差別問題の盲点を描く傑作ストリート映画 黒人白人コンビのラップ的な言葉の応酬にKO必至!『ブラインドスポッティング』

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ライター:BANGER!!! 編集部
差別問題の盲点を描く傑作ストリート映画 黒人白人コンビのラップ的な言葉の応酬にKO必至!『ブラインドスポッティング』
『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

 

西のハーレムことオークランドを舞台にアメリカが抱える重層的な問題をあぶり出す

NBAで絶好調のゴールデンステート・ウォリアーズのお膝元でもある米カリフォルニア州オークランド。同市を含むベイエリアでは近年ジェントリフィケーション(都市の再開発によって低所得者地域の地価が高騰すること)が盛んで、2016年には多くのアーティストが共同生活する倉庫で大規模な火災が起こったことも記憶に新しい。これは家賃の高騰によってアパートに住めなくなった貧乏アーティストたちが、比較的家賃の安い地域で違法に貸し出された倉庫で共同生活を送っていたために起きた悲劇だ。

2019年8月30日(金)から公開の『ブラインドスポッティング』の舞台はオークランドなので、もちろんジェントリフィケーションと無関係ではない。そして、予告映像こそ軽妙な掛け合いからのシリアスな展開で興味をそそられるが、劇的に変化していく都市の今が詰まった超リアルな……なんて軽々しく言えるような単純なストリート映画でもなかった。本作は、日本で生まれ暮らす我々の理解では及びもつかない重層的かつ複雑な問題を、こめかみにジリリと突きつけてくる映画である。

『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

ラップ/ポエトリー界から映画界へ、新たな才能の爆発を見逃すな!

ある事件を起こして逮捕された主人公のコリン(ダヴィード・ディグス)は1年の指導監督期間を課され、ついにあと3日で自由の身という微妙な立場の黒人青年。かたや同じ職場で働く相棒で幼馴染みでもあるマイルズ(ラファエル・カザル)は妻子持ちだが、キレると何をするかわからないマッドな白人……というのが主人公2人の設定だ。黒人×白人コンビの映画は古くからの定番だが、例えば1960~70年代を舞台にしたアカデミー受賞作品『グリーンブック』(2018年)や『ブラック・クランズマン』(2018年)と本作は根っこで繋がっていても、その視点は当然ながら、かなり異なる。

『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

コリンとマイルズが生まれ育ったオークランドは、公民権運動が大きく盛り上がった1960年代には武闘派で知られるブラックパンサー党の本拠地となり、多様な人種の人々が住むようになった現在も独自のコミュニティ精神が残る都市だ。しかし、2009年には地下鉄で無抵抗の黒人青年が白人警官に射殺され、その事件は映画『フルートベール駅で』(2013年)として世界中の人に知れ渡った。また、前述したとおり近年はジェントリフィケーションが進み、人種差別や経済格差だけでなく教育や新たな文化の流入など様々な問題に揺れている。

『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

『ブラインドスポッティング』はボンクラ青年たちのやり取りをコミカルに描いて笑いを誘いつつ、無抵抗にもかかわらず警官に銃殺される黒人を通して彼ら(黒人たち)の置かれた境遇を強調する。しかもコリンは既決重罪犯(すでに重罪の判決が出ている者)で、カリフォルニア州では軽犯罪でも3回目からは懲役25年以上(または終身刑)が課されるという「三振法」があり、指導監督期間の残り3日間を戦々恐々と過ごすことになるというわけだ。

『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

本作の脚本も手掛けたディグスとカザル、そして監督のカルロス・ロペス・エストラーダは、指導監督期間の設定を逆時限装置的に有効に使い、プロテスト的な側面だけでなくエンタメ性もしっかり確保してみせた。高校からの仲間だという主演2人の関係性は、まるで『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)におけるマット・デイモンとベン・アフレックのようだが、彼らは実際それぞれラッパー/詩人として実績を積んできたアーティストである。今回俳優としても見事な演技を披露している2人の幅広い才能は、以下の動画を観てもらうだけでも十分お分かりいただけるだろう。

まるでシェイクスピア劇のように詩情豊かなセリフ(&汚WORD)の応酬!

舞台が舞台だけに要所で流れるヒップホップは当然の作法のようにも思えるが、劇中では主人公2人のセリフが露骨にラップ調になるシーンもある。もちろんディグスはラッパー、カザルはスポークンワード・アーティスト(歌詞などを歌わずに話すアーティスト)なので違和感はないのだが、特にディグスのラップからは“いち黒人の叫びは届かなくてもラップなら大勢が耳を傾ける”という、詩歌であり武器/ツールでもあるラップの意義を改めて痛感させられるはずだ。

『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

もし「この手のカルチャーには疎いから……」とスルーしてしまう映画ファンがいたら、予備知識なんていらないからとにかく鑑賞するよう全力で勧めたい。本作はカルチャー云々以前に人間の内面を描いた悲喜劇であり、豊かな詩的表現が散りばめられた、まるでシェイクスピア劇のようなセリフの攻防が楽しめる傑作である。「(人種間問題などの)盲点=ブラインドスポッティング」をあぶり出しつつ、未来へ希望を繋ぐラストシーンも予想外かつ実に爽やかだった。

『ブラインドスポッティング』©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

『ブラインドスポッティング』は2019年8月30日(金)よりロードショー

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『ブラインドスポッティング』

地元オークランドで友人だった黒人のコリンと白人のマイルズ。白人警官の黒人男性射殺をきっかけに、友人2人の関係性が試されることになる。
俺たちには、同じものが見えていると思っていた。
指導監督期間残り3日間。地元オークランドで何の問題も起こさずに、無事に乗り切ることができるのか?

制作年: 2018
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