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スラム暮らしの青年がラップで下克上! 驚きの実話『ガリーボーイ』監督と脚本家が語る【前編】

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ライター:#松岡環
スラム暮らしの青年がラップで下克上! 驚きの実話『ガリーボーイ』監督と脚本家が語る【前編】
『ガリーボーイ』

インド最大の人口を抱える大都市ムンバイ。その空港近くに広がるのが、アジア最大のスラムと言われるダラヴィ地区だ。映画『ガリーボーイ』(2018年)は、インドのヒップホップ音楽シーンをリードするダラヴィ出身の若きラッパー・Naezy(ネィズィー)と、ゾーヤー・アクタル監督が出会ったことから誕生した。

“ガリーボーイ”は主人公のステージネームだが、「ガリー」はヒンディー語で「路地、小路」を意味するので、Naezyやその盟友Divine(ディヴァイン)らストリートから発信するラッパーたちにピッタリのタイトルだ。これまで、主に富裕層を主人公にした作品を撮ってヒットさせてきたゾーヤー・アクタル監督だが、本作ではまったく違う世界を、以前にも増してパワフルに描いている。

公開に先立ち来日した、ゾーヤー・アクタル監督と共同脚本家のリーマー・カーグティーに話を聞いた。前後編でお届けする。

『ガリーボーイ』共同脚本家リーマー・カーグティー(左)、ゾーヤー・アクタル監督(右)

「54人の新人アーティストが映画の音楽を作る。新人のデビュー作を世に出すようなものだった」

―『ガリーボーイ』は、あなたにとってチャレンジングな作品だったのでは、と思います。スラム育ちの主人公、そしてラップ音楽をメインに据える、という選択は、これまでの作品とずいぶんかけ離れていますね。

ゾーヤ監督:本作で、私にとって何がチャレンジングだったかと言えば、アルバムを作るような作業をしないといけなかったことです。『ガリーボーイ』には54人もの新人アーティストが出演し、全員が映画のために音楽を作るわけですからね、こんな作業は初めてです。その中にはラッパーもいれば、ヒューマンビートボックス、作詞家、音楽プロデューサーもいる。デビューする新人のアルバムを世に出すようなもので、企画して、音楽をデザインして……と大変でしたが、ミュージック・スーパーバイザーのアンクル・ティワーリーにずいぶん助けてもらいました。これ以外は、いつも手がけている人間ドラマなので、特にチャレンジングということはなかったですね。

『ガリーボーイ』主演:ランヴィール・シン(左)、ゾーヤー・アクタル監督(右)

―脚本を書く時、共同執筆のリーマー・カーグティーさんと共にNaezyらの話を聞くなど、多くのリサーチをなさったとのことですが、これだけは観客に伝えたい、とお2人の意見が一致したことは何かありましたか?ジャパン・プレミアの舞台挨拶では「意見が違って、よくケンカのようになる」とおっしゃっていましたが(笑)。

リーマー:リサーチの段階で強く影響されたのは、本作の着想を与えてくれた2人のラッパー、NaezyとDivineですね。彼らは恵まれない境遇の中で、自分たちの力で何かを創り上げた。リサーチを始めた時から、“彼らの持つ何か”が私たちの心に強く訴えかけてきました。

ゾーヤ監督:やっぱりインドは階級社会なので、それゆえの葛藤がいろいろとあったんですよ。

リーマー:私たちは2人とも、それを映画の中でぜひ表現したいと思いました。

『ガリーボーイ』 ランヴィール・シン(左)、シッダーント・チャトゥルヴェーディー(中央)、ゾーヤー・アクタル監督(右)

「インドでもヒップホップが映画音楽に続く第二の波と言えるほどの人気を誇るようになった」

―監督は以前からヒップホップがお好きですが、インドではまだまだラップ音楽はマイナーな存在だと思います。ラップ音楽に対する、観客の反応はいかがでしたか?

ゾーヤ監督:インドでは、ラップ音楽はずっとアンダーグラウンドな存在でした。ムンバイやデリー、パンジャーブ州のチャンディーガルやカシミール、コルカタなどいろんなところにポツンポツンと存在してはいたんですが、大流行したり、音楽の主流になったことは一度もありませんでした。インドでは良くも悪くも、映画音楽が音楽シーンの主流を占めています。一番売れていて稼げる、そして一番よく知られているのが映画音楽です。ですから「映画という場を用意すれば、ラップ音楽が認知され、広く受け入れられるのでは」と思いました。現在は、今回映画で紹介されたアーティストたちがすごくがんばって活動を続けていて、ヒップホップ音楽は、映画音楽に続く第二の波と言えるほどの人気を誇るようになりました。嬉しいですし、もっとブレイクしてほしいと願っています。

『ガリーボーイ』ランヴィール・シン

―声なき者に寄り添うことで、ヒップホップやラップはここまで世界的に発展してきたと思います。主人公のムラドもスラムで育ち、社会に対して声を上げる機会がない中でラップと出会い、外の世界に向けてメッセージを発信するようになりますね。本作にとってラップとはどんな存在で、ラップによって物語にどんなエッセンスを加えられたと思いますか?

ゾーヤ監督:ラップも表現の一つですよね。そもそも、詞があって言葉で訴える、というのは、インド音楽では昔からの伝統的な手法です。その点では非常になじみやすい部分があり、今回のラップによってストーリーが展開していき、主人公の内面、つまり気持ちや考え方がラップによって代弁するというもの、観客にはすんなり受け入れられたと思います。ラップという手法によって、より多面的に表現でき、主人公の気持ちも強調される。さらに、堅苦しいやり方ではなくて、いま社会がどういう状況になっているのかを見せることができたと思います。音楽を通して伝えると、心の琴線にも触れやすいですよね。それと同時に、楽しませることもできるわけで、観客を退屈させない効果もありました。

『ガリーボーイ』ランヴィール・シン

―インドのヒップホップは、何か特徴があるのでしょうか?

ゾーヤ監督:自分の人生に起きたことを正直に歌っている。つまり、彼ら以外の誰にもできないラップ、というのがユニークな点ですね。そして、ヒンディー語、パンジャービー語、ベンガル語、ウルドゥ語等々、みんながいろんな言語でラップしている、というのもユニークかもしれません。ラップだけじゃなく、ヒューマンビートボックス、グラフィティなどが、総合的に同時進行で文化として育っているのも興味深いですね。

取材・文:松岡環

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『ガリーボーイ』

想像の範囲内だった人生から、誰も想像できない人生へ―インドのスラム街で生まれ育った“ガリーボーイ(路地裏の青年)”。青年の魂のラップが世界中に感動を呼び起こす―2019年インド世界興収2位!観る者の心震わすサクセスストーリー!

制作年: 2018
監督:
脚本:
出演: