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実在した黒眼帯の戦場記者の壮絶半生! 正義感とタバコと酒を手に最前線へ突進する伝説の女性を描く『プライベート・ウォー』

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ライター:#齋藤敦子
実在した黒眼帯の戦場記者の壮絶半生! 正義感とタバコと酒を手に最前線へ突進する伝説の女性を描く『プライベート・ウォー』
『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

報道とは何か? 命をかけて真実を追求した実在の戦場記者の物語

『プライベート・ウォー』は、2019年9月公開作品で最もお薦めしたい1本だ。主人公はメリー・コルヴィンという実在の女性ジャーナリストで、レバノン内戦、チェチェン紛争、湾岸戦争、東ティモール紛争など、世界中の紛争を最前線で取材した伝説の戦場記者。命をかけて真実を追究した彼女の姿に、“報道とは何か”という根源的な問いを、今の日本では特に、何度も考えさせられる。

『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

映画は2001年、すでに英国サンデータイムズの戦争特派員として有名になっていたコルヴィンが、スリランカ内戦を取材中に爆撃を受けて片目を失うところから始まる。2003年のイラク、2009年のアフガニスタン、2011年のリビアと続き、2012年のカダフィ政権崩壊後、内乱状態に陥ったリビアで、政府軍の攻撃を受けて亡くなるまでの11年間を追う。

『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ロザムンド・パイクの新境地! 報道の使命と幸せな家庭の狭間で揺れる記者を好演

戦争そのものがテーマではなく、戦場のPTSDに苦しみながら、真実を報道したいという欲求に突き動かされて危険地帯に戻っていくプロのジャーナリストとしての彼女と、愛する夫と子供に恵まれ、普通の家庭生活を送ってみたいという女性としての彼女の葛藤がテーマ。『プライベート・ウォー』とは、彼女の人生そのものを戦争に例えた題名である。

『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

頭脳明晰、男勝りの毒舌家、チェーンスモーカーでアルコール中毒。誰よりも深く傷つきながら、誰もが尻込みする危険な最前線に突き進んでいくジャーナリスト、しかも実在の人物という難役に挑んだのは、英国の女優ロザムンド・パイク。この演技でゴールデン・グローブ賞女優賞にノミネートした。メリーに似せるためにアメリカのアクセント、声のトーン、しぐさを研究したという。映画のラストで本人の映像が出てくるが、本当によく似ている。

『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

もちろん、彼女の演技が素晴らしいのは、ただよく似ているからだけではない。もしこの映画が大手映画会社の製作だったら、アカデミー賞にもノミネートされただろう。ボンド・ガールとしてデビューした彼女のブレイクスルーとなった『ゴーン・ガール』(2014年)よりも優れた名演で、彼女の代表作となるはずだ。

『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

監督のマシュー・ハイネマンは1983年生まれ。2015年の『カルテル・ランド』と2017年の『ラッカは静かに虐殺されている』という2本のドキュメンタリーで知られる。『プライベート・ウォー』は彼にとって初の長編劇映画だが、ドキュメンタリー畑出身らしく、情緒に流れない、ドラマ性を拝した乾いた選出が、この映画にぴったりだ。また、『ラッカ~』でのシリア内戦の取材経験が生かされて、画面の隅々までリアルな緊張感に満ちている。

『プライベート・ウォー』©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

中毒、使命、正義感、そして人生……極限を生きる者が自ら危険に飛び込む心理

そんな『プライベート・ウォー』を見ていて、同月公開のもう1本のお薦め映画『フリーソロ』との共通点を考えていた。『フリーソロ』とは、エル・キャピタンという約千メートルの岩壁を、世界で初めて、命綱なしの素手で登ったアレックス・オノルドのドキュメンタリーである。フリーソロという登攀スタイルでは、どんなに注意をしても事故は起こりうるし、滑落したら死ぬ。ここで、ふと「人はなぜ山に登るのか? そこに山があるから」という古典的な問答を思い浮かべた。元は、エベレスト初登頂に挑戦するジョージ・マロリーの言葉だ。

アレックス・オノルドにとっての山はエル・キャピタンであり、メリー・コルヴィンにとっては戦場だった。どちらも命がけの危険な場所であり、その危険はアディクティヴ(中毒性)である。メリー・コルヴィンの場合は、加えてジャーナリストとしての正義感があった。自分が大勢の人の目になって、真実を報道するのだという強い使命があった。結局、彼女は戦場で命を落とすことになるのだが、彼女にとっての戦場は、ジョージ・マロリーにとってのエベレスト同様、人生そのものだったのだ、と。

文:齋藤敦子

『プライベート・ウォー』は2019年9月13日(金)より公開

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『プライベート・ウォー』

世界中の戦地に赴き、レバノン内戦や湾岸戦争、チェチェン紛争、東ティモール紛争などを取材してきた女性戦場記者メリー・コルヴィン。
2001年のスリランカ内戦取材中に左目を失明、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみながらも、黒の眼帯をトレードマークに世間の関心を紛争地帯に向けようと努めた“生きる伝説”は、2012年、シリアで受けた砲撃で命を落とした。真実を伝える恐れ知らずの記者として戦地を駆け抜けながらも、多くの恋をし、感性豊かに生き抜いた知られざる半生が今、語られる。

制作年: 2018
監督:
出演: