映画界きっての才人ドルフ・ラングレン
80年代アクション愛好家“以外の”映画好きにとって、ドルフ・ラングレンは一体どんな印象で語られるだろう。スウェーデン出身でモデルからアメリカ映画界に進出した身長2メートル弱の大男なので、やはり『ロッキー4/炎の友情』(1985年)のドラゴ役の印象が強いだろうか。
実際『ロッキー4』で名を馳せたラングレンは、『マスターズ/超空の覇者』(1987年)や『レッド・スコルピオン』(1989年)、『パニッシャー』 (1989年)に主演。その後も監督業に乗り出すなど精力的に活動を続け、『エクスペンダブルズ』(2010年)と『クリード 炎の宿敵』(2018年)では再びスタローンと共演した。MIT(マサチューセッツ工科大学)ほかで学び、化学工学の修士号を持つマルチリンガルの才人でもある。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
そんなラングレンの代表作を挙げるうえで絶対にスルーできないのが、日本のヤクザに果敢に挑むタフな刑事コンビの活躍を描いたバイオレンスアクション『リトルトウキョー殺人課』(1991年)だ。この隠れた名・珍作がなんとTV放送されるので、ぜひラングレンの近作と併せて紹介させてほしい。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
🤜💥ラングレン&ブランドン・リーの名コンビが映える!
『リトルトウキョー殺人課』の抗えないトンデモな面白さ
ジャパニーズ・マフィアに支配され、凶悪な犯罪都市と化した米LAのリトルトウキョー。ロス市警の刑事ケナーと相棒ジョニーは、ヤクザ顔負けの強引な捜査で組織壊滅を狙う。ついに対峙の時――両親を惨殺した男と同じ刺青を組長の体に見つけたケナーは、怒りを燃え上がらせる。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
オープニングから、みっちり和彫りな面々のガチムチ肉体が映し出される本作は、そのタイトルからイロモノと見られるかもしれない。まだ日本が“アジアの脅威”として畏怖の対象であった80年代。しかし日本のマフィアであるところのヤクザは、その“オリエンタル”な神秘性を投影するのに最適の器だったに違いない。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
監督は名作『コマンドー』(1985年)のほか、『処刑教室 Class of 1984』(1982年)や『炎の少女チャーリー』(1984年)、『必殺処刑コップ』(1993年)などを手がけた、VHSレンタル界の巨匠マーク・L・レスター。ラングレンが演じるのは謎の刺青男に両親を殺害された過去を持つ、型破りなワンパンチ刑事ケナーだ。
そしてケナーの相棒ジョニーを演じるのは、ブルース・リーの息子であり、のちに映画『クロウ/飛翔伝説』(1994年)の撮影中に若くして命を落とすことになるブランドン・リー。異なるファイトスタイルを見せる2人の共演だけでワクワクするし、鑑賞の理由としては十分だろう。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
武闘派バディと凶暴ヤクザの好テンポなバトルに注目
ラングレンの身体能力は多くの人が知るところだが、映画冒頭、日本料理屋の女将との談笑シーンは微笑ましく、ナチュラルな「元気ですよ」「ちょっとだけね」という日本語セリフと屈託のない笑顔は猛烈にキュート。さすが極真会館スウェーデン支部で空手を学び、来日経験も豊富なだけはある。しっかりとした台詞のやり取りは難しそうだが、日系のジョニーのほうが日本語を話せないという設定も面白い。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
日本語と言えば、ヤクザの親分ヨシダを演じるケイリー=ヒロユキ・タガワ(2025年没)は主演の2人を食う存在感を見せる。もちろんバイオレンスシーンの要でもあり、とくに日本刀を持ち出すシーンではヤクザの凶悪さを印象付ける。なお、流暢な日本語とカタカナ英語を操る構成員サイトウを演じるのは小幡利城(トシシロ オバタ)で、あらゆる武術・剣術を体得し80年代に渡米した彼は、のちに<真剣道>を創始し世界中に支部を構えたそうだ。
『リトルトウキョー殺人課』© 1991 Warner Bros. Inc.
今でこそコワモテ日本ヤクザとスタイリッシュなアメリカン刑事という構図は珍しくないかもしれないが、日本を曲解した芸術作品や耳を疑うような日本風演出の多くは、いまだに「あの『リトルトウキョー殺人課』みたいな……」と例えられるほど、“トンデモ日本”の代名詞的存在でもある本作。テレビで観てこそ味わい深い作品なので、未見ならばこの機会にぜひチェックしてみては。
🤜💥ドルフ・ラングレン製作・監督・脚本・主演!
熱血警官が腐った組織を強引に自浄する『ウォンテッドマン』
そしてもう1作、こちらもCS放送中のラングレン作品が2024年制作の『ウォンテッドマン』。ラングレン演じるスゴ腕の警察官が、腐敗した警察組織を相手に全面戦争を繰り広げるハード・アクションだ。
『ウォンテッドマン』© 2023 America’s Most, Inc.
カリフォルニア州とメキシコの国境付近、麻薬取引現場で麻薬取締局の捜査官が殺害された。事件のカギを握るのは目撃者とされる女性ロサ。アメリカ連邦保安局は彼女を確保すべく、驚異の戦闘能力を持つ巡査部長ジョハンセンを麻薬カルテルが巣食うメキシコに単身送り込むが……。
『ウォンテッドマン』© 2023 America’s Most, Inc.
ラングレン自身が監督・脚本・主演を務め、製作も兼任した肝いりの近作。ケルシー・グラマーやマイケル・パレらベテラン陣も出演しており、低予算ながら“麻薬カルテルもの”の緊張感をしっかりキープしている。ラングレンは近年のクリント・イーストウッドを意識しているようにも見えるが、還暦を過ぎてもスーツの上からはっきりと分かる屈強な肉体には、イーストウッド以上の説得力がある。
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2026年5月放送