「アナログで撮られた映像は恐ろしい」フィリッポウ兄弟監督が語る“儀式”スリラー『ブリング・ハー・バック』の裏側
フィリッポウ兄弟が最新作『ブリング・ハー・バック』を語る
A24史上最大級のヒット作となった『トーク・トゥ・ミー』(2022年)のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟監督が、ふたたびA24と組んで放つ“儀式系”スリラー、『ブリング・ハー・バック』がついに7月10日(金)より全国公開を迎える。
『ブリング・ハー・バック』© 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
名優サリー・ホーキンスを主演に迎え、身寄りを失い親切な里親ローラに引き取られたアンディとパイパーの兄妹が直面する不可解な出来事と、怪しい少年オリバーの秘密、そしてあまりにも恐ろしい“儀式”の顛末を描いた本作。終始ユルみのない張り詰めた緊張感と対峙させられ、和やかな時間が秒で違和感と恐怖に変わる、この夏必見のスリラーだ。
もはや数百万フォロワーを抱えるYouTuberで……という肩書きも不要となった感のあるフィリッポウ兄弟に、本作の撮影エピソードや若いキャスト陣との関係、A24との仕事について聞いた。
撮影メイキング:『ブリング・ハー・バック』© 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
「オーディションでソラ・ウォンの演技を見て、彼女しかいない! と思ったんだ」
――前作『トーク・トゥ・ミー』の世界的な大ヒットは、本作を制作するうえでお二人にどんな影響をもたらしましたか? プラス面と、もしマイナス面があれば教えてください。
ダニー:プラス面としては、すぐに次作へのGOサインが出たことだね。『トーク・トゥ・ミー』は実現までに3年かかったんだけど、今作はすぐにOKだった。マイナス面があるとすれば、前作の成功がプレッシャーになったこと。より周囲の目を気にしなければならなかったって言うのかな。
撮影メイキング:『ブリング・ハー・バック』© 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
――サリー・ホーキンスは言うまでもなく、本作は子役たちもとても素晴らしいです。オリバー役のジョナ・レン・フィリップスの悪魔的な憑依演技には本当に驚愕しましたし、兄アンディ役のビリー・バラットはホーキンスと対等に渡り合い、私たちの感情移入を一手に引き受けてくれます。そして妹のパイパーを演じたソラ・ウォンは、彼女自身のパーソナリティがパイパーの人物設定にも盛り込まれていますよね(※白杖を使うのをやめた理由など)。ソラは演技がほぼ未経験だったとは思えない存在感ですが、彼女を起用した決め手を教えてください。
マイケル:役柄上、視力に障がいを持っていることは必須の条件だったから、盲学校などに連絡をして演技に興味がある若者を探したんだ。そこで手を挙げてくれたのがソラ・ウォンだった。それでオーディションのときに即興で自由に演じてもらったら、やっぱりすごくリアリティあふれる演技を見せてくれて。それを見て「彼女しかいない!」と思ったんだ。演技というのは経験にかかわらず、才能があるかどうかだと思う。いかにリアルに見せられるか、役に入り込めるかがポイントで、彼女はそれを兼ね備えていたんだ。
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ダニー:演じる役どころの関係もあって、ソラ・ウォンに「これまで大切な人を失ったとか、もしくは後悔していることはある?」と聞いたところ――彼女は日本人とのミックスなんだけれど――「これまで日本語を学んでこなかったから、亡くなった祖父と直接会話ができなかったこと」と教えてくれたんだ。それはすごく深みがあることだし、演じる役にとっても大切なことだと思って、それも大きなポイントだったね。
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「大切な人の映像をVHSで見返して悲しみを癒すのは……」
――本作には目を背けたくなるようなグロテスクな描写もありますが、それよりも「人物を描くこと」を重視しているように感じました。そのためボディホラー的なシーンよりも、アンディとパイパーが受ける心理的・肉体的な暴力や、恐ろしい光景に対しパニックを抑制しようと努める姿に、より胸が痛みます。「バイオレンス描写」と「肉体的・心理的トラウマ描写」のバランスについては、強く意識されましたか?
ダニー:そういったバランスは常に意識していて、脚本の段階だと暴力的なシーンを描く場合はテーマに沿っているのか、ストーリーやキャラクターに必要なのか、ということを意識したよ。ただショッキングに見せるために入れるわけじゃないんだ。さらに撮影後、編集の段階で――だいたい撮りすぎてしまうんだけど――そこでカットしたりして、そのあたりのバランスを保つことは意識しているね。
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――VHSという記録媒体自体は滅びつつありますが、ホラー映画の世界では今も印象的に使用され続けています。お二人はDVDの世代かと思いますが、VHSやカセットテープ、LPレコードなど「アナログ媒体」の魅力と、オカルト系のストーリーとの「好相性の理由」について、どうお考えですか?
ダニー:みんな、ネット上で不気味な映像を見つけたときに、それがどこから来ていて何を意味しているのか……“いったい何なのか分からない”から怖いと感じると思うんだけど、アナログで撮られたものはさらに輪をかけて恐ろしいよね。僕たちはDVDド真ん中というよりもVHSやテープメディアの最後期の世代で、幼い頃からホームビデオで色んなものを撮っていたんだ。
とくにVHSはビジュアル面、見た目がすごく気に入っているし、そこが大きな魅力だと思う。今回、作中でVHSを使用したのは――大切な人の映像を見返して悲しみを癒すのは健康的なことだと思うんだけど、一方で“儀式”の映像を見て癒そうとするのは不健康っぽいと思うんだよね。だから、そこの対比も狙ってVHSを使ったんだ。
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「衣装の色でキャラクターの心情や内面を語っているんだ」
「サウンドデザインで音の遊び心みたいなものを表現した」
――ジャンプスケアに頼らず、複雑に重ねられたじわじわと迫るような音、とくに水や雨音によって恐怖が強調されます。加えて、暖かなオレンジ系と冷たいブルー系の対照的なカラーリングでも観客の不安を煽ります。この「音や色」のさじ加減は、お二人の作品にとって欠かせないものでしょうか?
ダニー:たとえばローラ(サリー・ホーキンス)は、衣装の色でキャラクターの心情や内面を語っているんだ。デザイナーが頑張ってくれたんだけど、最初の頃はグリーンやオレンジ色の服を着ているのが、ストーリーが進むにつれてブラウン系に変わっていく。これは木々の“葉っぱ”の色のように彼女の衣装も変わっていって、次第に正気を失っていく様子を色で表現したんだ。そういうところはすごくこだわったね。
マイケル:サウンドに関して言うと雨の音は何層も重ねていて、キャラクターやタイミングによって癒しの音にもなるし、どこか不気味な音になることもある。だからサウンドデザインで音の遊び心みたいなものを表現したつもりだよ。
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――本作は、登場人物それぞれの「背景」を物語の中に自然に組み込むことで、観客の集中力を阻害しません。それによって、希望はほとんど無いのに感動的ですらあるクライマックスの展開にも、100%万全の状態で驚くことができます。
ダニー:やっぱりキャスティングが大きな要素だと思う。それぞれの俳優が役になりきってリアルかつ自然に演じてくれたし、むりやり演じさせるようなことはしていないから、そこに(観客の)意識が向かず、うまいこと馴染んでいるんじゃないかな。
マイケル:リハーサル方法も理由じゃないかな。シーン毎にリハを重ねていくんだけど、そのシーンに出演していない場合でも俳優は現場にいて、役になりきっている。だから本当にそれぞれの役があらゆるシーンで生きている、そんなリハーサル方法ゆえの効果かなとも思うよ。
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「A24はベストだ。クリエイティブコントロールを完全に任せてくれる」
――インタビュー映像を拝見すると、お二人と若い俳優たちのフラットで壁のない良い関係性が伝わってきます。そうしたフェアな関係性を築くことが、恐ろしいホラー映画の撮影に挑む若い俳優たちにもプラスに作用したのではないかと感じました。実際には撮影の前後に、どんなコミュニケーション、ディスカッションをされましたか?
ダニー:お互い気持ちよく仕事ができるように、リスペクトし合って絆を強めるようなエクササイズもしたし、すべてを一緒に経験していこう、というスタンスでいたよ。失敗してもいい、やり直せばいいんだから緊張しないで、という雰囲気を作っていたから、フラットな関係ができあがったんじゃないかな。
マイケル:緊張しなくていいし、違うように演じたかったらやり直せばいい、よけいなプレッシャーは感じなくていいんだと、常に伝えていた。だから今でもみんなとは仲良くしているけれど――ひとつ付け加えるなら、彼らは決して僕らの期待を裏切るようなことはなかったし、期待以上の演技を見せてくれたよ。
『ブリング・ハー・バック』© 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
――本作もA24とのタッグですが、A24と映画制作をする魅力や、仕事上の利点などを教えてください。
マイケル:A24はベストだ。クリエイティブコントロールを完全に任せてくれるから、もし僕らが最低限の関わり方を望んでいればそうしてくれるし、すごくオープンで自由を与えてくれる、自分たちがやりたいことを追求させてくれる、そういう環境を作ってくれるところだね。
ダニー:その一方で、フィードバックが欲しいと伝えればたっぷりと与えてくれる。でも“何も要らない”と言えば放っておいてくれる。コラボレーターとして最高だと思っているよ。
『ブリング・ハー・バック』© 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
――次回作の予定が決まっていたら可能な範囲で教えてください。
マイケル:デスマッチ・レスリングのドキュメンタリーを撮り終えたばかりで、“山下りな”という日本のプロレスラーを追った作品なんだ。あと来年、新しいホラー映画に取りかかるよ。
『ブリング・ハー・バック』は7月10日(金)より全国公開
『ブリング・ハー・バック』
父親を亡くしたアンディと目の不自由なパイパー兄妹は、とても親切な里親ローラの元で暮らすことになる。
そこには言葉を話さない少年オリバーが一緒に住んでいた。
ローラの異様なまでの愛情にアンディは違和感を覚えながらも新たな生活を始めるのだが……。
ある日を境にこの家で起こる不穏な出来事、家の周りに点在する謎の円のモチーフ、そしてオリバーの存在。
それらが全て繋がった時、隠されていたローラの〈恐るべき願い〉が明かされる──。
監督・脚本:
出演:ビリー・バラット、ソラ・ウォン、ジョナ・レン・フィリップス
サリー・ホーキンス
| 制作年: | 2025 |
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2026年7月10日(金)より全国公開