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「不健康」を「不健康」で上書きして“健康”になる…?『健康ちえのわトランポリン教室』の“副作用”とは

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「不健康」を「不健康」で上書きして“健康”になる…?『健康ちえのわトランポリン教室』の“副作用”とは
『健康ちえのわトランポリン教室』©HEISEI NANOOK

『健康ちえのわトランポリン教室』は不健康の陳列棚?

健康ですか?……そうですか、アナタも不健康ですか。みんな病んでますね。

さて、そこで不健康なアナタにオススメしたいのが「ちえのわトランポリン」です。知恵の輪に集中しながら、トランポリンで跳ねるだけなんですけどね、これがいいんですよ。トランポリンでジャンプしている一瞬だけは、重力(日常の抑圧)から解放されて、自分がどこまでも自由で軽くなったような全能感を味わえるんです。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

あと知恵の輪ですけど、これは解けなくてもいいんです。むしろ解けない方が良いまであります。「解けなくていい、できなくて当たり前」という絶対的な免罪符の心地よさが、歪な心の平穏(健康)をもたらしてくれます。解放と平穏が一度に感じられる……それが「ちえのわトランポリン」です。

どうです? 教室を紹介しますよ。名前もそのまま<健康ちえのわトランポリン教室>って言うんですけど、試してみませんか?……とまあ、ウソなんですけどね。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

映画『健康ちえのわトランポリン教室』は、タイトルに反して不健康の陳列棚のような作品だ。

冒頭、主人公・結依と恒平の夕食シーンから、不健康な夫婦関係を見せつけてくる。夕食時、結依が会話の話題を振っても、恒平はスマホに夢中で意に介さない。「あなたより画面の方が重要」という無意識のメッセージ、「夕食時」という共有時間の破壊――。

これ、「フォン(Phone/電話)」と「スナビング(Snubbing/冷たい態度をとる・無視する)」を掛け合わせて、「ファビング(Phubbing)」という名前もつけられているほど、現代の人間関係で問題視されている行動。

こういった、悪意がない加害を「マイクロアグレッション」と呼ぶが、この夫婦はマイクロアグレッションで埋め尽くされている。こうして「怒るほどではない」という諦め積み重ねが、結依の足を“教室”へと向かわせることになる。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

結依は言葉は少ないが恒平への鬱憤を爆発寸前まで溜めており、決して投函することのない母への手紙に“理想の生活”をしたためている。恒平は典型的な“有害な男性性”をもって、無自覚に結依を傷つけている。彼の上司も「妻は金とセックスでメンテナンスしてやればいい」などとアドバイスする相当イカれた奴だ。

中心となる二人をはじめとして、本作の登場人物は徹底して、不健康だ。そして各々、健康を目指して、“なんとか”しようと各々が間違った努力をし、さらに不健康になっていく。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

「代替精神療法」としての「健康ちえのわトランポリン教室」

日々の悩みを“なんとか”するために、あやしい新興宗教や過度な推し活、民間療法にはまるのを疑問に思う人は多い。世間はそれらを「洗脳」や「異常な依存」という。しかし、実態は正規の医療や社会システムからこぼれ落ちた“人生のしんどさ”を麻痺させるための、きわめてメジャーで、かつ最も手軽な「代替精神療法」だ。

もう少し判りやすく説明すると……精神科に行けば「自律神経の乱れですね、お薬を出します」と、冷徹な医学の言葉で片付けられてしまうでしょう? でもね、弱った人間が本当に欲しているのは「データ」ではなく、「物語(ナラティブ)」なんですよね。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

「なぜ私がこんなに苦しいのか、この苦しみにはどんな意味があるのか」を、合点のいくように説明してくれる物語。さらに、「同じ痛みを共有する仲間」と「自分がそこにいていい理由」をセットで提供する。

「あなたの声をみんなで共有し、受け止める」という強烈な疑似連帯。本作の<健康ちえのわトランポリン教室>は、まさにベストといえる「代替精神療法」なんですよね。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

理にかなったグループセラピーがもたらす“副作用”

劇中で「対話」という不思議なワークセッションが行われますが、それこそが物語、共有をおこなっているわけです。『健康ちえのわトランポリン教室』で描かれるセラピー手法は非常に理にかなっているんですよ。実際のセラピーも似ています。でも、薬と同じく“副作用”もある。

集団となると、それはそれで個の争いが起きるでしょう。これも実際のグループセラピーでよくみられることなんですが、本作では、それもしっかり描かれているんですね。集団の中で自分のポジションを確立するためのマウンティング、ガスライティングが行われるのです。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

“健康”になるための“教室”なのに、人を貶めようとする不健康な精神状態が再びもたらされる。これはもはや悪夢的といえますが、実際、これで崩壊するセラピーグループもあります。

さらに、タチの悪いことに教室の存在そのものも……ちょっと問題があったりします。色々なセラピーグループや施設、教室があり……これらには何かしらの「思惑」があったりします。お金儲けとかね……もっとえげつないことをしているところも沢山あります。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

生きてりゃしんどいこともある、ちょっとくらい不健康でもいい

『健康ちえのわトランポリン教室』では、不健康が次々と提示され、不健康が不健康で上書きされていく。これがとても、面白く、楽しく、そして現実味があって怖い。

結局、みんな心も体も不健康で病んでいる。だから何かに頼って、あるいは依存して、“なんとか”している。ただ世の中には、それにつけ込む奴が沢山いる。人知れず人類に紛れ込む宇宙人の陰謀……といわんばかりに、何食わぬ顔をして我々を吸い尽くそうとしている。それが世の中ってもんです。

『健康ちえのわトランポリン教室』©︎HEISEI NANOOK

気持ちを楽にしたい、健康になりたいという気持ちは誰しもが持っている。でも、生きてりゃしんどいこともあります。ちょっとくらい不健康でもいいんですよ。少し気分が良くなるからって、何かに入れ込みすぎるのは良くない。本作を見て「不健康」への思いを馳せると……世の中のクソっぷりが感じられて健康になれる、はず……。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『健康ちえのわトランポリン教室』は6月27日(土)より池袋シネマ・ロサ、7月18日(土)より大阪シアターセブンで劇場公開

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『健康ちえのわトランポリン教室』

結婚2年目の専業主婦・結依は、夫・恒平、そして日常からの悪意なき暴力に傷つきながらも、表面上は平穏な生活を送っていた。

ある日、結依は街中で「健康ちえのわトランポリン教室」を見つける。奇妙な名前と“習いごと”の内容とは裏腹に、結依は“先生”や教室に通う仲間たちのおかげで、今まで押し殺してきた“本当の⾃分”と向き合い始める。

⼀⽅で、ある⼈物から「真実」を告げられた恒平は、結依にも隠し通してきた心の傷に苛まれる。

「教室に通うのは辞めてくれ」「私に命令しないで」……“かけがえのない自分”を求めて慰め合っていたはずの二人の関係は綻び始め、日常に潜んでいた闇に飲み込まれていく。

監督・脚本・編集:⽯川皓⼀
出演:⽥野真悠
   下遠航 ⾹賀隆乃
   岡凛 佐々⽊敦⼦ ⽟城琉太 鷲⽥五郎
   志村宗⼀郎 Sawa 桜井和華 ⼤天裕亮
   福⼭⾹温 ⼩枝花野 ⼋嶋澄 SHUON

制作年: 2025