西部劇における白人や人種差別の描かれ方に変化 『荒野の誓い』C・ベイル、T・シャラメ出演の人間ドラマ

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ライター:セルジオ石熊
西部劇における白人や人種差別の描かれ方に変化 『荒野の誓い』C・ベイル、T・シャラメ出演の人間ドラマ
『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

 

※本記事では作品の表現を尊重し、放送・出版注意用語が使用されております。

『クレイジー・ハート』(2009年)のスコット・クーパー監督の最新作は、1892年を舞台にした西部劇『荒野の誓い』だ。2度目のタッグとなるクリスチャン・ベイルはじめ、ロザムンド・パイク、ジェシー・プレモンス、ティモシー・シャラメら演技派女優や注目の若手俳優が競演、現代社会を生きる我々に多くの示唆を与える作品となっている。

『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

フロンティア消滅の時代を背景に描く社会派ウエスタン

開拓民の農場がインディアンに襲われる。父親は殺されて頭の皮を剥がれ、母親は(すでに死んでいるように見える)赤ん坊を抱いて森の中に隠れる……。

開巻早々“悪いインディアン”が白人を殺しまくる西部劇を久しぶりに見た。かつてのハリウッド西部劇にはよくあった設定で、さしずめジョン・ウェインあたりが演じるヒーローがインディアンを一掃して、さらわれた娘を救出する……かもしれないが、今はもう21世紀だ。すでに西部劇は単純な娯楽映画ではありえない。『荒野の誓い』は、アカデミー賞俳優や旬の若手俳優がこぞって出演して演技を競う人間ドラマであり、アメリカのみならず世界中の国々が抱える問題に通じる強烈なメッセージを内包した社会派ドラマになっている。

『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

1892年、ニューメキシコ。インディアンを収容する刑務所の看守ジョー・ブロッカー大尉(クリスチャン・ベイル)は大統領令によって、死期が近いシャイアン族の酋長イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)を彼らの故郷モンタナへ移送するよう命じられる。小隊を率いての道中、コマンチ族に家族を殺されたロザリー(ロザムンド・パイク)を保護して一行に加えるが、再びコマンチ族に襲われ、銃撃戦の末に部下を失う。コロラドで立ち寄った砦では、インディアンを惨殺したウィルス軍曹(ベン・フォスター)の護送を託される。ウィルスは、かつてジョーと共にウーンデッド・ニーでインディアンと戦った部下だった……。

ニューメキシコからモンタナへ、アメリカを南から北へ縦断する長い旅によって、荒んだアメリカ人たちの心は癒され、敗れ去った者たちへの同情と共感が育まれていく。大自然の中でサバイバル旅行を共にすることで、旅人たちの心は一体化し、過去の因縁や恨みはいったん脇へ置き、互いに理解できるようになるのかもしれない。人種差別、移民拒否、宗教テロ戦争など、今も難題山積のアメリカに必要なことは、相互理解だ。それは、いまだ第二次世界大戦の責任問題でもめ続けている東洋の小国にとっても、同じではないだろうか。

『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

「フロンティア時代の終わり」と言われたウーンデッド・ニーの戦い(騎兵隊が300人のスー族インディアンを虐殺した)の2年後という設定も絶妙だ。ラスト近くに差別主義者の地主が登場するのだが、同様の人種差別的地主が傭兵を使って入植者を殺そうとしたワイオミング州ジョンソン郡戦争が起きたのが1892年で、その事件を映画化したのがマイケル・チミノの『天国の門』(1981年)だった。また、カリフォルニアのロックバンド、イーグルスがアルバム「ならず者」のモチーフとした伝説の西部のアウトロー、ダルトン兄弟が同時に2つの銀行強盗に失敗して射殺されたのも同年だ。1892年はフロンティアの消滅と共に、アウトローの伝説が終焉を迎え、資本家が勢力を誇示しはじめた年だったのだ。

白人とインディアン ― “善悪の構図”はどう変わってきたのか

映画の世界で「白人=善、インディアン=悪」の図式が崩れ去ったのは1960年代。かつて『駅馬車』(1939年)などでインディアンを単純な悪役として扱っていた西部劇の巨匠ジョン・フォードが、『馬上の二人』(1961年)でインディアンを同情的に描き、『シャイアン』(1964年)では強制移住させられるシャイアン族の悲劇を正面から描いた。

「昔はさんざんインディアンを殺したからね」とジョークで答えつつ、反人種差別&ヒューマニズムにあふれた大作を作り上げた(興行的には大失敗)フォードは偉かったとはいえ、いささかセンチメンタルすぎたかもしれない。

世界西部劇映画史に強烈な斧の一撃をくわえたのが、セルジオ・コルブッチ監督によるマカロニ・ウエスタン『さすらいのガンマン』(1966年)だ。インディアンを殺し、頭の皮を剥いで集める白人集団が冒頭に登場する(奴らと対決する主人公のインディアンを演じたのは、まだブレイク前のバート・レイノルズ)。そもそも頭の皮を剥いで戦利品として集める風習は、白人がアメリカへ持ち込んだものだった。新大陸へやってきて先住民を殺戮する白人たちの残虐行為を、インディアンが対抗して行うようになったのが真相なのだが、いつのまにか“頭の皮剥ぎ”は“野蛮なインディアン”の象徴とされてしまった。

『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

70年代に入ると、アメリカでも『ソルジャー・ブルー』(1970年)、『小さな巨人』(1970年)などをきっかけに、(歴史)修正主義西部劇(リヴィジョニスト・ウエスタン)が作られるようになる。白人たちの都合の良いように作り替えられたフロンティアの歴史を、もういちど史実に沿って見直そうとするようになったのだ。

同時に「インディアン→先住民」「酋長→首長、族長」といった言葉の言いかえも、いつの間にか浸透した。今では、セリフではっきり「インディアン」と言っているのに、「先住民」と字幕が出る“修正主義字幕”にときどきお目にかかる。困ったものだ。

クリスチャン・ベイルら演技派俳優が結集したスコット・クーパー監督最新作

『荒野の誓い』は、『クレイジー・ハート』(2009年)でジェフ・ブリッジスにアカデミー主演男優賞をもたらしたスコット・クーパー監督が、『ファーナス/訣別の朝』(2013年)に続いてクリスチャン・ベイルと組んだ監督第4作だ。もともと俳優だったクーパーは、登場人物にじっくり演技をさせるし、苦悩や苦しみを表現する機会を与えるのがうまい。『ファーナス~』では、アカデミー助演賞級の迫真演技を見せたケイシー・アフレックとウディ・ハレルソンに比べて少々分が悪かったベイルは、今回リベンジとばかりに、憎むべき敵を護送しながらも次第に心を通わせていく軍人の、苦悩と改心を細やかに演じている。共演のロザムンド・パイクの代表作はオスカー候補になった『ゴーン・ガール』(2014年)じゃなくて、マッシヴ・アタック&ヤング・ファーザーズのPV「Voodoo In My Blood」じゃないかと思っていたが、ここではそれに匹敵する狂気演技を見せる。

『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

東北大学出身でハリウッドで活躍する撮影監督マサノブ・タカヤナギが、光と影を意識しつつ丁寧に自然光中心でフィルム撮影したニューメキシコやコロラドの風景は絶品。加えて、熱演する俳優たちと距離を保ち常にクールな姿勢の撮影スタイルが素晴らしい。

最後まで生き残るのは3人というのが『七人の侍』(1954年)を思わせて少し面白いのだが、映画ファンには生き残れなかった助演陣もなかなか豪華なので楽しめるはず。インディアンの酋長は『ジェロニモ』(1993年)で同じように護送されるアパッチ戦士役だったウェス・ステューディ(『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)ほか)、その息子ブラック・ホークには『ウインドトーカーズ』(2002年)、『父親たちの星条旗』(2006年)のアダム・ビーチ。

『荒野の誓い』© 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.

そして戦死していく若い兵に『君の名前で僕を呼んで』(2017年)で人気が爆発した美青年ティモシー・シャラメと、テレビシリーズ『ブレイキング・バッド(シーズン5)』(2012年~)『FARGO/ファーゴ2』(2015年)のジェシー・プレモンスという、アメリカで今もっとも注目されている若手俳優たちが競演している。特に、クーパー監督の前作『ブラック・スキャンダル』(2015年)にも出ていたプレモンスは監督のお気に入りのようで、次回作となるホラー『Antlers(原題)』(2020年全米公開予定)では、ついに主役に抜擢されているそうだ。

文:セルジオ石熊

『荒野の誓い』は2019年9月6日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

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『荒野の誓い』

1892年アメリカ。騎兵隊大尉ジョーはかつての宿敵であるシャイアン族の長とその家族を居留地へと送り返す任務を命じられる。ニューメキシコからコロラド、そしてモンタナへ。コマンチ族の蛮行によって家族を殺された女性ロザリーも加わり一行は北を目指す。危険に満ちた旅を通して、お互いが協力しないことには生きてはいけない状況に置かれていることを知る……。

制作年: 2017
監督:
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