孤独な男が “悪のカリスマ” ジョーカーになった瞬間、震える……!

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ライター:杉山すぴ豊
孤独な男が “悪のカリスマ” ジョーカーになった瞬間、震える……!
『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

「Why So Serious?」錚々たる名優たちが演じてきた恐怖の道化師ジョーカー

映画『ジョーカー』はDCコミックが、いやアメコミ界が誇るスーパーヴィラン、ジョーカーを主人公にした意欲作です。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

ジョーカーは、バットマンの敵キャラとして1940年にコミックでデビューしました。パッと見ただけでバットマンのライバルとわかるようにしようと、黒いコスチュームで無口なバットマンに対し、白塗りで笑っている男、というビジュアルに。それを浴びた人間はニヤリと笑った顔で死ぬ、という恐ろしい毒ガスを使うサイコパス。犯罪こそ最高のユーモアと考え、残酷な劇場型犯罪を繰り返し、秩序を守るバットマンに対し混乱を巻き起こす、恐怖の道化師です。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

バットマンが映画化されるたびに、この強烈すぎるライバルも映像化され、ティム・バートンの『バットマン』(1989年)ではジャック・ニコルソンが、『スーサイド・スクワッド』(2016年)ではジャレッド・レトがそれぞれ演じてきましたが、なんといっても有名なのは『ダークナイト』(2008年)でヒース・レジャーが演じたジョーカーでしょう。

『ダークナイト』が封切られる前にヒース・レジャーは他界しましたが、その圧倒的な演技にオスカー(助演男優賞)が贈られました。強烈な悪役キャラ演技でオスカーを獲ったという意味では、アンソニー・ホプキンスの『羊たちの沈黙』(1991年)におけるレクター博士に匹敵する偉業です。

というわけで、多くのクリエーターにとっても魅力的な素材であり、このたび初めて彼にフォーカスした映画『ジョーカー』が作られたわけです。

ホアキン・フェニックス演じるジョーカーと観客がシンクロしてしまう『ジョーカー』

アメコミ・ヒーローものに登場するヴィランを主役に据えた作品は本作が初めてではなく、例えばバットマン系の悪役がチームとなって大暴れする『スーサイド・スクワッド』(マーゴット・ロビー演じる美悪女ハーレイ・クインが素敵)や、コミックではスパイダーマンの好敵手である怪物ヒーローを描いた『ヴェノム』(2018年:トム・ハーディ主演)、ハル・ベリー主演の『キャットウーマン』(2004年:もともとはバットマンの物語に登場するキャラですが、名前とイメージだけを借りて完全オリジナル作品として作られた)等があります。

しかし、これらの作品がいわゆる“アメコミ・ヒーロー映画の範疇”で作られているのに対し、この『ジョーカー』はそうした匂いのしない作品です。例えて言うなら『シン・ゴジラ』(2016年)がそれまでのゴジラ映画・怪獣映画とのつながりを排し完全独立した作品であり、トーンもまるで違う作品だったのに似ています。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

僕は当初、ジョーカーが暴れまわるピカレスクものを想像していたのですが、実際は“ジョーカーになるまで”のお話でした。孤独な男が狂気と悪のカリスマになっていく様子が、ドラマチックに描かれています。正直、ストーリー自体はとてもストレートで先は読める。けれども緊張感が漂い、本当に不安な気持ちになります。主人公アーサーを演じるホアキン・フェニックスの演技に惹き込まれていくのです。

主人公に同情するのではなく、いつしか彼とシンクロしてしまう。だから、この悲しい男がある事件をきっかけに、ついに“目覚めてしまった”とき、こちらもカタルシスを感じてしまいました。なんて危険な映画でしょうか。

コミック要素を巧みにミックス! デ・ニーロ主演『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』との類似性

それで思い出すのが『タクシードライバー』(1976年)という映画。ロバート・デ・ニーロ演じるベトナム戦争帰りのタクシー運転手が、武装して狂気のヒーローになるお話です。恐らく『ジョーカー』の監督トッド・フィリップスの頭の中には、『タクシードライバー』のイメージがあったのではないか? それが証拠に、ロバート・デ・ニーロが本作では重要な役割を演じています。また、明らかにロバート・デ・ニーロ主演の異色作『キング・オブ・コメディ』(1983年)のオマージュとも言える展開になっていきます。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

本作はDCコミック原作でありながら、『アクアマン』(2018年)『シャザム!』(2019年)のようにDCロゴが大きく出ることはありません。2019年のサンディエゴ・コミコン(アメコミの祭典)でも全くフィーチャーされていなかったので、あえて“DCコミック映画売り”はせずに、“ジョーカーというキャラだけを借りた異色(すぎる)人間ドラマ”とも言えるのですが、僕は見事なアメコミ映画になっていると思いました。

本作におけるジョーカーの誕生秘話は映画オリジナルですが、もともとコメディアンを目指していた男が正体であるところなどは、コミックの要素をうまく吸収しています。また、そもそもコミックの方でもジョーカーの過去については諸説あり、様々なバージョンがあります。

映画ファンもアメコミ好きも快哉必至! ヴィラン映画の可能性を示す大傑作の誕生

映画『ダークナイト』をご覧になった方ならお分かりになるかと思いますが、あの作品ではジョーカーが語る生い立ちが毎回違っていましたよね。あれは虚言癖というより、ジョーカーの頭の中では“すべて本当”なのかもしれません。考えようによっては本作も、ジョーカーが語る“生い立ちの一つ”なのです。そして、これはネタバレに繋がるので詳しくは書きませんが、アメコミ好き(バットマン好き)の方なら「そうくるか!」と叫びたくなるでしょう。

だから僕は、アメコミに興味のない映画ファンにも本作をおすすめしつつ、アメコミ映画ファンには『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)と同じくらい必見のアメコミ映画が誕生した、と言いたいのです。『ジョーカー』はアメコミ・ヒーロー映画ではなく、アメコミ・ヴィラン映画の可能性を示してくれました。この路線で、他のDCヴィランもどんどん映画化して欲しいものです。僕の好きなリドラー(バットマンを敵視し、謎解きに執着する知能犯)とか、映画にならないかな。

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

文:杉山すぴ豊

『ジョーカー』は2019年10月4日(金)公開

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『ジョーカー』

「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸にコメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサー。都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながら母を助け、同じアパートに住むソフィーに秘かな好意を抱いている。笑いのある人生は素晴らしいと信じ、ドン底から抜け出そうともがくアーサーはなぜ、狂気あふれる<悪のカリスマ>ジョーカーに変貌したのか? 切なくも衝撃の真実が明かされる!

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 孤独な男が “悪のカリスマ” ジョーカーになった瞬間、震える……!