実際の残虐殺人事件を基に人情と暴力を描く衝撃作! カンヌ映画祭男優賞獲得『ドッグマン』マッテオ・ガローネ監督が語る

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ライター:佐藤久理子
実際の残虐殺人事件を基に人情と暴力を描く衝撃作! カンヌ映画祭男優賞獲得『ドッグマン』マッテオ・ガローネ監督が語る
『ドッグマン』©2018 Archimede srl - Le Pacte sas

 

『ゴモラ』(2008年)で一世を風靡したイタリアの鬼才、マッテオ・ガローネの新作『ドッグマン』は、再び我々を驚愕させるものだ。犬のトリマーを生業にする心やさしき男・マルチェロが、暴力的な友人・シモーネを残忍なやり方で殺してしまった実際の事件を題材に、まるでイタリアの伝統的人情劇のような風情で始まり、徐々に暴力と恐怖に彩られていく。

『ドッグマン』©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

主人公を演じたマルチェロ・フォンテが2018年のカンヌ映画祭で男優賞に輝くと同時に、チワワにもパルム・ドッグ賞が与えられた話題作。ガローネ監督に、この強烈な個性を放つ作品について語ってもらった。

カンヌ映画祭男優賞 受賞俳優との出会いが脚本にも影響した

『ドッグマン』主演マルチェロ・フォンテ(第70回カンヌ映画祭 男優賞受賞時)

―イタリアで実際に起きた事件をベースにしているそうですが、どれぐらい事実に忠実なのでしょうか。

事件は31年前に起きて、指を切るなど、その残虐さで当時人々を震撼させました。主人公は実際に犬のトリマーで、暴力的な男との関わりのなかでその男を殺してしまったのです。ただ、この企画は13年前に始まり、長いあいだ脚本を書いていくうちに、自然と変化していきました。とくに主人公マルチェロ役の俳優、マルチェロ・フォンテに出会ったのが大きかったです。私にとって彼はサイレント映画の俳優のような魅力を持っている、現代のバスター・キートンだと思います。私は、彼のように心優しい男が、まるで蜘蛛の巣にからみ取られていくかのようにバイオレンスのメカニズムにはまり、最終的に恐ろしい暴力を振るってしまう、それを強調しようと思いました。肉体的なバイオレンスより、どちらかといえば精神的なバイオレンスを描こうと思ったのです。

『ドッグマン』©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

―それでも作品後半はかなりハードな描写もあります。

でも、スプラッターとまではいかないですよ(笑)。私が恐れていたのは、バイオレンス映画が苦手な観客から、暴力的すぎると思われて、敬遠されることでした。でも実際に映画を観たら、それほど暴力的な描写はないと感じてもらえるのではないかと期待しています。

『ドッグマン』©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

―マルチェロはか弱く、無力で、人に利用されます。弱者が搾取されるという構図に、社会的なメタファーを込めましたか。

それはありますね。シモーネの暴力は現代社会のさまざまなものを象徴しています。そしてマルチェロの行動の原点にあるのは恐怖です。恐怖は人をコントロールします。たとえば政治家がしばしば恐怖を煽って民衆をコントロールしようとするように。ただこの映画は、ポリティカルというよりはヒューマンなアプローチにしたかったのです。

マルチェロは複雑な人間で、完璧にピュアなわけではありません。彼には弱さとともに、シモーヌにちょっと憧れていた部分もある。でもそれが恐怖に変わると、バイオレンスが忍び込んでくる。まるで病気に感染するかのように、暴力に感染してしまうのです。そしてマルチェロの悪夢は、誰にでも、どんなときにも起こり得る。そのメカニズムからいかにエスケープするか、マルチェロのあがきを見せるのは、観る者の胸を打つと思ったのです。

「俳優より犬と仕事する方がやりやすい(笑)」

『ドッグマン』©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

―街の雰囲気が独特ですね。以前『ゴモラ』でもロケされた場所ということですが。

ナポリに近いコッポラという名の村なのですが、ちょっと西部劇の雰囲気を感じさせるところです。とても映画的な天候のところで、今回も前半は太陽が出て、後半話が暗くなってきたら、偶然にも雨や雲の天候になったのです。とてもついていました。私はあの場所に好かれているようです(笑)。

―小さいコミュニティでありながら、誰も困っているマルチェロを助けられない、というのは皮肉な感じもします。

そうですね、シモーネをなんとかしなければ、とみんなで話し合いはしますが、うまい解決策を見つけられない。でもそれも今日の社会のメタファーです。観客それぞれが何が起こるかわからない状況のなかにいる主人公を見つめ、共感することができると思います。

『ドッグマン』©2018 Archimede srl – Le Pacte sas

―犬も大変重要な役割で登場しましたが、犬を演出するのはいかがでしたか。

犬と仕事をするのは大好きです。ときどき、俳優より犬と仕事をする方がやりやすいと思いました(笑)。たしかに動物は本能的で予測がつきませんが、それが映画作りの面白いところでもあります。わたしはどこかで常に、予測できないものを求めているのだと思います。俳優を演出するときは、現場の雰囲気を作り上げて、何か予期せぬことが起こるのを待っているのです。

今回、マルチェロは犬に合わせなければならなかったので、大変だったと思いますが(笑)、マルチェロは素晴らしかったですよ。彼が犬と一緒に同じ料理を食べるシーンがありますが、あれはマルチェロが考えたことです。あのシーンでは、このキャラクターの優しさや犬との絆がとてもよく表現できたと思います。

取材・文:佐藤久理子

『ドッグマン』マッテオ・ガローネ監督

『ドッグマン』は2019年8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショー

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『ドッグマン』

イタリアのさびれた海辺の町、犬のトリミングサロンを営むマルチェロ。バツイチだが最愛の娘ともいつでも会えるし、ささやかだが幸せな日々を送っていた。だが一方で、暴力的な友人のシモーネに利用され、支配される関係から抜け出せずにいた。あるとき、シモーネから持ちかけられた儲け話の片棒をかついでしまったマルチェロは、仲間たちの信用とサロンの顧客を失い、娘とも会えなくなってしまう。満ち足りた暮らしを失ったマルチェロは考えた末に、ある驚くべき計画を立てる。

制作年: 2018
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