印象派の巨匠“モネ”没後100年に観たい・知りたい!映画『モネと時間旅行』で描かれる「7つの場所&キーワード」
巨匠没後100年メモリアルイヤー
『モネと時間旅行』全国公開中
『ダンサー イン Paris』などで知られるセドリック・クラピッシュ監督による最新作『モネと時間旅行』が、印象派の巨匠モネ没後100年メモリアルイヤーとなる今年、9月18日(金)より全国公開中だ。
パリで暮らす家族に遺された、ノルマンディーの草原に佇む古い一軒家。長い間閉ざされた屋敷から発見されたのは、白いドレス姿の女性が描かれた印象派の作品らしき絵画だった。絵に描かれた女性と、作者は、いったい誰なのか? 1枚の絵画に隠された家族の秘密が解き明かされたとき、それぞれの人生が輝きはじめる――。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
そんな本作をより深く味わうために、モネの人生と作品をひも解く「7つの場所&キーワード」をご紹介。そのための〈視点〉を与えてくれるのは数々の展覧会のキュレーションを手がけ、アートライターとして画家たちの食卓や暮らしにも迫るなど、独自の視点でアートの魅力を伝えてきたキュレーター・林綾野だ。
モネは何を見て、どこで暮らし、どんな日々を送りながら、それまでにない絵画表現を追い求めたのか? 映画の舞台となる19世紀末のパリへ、そしてモネが生きた時代へ――。本作鑑賞の最適なガイドとして、モネの人生と創作の軌跡を予習してみよう。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
モネの人生と作品をひも解く「7つの場所&キーワード」
① パリとル・アーヴル
モネの原点は、パリと港町にあった
1840年11月14日、オスカー・クロード・モネはパリに生まれました。そして4、5歳の頃、家族と共に大西洋に面した町、ル・アーヴルに移り暮らし、少年時代をこの港町で過ごします。さかんに絵を描くようになったのは中学の頃から。1859年5月、19歳の時、サロンを見るためにパリを訪れ、そのまま留まることを決意。この街で画家として、これまでにない絵を描こうと努力を重ねます。
<注目シーンはココ!>
現代のシーンで、屋敷の相続人の代表セブたち4人の親戚がアンドレ・マルロー近代美術館を訪問した後、美術の専門家のカリクストの案内で「美術史のランドマーク的な場所に案内する」と港を訪れます。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
② モンマルトル
若き芸術家たちが集った、ボヘミアンな丘
今ではパリの名所として名高いモンマルトルですが、印象派の画家たちが若かった頃は、牧歌的な風景が広がる農村でした。パリの中心部に比べて家賃や物価も安かったため、貧しい芸術家たちが暮らすにはうってつけの場所。芸術家たちはボヘミアンな雰囲気が漂う「ル・ラ・モール」のようなカフェに集っては芸術論を熱く交わしました。丘に佇むサクレ・クール寺院は、1875年から建設が始まり、1914年に竣工し、街のシンボルとなります。
<注目シーンはココ!>
19世紀のシーンで、モンマルトルのビストロとして「ル・ラ・モール」が登場し、19世紀の主人公アデルは船で出会った画家と写真家を志す、ふたりの青年が下宿している二階に居候することになります。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
③ 第1回印象派展
《印象・日の出》が“印象派”の名前を生んだ
当時、芸術家が認められるためには「サロン(官展)」に入選する必要がありました。今までにないテーマを新しい画法で描くモネやルノワールの絵はなかなか認められず、作品を発表する機会を得ることができませんでした。そこで1874年、モネたちは30人の芸術家仲間で力を合わせ、160点余りの作品を展示する「画家、彫刻家、版画家等による共同出資会社展」を開催することに。モネは故郷ル・アーブルの港の風景を捉えた《印象・日の出》を出品。批評家のルイ・ルロワがこの作品について批判的な言葉を述べたことをきっかけに、同展は「印象派展」と呼ばれるようになります。
<注目シーンはココ!>
モネ、ルノワール、セザンヌ、モリゾのみならず、作家のヴィクトル・ユゴーも登場。批評家ルイ・ルロワの批判を聞いた、ある人物が怒り出して大混乱になる、アート好き必見のシーンです。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
④ ナダールのスタジオ
“印象派”誕生の舞台は、写真家のスタジオだった
フランスの写真家であり、肖像写真の第一人者だったフェリックス・ナダールは、1874年、第1回印象派展の開催にあたり、パリのカピュシーヌ大通り35番地に構える自らの写真スタジオを会場として提供しました。モネはこのスタジオのバルコニーから描いた《カピュシーヌ大通り》(1873年)を印象派展に出品しています。ナダールは60歳前後のモネの肖像写真の撮影もしており、2人は生涯にわたり芸術的信頼関係を結んでいました。
<注目シーンはココ!>
19世紀のシーン、オシャレをしたアデルがリヨン駅構内のレストラン「ル・トラン・ブルー」で、ナダールと女優サラ・ベルナールに遭遇。後日、あることを確認するために、ナダールのスタジオを訪れます。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
⑤ ジヴェルニーのモネの家
絵だけじゃない。モネが人生をかけて作った“もうひとつの作品”
新しい絵画の表現に挑戦し続けたモネは、なかなか画家としての生活が安定せず苦労を重ねました。しかし40歳頃から作品が売れるようになり、1883年、終の棲家となるノルマンディー地方の小さな村ジヴェルニーの家に移り住みます。園芸に傾倒していたモネは、家の前に広がる約12,000㎡に及ぶ林檎畑を改造し、理想の「花の庭」を、1893年には向かいの土地を購入し、川から水を引き入れ「水の庭」を作り、睡蓮を育てました。浮世絵を敬愛していたモネは、柳を植え、藤棚を作るなど、日本らしい風情を湛えた水の庭を愛していました。
<注目シーンはココ!>
19世紀の場面で、モネの暮らすジヴェルニーの家が登場し、そこにある人物が訪ねてきます。スクリーンいっぱいに広がる美しい庭を見ることが出来ます。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
⑥ 睡蓮
30年、約300点。モネが追い続けた“移ろう光”
ジヴェルニーの水の庭で、睡蓮を育てていたモネは、1895年55歳の時、水に浮かぶこの花の姿を初めて描きます。以来、1926年86歳で亡くなるまで、約30年にわたり睡蓮を描き続けました。異なる時刻、天候、季節によって移ろいゆくその姿をモネは追い続け、約300点もの作品を残しました。晩年に仕上げた、「大装飾画」と呼ばれる高さ200cm、長さは600〜1275cmに及ぶ大画面合計8点に描き出された睡蓮作品、はフランス国家に寄贈され、現在、オランジェリー美術館で見ることができます。
<注目シーンはココ!>
冒頭と最後に、オランジュリー美術館の《睡蓮》の連作「朝の柳」「2本の柳」「緑の反映」「雲」などが映し出されます。
『モネと時間旅行』© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
⑦ 園芸、そして食――
“こだわり”を愛したモネの、絵画だけではない日常
それまで絵の題材を求めて旅をすることが多かったモネですが、ジヴェルニーに暮らすようになってからは近くの麦畑や庭の花々を頻繁に描き、家で過ごす時間が増えていきます。絵を描くことを何よりも大切にしたモネが、暮らしの中で楽しみにしていたのが園芸と食。広大な庭にどのような花を育てるか、草花のリストを作り、何人もの庭師を雇い、理想の庭を作り出していきました。食については、モネが好きな料理やレシピを綴ったノートが6冊残っていて、それを見ると、前菜、主食、デザートまで様々な好物があったことがわかります。庭の鶏小屋では毎朝産みたての卵、畑では新鮮な野菜やハーブも手に入り、秋にはたくさんのキノコが採れたといいます。フォアグラやオマール海老、アイスクリームなども大好きだったモネ。絵にも庭にも、そして食にも、何事にもこだわりを貫いた人だったのです。
【林綾野 プロフィール】
キュレーター、アートライター。展覧会の企画制作、講演会や絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への想いとともに、ライフスタイルや食の趣向などを研究し、美術作品を身近なものとして紹介。近年手がけた展覧会に、「熊谷守一展」「安野光雅展」「堀内誠一絵の世界展」「柚木沙弥郎Life・life展」「谷川俊太郎 絵本百貨展」など。主な著作に『画家の食卓』『フェルメールの食卓』『ゴッホ 旅とレシピ』『モネ 庭とレシピ』(講談社)、『浮世絵に見る江戸の食卓』(美術出版社)、『 ぼくはクロード・モネ』(講談社)などがある。
※テキスト作成協力:Ayano HAYASHI
『モネと時間旅行』はヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開中