なぜ60年代チェコ映画は“恐ろしい”のか?日本初公開含む激レア4作一挙上映【チェコ映画傑作選】
【チェコ映画傑作選】開催
1960年代のチェコスロヴァキアで誕生した<絶望的傑作>4本をラインナップした【チェコ映画傑作選】が、4月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開となる。
【チェコ映画傑作選】
日本初公開を含む4作を一挙上映
日本では、現在4Kレストア版がリバイバル上映中の『ひなぎく』(1966年)やヤン・シュヴァンクマイエル監督のアニメーションなど、自由な想像力によって生み出された個性溢れる作品がカルト的人気を誇るチェコ映画。このたび、「黄金の60年代」と呼ばれたチェコ・ヌーヴェルヴァーグの作品群の中から、その強烈な魅力にもかかわらずこれまでほとんど観ることができなかった傑作4本が【チェコ映画傑作選】として公開される。
『第五の騎士は恐怖』© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
注目は日本初公開となる長編2作品。チベット仏教の輪廻転生思想と狂気を絡み合わせながら破滅的な「最終解決策」へと突き進む『火葬人』は、本国チェコでも公開後まもなく上映禁止となり、1990年まで長らく封印された問題作だ。『第五の騎士は恐怖』は戦時下の占領都市に蔓延する密告と恐怖を幻覚的な映像で描き、批評家ロジャー・エバートが「完璧な映画」と絶賛した傑作。また、貨物列車から脱走した二人の逃避行を夢・幻覚・記憶とともに描く『夜のダイヤモンド』は1968年以来初のリバイバルとなり、短編『一口のパン』との同時上映で再びスクリーンに甦る。
『火葬人』© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
大戦前夜から戦中を背景に、自由を奪われた人間たち、狂気に蝕まれそれを行動に移していく者たち――。半世紀以上前につくられた、現実をも超えるほどの恐怖と鋭さで今なお我々を圧倒する4本を、スクリーンで体験する機会がついに訪れた。
『火葬人』
第二次大戦前夜のプラハ。葬儀社で火葬人を務めるカレル・コップフルキングルは、家族を愛する平凡な男だった。しかし親ナチスの旧友ラインケとの再会や、急速に変貌していく社会情勢に感化されるうち、チベット仏教の輪廻転生思想と「魂の解放」という妄想が絡み合い、やがて取り返しのつかない「最終解決策」へと突き進んでいく。
『火葬人』© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
ナチス・ドイツによる保護領設置という歴史的動乱を背景に、普通の人間が加害者へと転落していくさまを表現主義的な美しくもおどろおどろしい映像で描く暗黒コメディ。主人公の独白が積み重なるほどに狂気の輪郭があらわになる演出は圧巻だ。チェコ・スロヴァキア映画データベースでは歴代最高評価の一本に数えられ、第5回シッチェス・カタロニア国際映画祭グランプリを受賞。1973年に公開禁止となり、1989年の共産主義体制崩壊後の1990年まで封印されていた問題作でもある。「悪の凡庸さ」を問う映画史的傑作が、待望の日本初公開を果たす。
『火葬人』© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
1968年 / 100分 / モノクロ
監督:ユライ・ヘルツ 原作・脚本:ラジスラフ・フクス 出演:ルドルフ・フルシーンスキー、ヴラスタ・フラモストヴァー ほか
『第五の騎士は恐怖』
ナチス占領下のプラハ。ユダヤ人医師のブラウン博士は医療行為を禁じられ、ドイツ当局のもとで押収されたユダヤ人財産の目録作成に従事する日々を送っていた。ある夜、負傷したレジスタンス戦士の治療を求められたことから、ブラウン医師はモルヒネを求めて街をさまようことになる。
『第五の騎士は恐怖』© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
表向き平静を装う占領都市だが、住民たちの幻覚的な言動や抑えきれない恐怖が、社会の崩壊を静かに物語る。ガス室や強制収容所を直接映すことなく、ホロコーストの恐怖を心理の奥深くから迫ってくる演出が凄まじい。不協和音のピアノ音楽と表現主義的な撮影が醸す不穏な空気が全編を支配し、タイム誌は「最高峰の映像美を誇る作品」、批評家ロジャー・エバートは「完璧な映画。フェリーニとごく少数の監督だけが達成できるリズム感を備えている」と絶賛。ポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ監督もフェイバリットに挙げる傑作が、日本初公開を迎える。
『第五の騎士は恐怖』© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
1965年 / 98分 / モノクロ
監督:ズビニェク・ブリニフ 脚本:ハナ・ビェロフラツカー、ズビニェク・ブリニフ 出演:ミロスラフ・マカセック、オルガ・シャインプフルゴヴァー ほか
『夜のダイヤモンド』
強制収容所へ向かう貨物列車から脱走した二人の少年が、疲弊した体でプラハを目指して逃走するが――。原作はホロコーストを生き延びたチェコの作家アルノシュト・ルスティクの短編小説「闇に影はない」。1945年、ダッハウ行きの列車から実際に脱走したルスティク自身の体験を基にした物語だ。会話はほとんどなく、森や沼地を逃げる二人の映像に、夢・幻覚・記憶がモザイク状に交錯する。
『夜のダイヤモンド』Source: Národní filmový archiv, Praha
ルイス・ブニュエル、アラン・レネ、ロベール・ブレッソンに影響を受けたというニェメツの演出は、現実と内面を溶け合わせながら人間と世界そのものの残酷さを鋭く問いかける。冒頭のトラッキング・ショットは当時のチェコスロヴァキア映画史上最長を記録し、製作予算の3分の1を費やしたという。ヤン・ニェメツ監督のデビュー長編作であり、1968年のATG配給による日本公開以来、初のリバイバル上映となる。
『夜のダイヤモンド』Source: Národní filmový archiv, Praha
1964年 / 67分 / モノクロ
監督・脚本:ヤン・ニェメツ 原作:アルノシュト・ルスティク 出演:ラジスラフ・ヤンスキー、アントニーン・クンベラ
『一口のパン』
ヤン・ニェメツ監督の卒業制作。強制収容所へ移送される途中、脱走を決意した3人の囚人が、まずパンを手に入れようとする。くじ引きで選ばれた一人が列車の貨物庫へ忍び込むが、見張りの兵士に発覚し……。ホロコーストを生き延びたルスティクの短編小説を原作に、極限の緊張感で人間の運命を描く。「史上もっとも最小規模かつ痛切な強盗映画」とも評された11分の傑作。『夜のダイヤモンド』との同時上映で日本初公開。
『一口のパン』(短編)Source: Národní filmový archiv, Praha
1960年 / 11分 / モノクロ
監督・脚本:ヤン・ニェメツ 原作:アルノシュト・ルスティク 出演:ヤン・バルトゥーシェク、オルドリッヒ・ブラーハ、イヴァン・レンチ