていう気がしています。そういう部分に共感してくれる人と一緒に芝居をやっていくべきじゃないか、と。じゃないと本当の伝わり方っていうか、みんなに話す言葉も含めて次の世代に伝えられないなって。ぜひ記者の皆さんも、スターばかりじゃなくて「これだな!」と思える部分にフォーカスを当てて後押しするような、そういうジャーナリズムであってほしいなと思います。

羽佐間道夫(はざま・みちお)
10月7日生まれ、東京都出身。
シルヴェスター・スタローン、ピーター・セラーズ、ポール・ニューマン、ディーン・マーティンの吹替えや、「スーパーテレビ情報最前線」「皇室 特集」「every.特集」「ズームイン!!サタデー」「宝刀~日本人の魂と技~」などのナレーションでも活躍する声優界の重鎮。
無声映画の名作を、声優がその場で吹替え現代に蘇らせ、さらに映画に合わせた創作音楽も同時に生演奏されるという贅沢なライブイベント「声優口演」の企画総合プロデューサーとしても活動中。

『ミッドナイト・ラン【地上波吹替追録版】』は2019年11月、12月にCS映画専門チャンネル ムービープラスにて放送

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ミッドナイト・ラン【地上波吹替追録版】

シカゴ警察を退職し、ロスでバウンティ・ハンターをしているジャックは、ギャングの金を横領したマデューカスの行方を追っていた。ほどなくマデューカスを捕まえるが、彼の命を狙うギャングと、逮捕しようとするFBIの両方から追われるハメになり、2人は珍道中を繰り広げる。

制作年: 1988
監督:
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吹替: