ジョーカーの悪行を讃え賛同する人々を指さして嘲笑うのもジョーカー

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ライター:BANGER!!! 編集部
ジョーカーの悪行を讃え賛同する人々を指さして嘲笑うのもジョーカー
『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

DCコミックが誇る最狂最悪のヴィラン、ジョーカーの単独作品がついに登場! 世界各国で公開初週の興収ランキング1位を飾るなど、早くも『ジョーカー』旋風が吹き荒れている。日本でも2019年10月4日(金)から公開され、SNSなどでは絶賛の声(と“俺が思うジョーカー論”)があがっており、あの皆がもれなく好きな映画こと『ダークナイト』(2008年)以来と言っても過言ではない盛り上がりを見せている。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

初見のショックに加え2回目以降のスルメ感も味わえる濃厚なワルモノ映画!

物語の舞台となるのは80年代初頭のゴッサム・シティという設定で、これまでのバットマン関連作品とは趣が異なるレトロな雰囲気が漂っている。ゴッサム・シティのモデルとなったニューヨークらしさがより強く醸し出されていて、マーティン・スコセッシらNYを舞台に映画を撮ってきた先人たちの影響が色濃く、それはオープニングの70年代モダン仕様のワーナー・ブラザースロゴからも明らかだ。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

当時の音楽シーンを席巻していたはずのハードロックやシンセポップも当然ながら一切使用されず、アーサーがぼんやり眺めるでもなくつけっぱなしにしているテレビから流れているのはフレッド・アステア版の「Slap That Bass」で、これは1930年代の楽曲。アーサーが口ずさむフランク・シナトラもクラシカルな雰囲気を高め、作品の時代感覚を倒錯させる。

劇中のスコアも終始重~いストリングスの低音に覆われていて、上映が始まった直後から不穏な気持ちにさせられる。我々は、やがてこの男がジョーカーになるんだ……という前提で観ることになるわけだが、特に何かが起こるわけでもないシーンでも常に緊張感が漲っていて、むしろ心地よい倦怠感に包まれているような気分になった。さらに2回、3回と鑑賞すればまた違った感覚に陥り、初見の衝撃に加えスルメ感も味わえるというおトクな作品でもある。

ジョーカーの悪行を讃え賛同する人々を嘲笑うのもジョーカーのお仕事

物語も終盤に差し掛かると、それまで観ていた光景の現実と妄想の境目すら分からなくなってくる。ジョーカーは虚実の境目を超越したようなキャラクターだが、本作におけるアーサーは、なんとか現実世界にしがみつこうとした結果、踏み止まれずにジョーカーに堕ちてしまった。その背景には、脳天気な80年代が生んだロナルド・レーガン政権による貧富の格差の拡大などがあり、そういった点に関しては現代の日本と共通する問題を抱えていると言えるだろう。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

アーサーに同情できる部分はあるし、彼の絶望や疎外感に共感を寄せる人もいるだろう。しかし、結局は自意識の暴走というか、自己顕示欲や承認欲求を拗らせた結果でしかないのも事実。本作が与える影響に関しては観客個々の置かれた状況に拠るところも大きいが、基本的に“絶望”から生まれた物語であって、彼の中に“正義”は存在しない。地下鉄シーンの冒頭はアーサーなりの正義が働いた瞬間だったかもしれないが、結果的に最悪の形でそれを発動してしまった。

事実、我々が生きる社会には怒ったり抵抗しなければならない不道徳や悪行があふれている。しかし「ジョーカーに感情移入した!」「彼に同意する!」などといった賛同の声に対し、指をさして嘲笑するのもまたジョーカー自身だということを忘れてはいけない。真に警戒すべきは、自らの蛮行を正当化するための扇動に本作を利用しようとする人々だろう。担ぎ手がいなければ悪のカリスマも単なる変人でしかないのだ。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

アーサーは本物のジョーカーなのか? その存在を論じることすらナンセンス!

今でこそ『ハングオーバー!』シリーズ(2009年~)の監督として知られるトッド・フィリップス監督だが、彼の初監督作はステージで放尿し客に自分のウンコを投げつけるスカムなパンクバンドのフロントマンを追ったドキュメンタリー『全身ハードコア GGアリン』(1994年)である。GGは破滅願望のある男で、自身の体を刃物で傷つけたり、客を殴ったり(逆にボコられたり)、挙句の果てにはステージで自殺予告をするなど、とにかくセンセーショナルなパフォーマンスで話題を集めた男だ。

GG率いるバンド、The Murder Junkiesは過激なライブを行うたびに人気が高まり、パンクロック界のカルトスターとしてポジションを確立していったが、皮肉にもGGが自殺願望から開放されポジティブ思考に切り替わって間もなく、ドラッグのオーバードーズによって亡くなった。GGにバンドという依り代があったように、すべてを失った本作のアーサーがハードコアパンクのライブを観たら、どう思っただろうか。当時の荒廃したNYではヒップホップという新たな文化が生まれているし、アーサーもパンクスやラッパーになって鬱憤を音楽にぶつけていたかもしれない(?)。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

トッド監督は、本作におけるアーサーが本物(いわゆるアメコミ世界のジョーカー)のモデルになった人物である可能性、という説についても現時点では否定しておらず、そんなところも掴みどころのないジョーカーの本質を表しているかのようで苦笑してしまった。確固としたオリジンが存在しないだけにジョーカーのキャラクター造形を論じることすらナンセンスかもしれないが、とにかく本作が歴史に残る傑作であることに疑いの余地はない。

『ジョーカー』は2019年10月4日(金)より公開

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『ジョーカー』

「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸にコメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサー。都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながら母を助け、同じアパートに住むソフィーに秘かな好意を抱いている。笑いのある人生は素晴らしいと信じ、ドン底から抜け出そうともがくアーサーはなぜ、狂気あふれる<悪のカリスマ>ジョーカーに変貌したのか? 切なくも衝撃の真実が明かされる!

制作年: 2019
監督:
出演:
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