• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • ブラピのパパは宇宙人ジョーンズ⁇ 地球、月、火星……壮大な距離を移動しつつ、すぐ近くの人間関係をうまくつかめない人々を描く『アド・アストラ』

ブラピのパパは宇宙人ジョーンズ⁇ 地球、月、火星……壮大な距離を移動しつつ、すぐ近くの人間関係をうまくつかめない人々を描く『アド・アストラ』

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#BANGER!!! 編集部
ブラピのパパは宇宙人ジョーンズ⁇ 地球、月、火星……壮大な距離を移動しつつ、すぐ近くの人間関係をうまくつかめない人々を描く『アド・アストラ』
『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

『ワンハリ』から飛躍しすぎ! 今度のブラピは賢者モードがデフォ

ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した長編デビュー作『リトル・オデッサ』(1994年)から前作『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016年)まで、一貫して“家族”の姿を描いてきたジェームズ・グレイ監督。『ワンハリ』フィーバー冷めやらぬブラッド・ピットが主演する『アド・アストラ』でも、やはり父親と息子の愛と確執が主題になっている。

『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

そんな本作は終始ずっしりした空気が漂っているものの、ブラピ演じる主人公の宇宙飛行士ロイは心拍数が絶対に80を超えない、つまり賢者モードを自在に操れるというクールな男。終始「スン……」とした風情なので地味といえば地味だが、このテの設定に燃える映画ファンも少くないだろう。物語冒頭、大規模なアクシデントにも冷静に対応するロイを描き、その賢者ぶりをサクッと説明してしまうのも手際よい。

なんだこの濃い親子は! 息子ブラピが追うのは父トミー・リー・ジョーンズ

お話の方は、自滅願望があるんじゃないかと妻に心配されるくらい無機質な男ロイが、同じく宇宙飛行士であり数々の偉業を達成してきた父クリフォードの失踪に関わる任務を命じられるところから始まる。クリフォードは地球外生命体を探索する「リマ計画」の最中に行方不明となり、まだ幼かったロイや家族には死亡したと報告されていた。ところが、ある時いきなりお偉いさんから「お前の親父、生きてるっぽいから調査してこいや」という命令が下るのだった。

『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

しかも、ここのところ巨大なサージ(高電圧の噴出みたいな感じ?)が頻発し、それによる事故で多くの死者が出るなど大問題となっていて、その原因がクリフォードの研究にある可能性が高いというのだ。息子であり優秀な宇宙飛行士でもあるロイに白羽の矢が立つのは自然なことかもしれないが、十数年前に亡くなったと思っていた父とコンタクトを取るべく火星に行けというのは、控えめに言ってもムチャ振りである。それでもロイは揺るぎない賢者モードで火星行きを即決し、まずはシャトルに乗って月へと旅立つのだった。

『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

まるで『マッドマックス』!? 月面で繰り広げられる激しいカーチェイスに大興奮

本作の世界観は月面旅行がレジャー化しているくらいには未来で、リアルな「スター・ツアーズ」的SFディテールが楽しめる。未来のお話なのに月や火星の施設にはエイジング感があったりして、『ブレードランナー』風レトロフューチャー感もたまらない。とはいえそのへんの描写は皮肉も込められていると思われるので、元ZOZOの社長さんにはまず本作を観て欲しい(すみません本当はどうでもいいです)。

『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

そして本作は、小難しいハードSFだと思って観る必要はまったくない。いわゆる『マッドマックス』さながらの月面カーチェイスや、まさかのB級バイオホラーみたいなシークエンスをいきなりぶっ込んでくるので、映画ファンならば問答無用で楽しめるはず。ブラピ自身のナレーションによって説明しすぎている部分はあるものの、逆に言えば意味がわからずストレスを感じることもないので、必死でストーリーを追ってしまいがちというビギナーにもオススメできる(それでも眠くなりそうだったら、ずっとブラピの顔を観ててください)。

『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

はたして地球外生命体は見つかるのか!? え、そもそもそういう話じゃない?

数億ドル規模の作品も少くない昨今、意外や本作の予算は8000万ドル(約85億円)ほどだというが、どこを見ても安っぽさは全くない。むしろ『インターステラー』(2014年)ほどブッ飛んだ設定がないぶん、SF描写は誠実と言えるかもしれない(撮影は同じくホイテ・ヴァン・ホイテマだが)。グレイ監督は、地球から月、火星、海王星という気の遠くなるような物理的距離を移動しながらも、すぐ隣にあるはずの“人間関係” “家族への愛”を掴みかねている人間たちを描いている。

『アド・アストラ』©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

地球外生命体と神、どちらのほうが現実的な存在なのか? などなど、作品に込められた様々なメッセージを脳内で反芻しているうちに、宇宙人ジョーンズ……じゃなくて父クリフォードとロイはついに対面する。監督自身も影響を明言している通り、多くの人が『2001年宇宙の旅』(1968年)や『地獄の黙示録』(1979年)からの影響を感じ取るかと思うが、実際に観終わってみると、そういった過去の名作たちとは根本的に異なる“2019年の映画”としての印象を受けるはずだ。

『アド・アストラ』は2019年9月20日(金)より全国公開

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『アド・アストラ』

時は近い未来。宇宙飛行士ロイ・マクブライドは、地球外知的生命体の探求に人生を捧げた科学者の父クリフォードを見て育ち、自身も宇宙飛行士の道を選ぶ。しかし、父は探索に出発してから16年後、太陽系の彼方で行方不明となってしまう。
だが、父は生きていた──ある秘密を抱えながら。
父の謎を追いかけて地球から43億キロ、使命に全身全霊をかけた息子が見たものとは──?

制作年: 2019
監督:
出演: