絶対に夢を諦めない! YouTubeで人生を変える歌手志望の少女 おおらかな人間賛歌のインド映画『シークレット・スーパースター』

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ライター:関根忠郎
絶対に夢を諦めない! YouTubeで人生を変える歌手志望の少女 おおらかな人間賛歌のインド映画『シークレット・スーパースター』
『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

 

【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】快活なインド映画と出会った

いきなり僕のFIRST IMPRESSION(第一印象)から書かせて頂くが、これはもう思いがけないほど大きな晴朗気分を貰ったような一篇。長尺150分の映画展開の中に、健気なミドル・ティーン(15歳)の少女インシアの夢、希望、運命、淡い恋、ギター、歌、現実、家族、母親への愛等々の劇的要素が小気味よく弾けて、最後まで見る者の心を揺るがせ続ける名品だった。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

ことインド映画に関しては、全く興味の外に置いていた迂闊さを気づかせて貰っただけでも、僕にとっては貴重な出会い。劇中での歌がドラマをさらに盛り上げていく、近年珍しいほど幸福感に満ち溢れたエンタテインメント快作だった―。

かくも性急に結論を述べてしまった以上、あとは何故かくも本作に心底酔えたのかを気ままに記述できるのが幸せというもの。早速始めよう。

開巻、インシアがギター抱えて、十数人のクラスメイトを前に唄い出す場面がいい。クラスの遠足なのか、列車の中は賑々しく生気に溢れている。このトップシーンでの、インシアの登場は格別の清涼感とふっくらとした美形の顔立ちと澄んだ眼差しと歌とに引き込まれてしまい、さりげない映画導入部の魅惑を覚える。インシア役の新進女優ザイラー・ワシームの魅力には大いに感心したが、本作に関しては全くの白紙で、何も知ることなくその作品に臨むのは稀なことだった。従って、そこからのドラマ展開も全く予測がつかない。まさに僕は、真っ白な(宙吊り)状態から作品の中へ入って行く。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

波乱万丈のファミリー・ストーリー

インシアには将来、歌手になるという大きな夢があった。それはインド最大の音楽賞のステージに立って、自作の歌を歌うこと。だがしかし、家庭の事情がそれを許さない。男尊女卑の権化みたいに粗暴な父親ファルークが、娘の音楽を認めず学業を強要。ファルークは妻のナズマ(メヘル・ヴィジュ)を絶対服従の身に置き、ちょっとでも反発すれば忽ち暴力を浴びせるといった男だ。ナズマは日々恐怖におびえ、生傷が絶えない。インシアは幼い弟と共にそんな母親をずっと見ながら暮らしてきた。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

ナズマがインシアのために夫に内緒でパソコンを買い与え、YouTubeにインシア自身が歌う姿を投稿する計画を後押しする。父親にバレないように、ブルカ(イスラム教徒の女性が着用する黒のベール)で顔を隠して投稿するや、瞬く間にインド中に知れ渡って、“シークレット・スーパースター”としてメディアも騒ぎ始め話題が沸騰。すぐに有名な音楽プロデューサー(今は少々落ち目)のシャクティ・クマール(アーミル・カーン)の知るところとなる。と、ここまではトントン拍子に近い展開を見せるのだが……。

インシアの前に現れたのは、トンデモ? 音楽救世主

でも、少女には試練が続く。インシアの学力テストの成績が落ちたため、父親が大切なギターの弦をブッタ切り、その上、妻がインシアにパソコンを買い与えたことを知って激怒。父親の暴力から母親を守るため、インシアは大事なパソコンを窓から地面に投げ捨てるという激しいストラッグル・シーンに進展。いったいこの家族、どうなっていくのかとハラハラドキドキが止まらない。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

さて、ここからがインシアと音楽プロデュサー、シャクティのタッグによる、サクセスへの波乱万丈の劇的展開となる。最初は全くかみ合わないふたりだが、この奇妙でスリリングなタッグは、後半に向かってドラマの醍醐味を加速させ、思わずドッと叫び声に似た笑いを漏らしてしまう。ふたりのシークエンスも紆余曲折のあげく、夢のインド音楽祭出演の足掛かりを得るのだが、その直後、インシアの身に思いも寄らない、新たな障害が立ち塞がる。

父親ファルークがサウジアラビアへの転勤赴任となり、家族でインドを離れなければならなくなるという緊急事態だ。目の前には夢の音楽祭、だが、母と弟と共に父について行かなければならない。少女の試練はエンドレスに続いて行くのか。この空港シーンは、劇的な《序・破・急》の〈急〉に当る一大クライマックスと言えよう。「親子4人、一体全体どうなるのよ!」と、他人ごとではない大見せ場にまさに釘付けになった。

映画の本道を拓く抜群の名シナリオ

ここまで書いてきてつくづく思うことは、本作のオリジナル・シナリオの絶妙な素晴らしさ。この脚本をモノにしたのは他でもない、監督のアドヴェイド・チャンダンで、彼はこう言っているそうだ。

「インド映画では沢山のラブストーリー作品が作られてきたけれど、母娘の関係を描く作品は少ない」

チャンダンが、このストーリー案を製作・出演のアーミル・カーンに告げたのは2014年のことだった。“インドの国宝”とまで言われているアーミルが、このアイデアにゾッコンに惚れ込んでの傑作誕生となった。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

この名脚本のヒミツ、その本質は奈辺にあるのだろうか。僕の思うところ、最も大きな要素として「人が抱く希望と事の成り行きの不確定性」にあるのではないかと思う。インシアの夢は果たして叶えられるのか。そのプロセスの不確定性。インシアを支える人たちの愛と協力と知恵は功を奏すのか。インシアと危なっかしい音楽プロデューサーのタッグ作戦は首尾よく運ぶのか。インシアが望む両親の離婚は成立するのか。インド社会の因習に屈し続けながら、母親の心の内に何が蠢いているのか、そして、そこからどんな感情と意志決定が噴き上げるのか。

どちらに転ぶか分からない不確定性を鮮やかに切り取って、ドラマ作りを果たした本作のシナリオ作法は、終始、観客をハラハラドキドキさせつつ、映画の中へ中へと引っ張り込んでいく。映画の展開に身を浸しながら、「こうなって欲しい」「ああなって欲しい」という願望と思い入れとを諸所で巧みに裏切りながら、ドラマの逆転・反転をダイナミックに波打たせて、感動のラストに突っ込んでいく。シナリオの立脚点は、無論、決して斬新なものではなく、オーソドックスなエンタメ手法で、極めて古風だとさえ思う。「あなた(観客)の思い通りには行きません」と言うかのごとき古風な新鮮さはどうだ! 本道に立ち返った普遍的なドラマ作法は、決して古びることが無い。しかも万国共通なのだ。

日本映画界に再考を促す本格的エンタテインメント!

それにしても現世界、現社会は大小さまざま多難続出、問題山積で行き詰まり、悪しき飽和感が連鎖し、限界点に向かっているかのような気配さえ感じさせる。思うにそうした危機感の下で、日々作られていく日本映画諸作品は、ディストピア的な傾向と、半径5メートル内外の出来事を描く青春劇か、あるいは相も変わらずお笑い系も目立って、本作のような本道の大らかな人間賛歌を狙った作品は皆無といった塩梅だ。本作のごとき快活で、陽性で、純良で、しかもリアルな立脚点から生み出された本格的な娯楽劇を、日本でも作って欲しいと切に思う。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

最後になったが、インシアという少女の名前は《女性》という意味を持つと本作で教えられたが、男尊女卑社会インドでは女子の生誕を歓迎しない因習もまだ残存しているという。インド、そしてインド映画に無知なる僕には、まるで勝手が違う作品ではあったが、この堂々150分のエンタテインメント作品を心ゆくまで大いに楽しむことができた。夢を追う気持ちは、誰にも止められない。

文:関根忠郎

『シークレット・スーパースター』は2019年8月9日(金)より全国順次ロードショー

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『シークレット・スーパースター』

崖っぷちプロデューサーとワケありYouTuber少女。ふたりが人生逆転をかけてタッグを組む!?夢を追う少女の青春サクセス・ストーリー。

制作年: 2017
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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