「前向きに生きるきっかけに」ブレンダン・フレイザー主演『レンタル・ファミリー』HIKARI監督インタビュー
ブレンダン・フレイザーが日本でタレント活動!?
『レンタル・ファミリー』HIKARI監督インタビュー
『ザ・ホエール』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーが、日本を舞台にした映画で主役を演じる。それも、レンタル家族として日本人家庭に派遣される売れないアメリカ人俳優の役なのだ。
このユニークなコメディ映画『レンタル・ファミリー』の共同脚本と監督を務めたのが、日本人女性のHIKARIさん。長編映画は2作目だが、これまでにHBOのドラマ「TOKYO VICE」や米エミー賞を総なめにしたNetflixの「BEEF/ビーフ」で監督を務めてきた。
ハリウッドのスタジオシステムでメジャーな映画を撮影する唯一の日本人女性、その人生の道のりはどのようなものだったのか。東京国際映画祭で来日されたHIKARI監督にインタビューした。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
「写真は幸せな瞬間を撮れる。それを映画で再現したい」
――いま、どれくらいの間隔で帰国なさっているんですか?
今回はアフレコで、2025年の3月か4月に2週間ほど帰ってきて、今回が2回目。家族に会いに年1、2回は帰ってこられたらと思います。年末年始は大体帰って来ていますね。日本のお正月は最高です。心のリセットができるから。
――日本人女性でハリウッドで活躍なさっているわけですが、映画監督になる前にどのような道のりがあったんでしょうか。また「映画監督になりたい」とはっきり志を抱かれた作品がありましたら教えてください。
私が映画の大学院に行きはじめたのが31歳になってからなんです。入試を受けたのも30歳くらいだったので、映画に関してはどちらかといえば遅咲きですね。それまでは俳優業でミュージカルやオペラに出ていました。合唱団に入っていた子どもの頃、10歳くらいからパフォーミングアーツが好きで、高校でアメリカに留学して舞台を経験して。
大学でもアメリカに戻ってきて演劇、ダンス、美術(ファインアーツ)、ミュージックという、もう本当に卒業しても全然お金にならないような学科ばっかり取って(笑)、「お母さんごめんなさい!」って感じなんですけど。それで卒業してオーディションを受けながら、途中でビザがないとオーディションを受けられないので、それがきっかけでカメラマンの仕事をすることになって、役者さんやモデルの友だちの写真を撮ったり。その延長でミュージシャンやラッパー、ヒップホップのアーティストの人たちの写真を撮るようになりました。
油絵をずっとやっていて、コーヒーショップとかで個展をしたりもしていました。だから写真って、シャッターを押した瞬間に「こんなに早くアートができるんや!」って、本当にしょうもない、他愛もないことなんですけど、そういうところにすごく感動を覚えて、写真を撮るのがすごく好きになったんです。写真を撮れば撮るほど、役者さんに対して「こういうアングルでこういう気持ちで」と指示を出すようになって。結婚式で写真を撮ると、二人の幸せな瞬間を撮れたっていう感動がある。それを映画で再現したいと思って映画を撮るようになりました。まだ映画は2本目で、途中でショートフィルムとか、テレビシリーズを数多く手掛けてきました。
だから、とくに“この映画に影響されて映画監督になりたい”と思ったということはじつはなくて、カメラマンとして人と関わったときの再現をしたい、あのリアルな瞬間を映像で再現してストーリーとして観客にシェアしたい、そう思って映画監督になったという意識の方が大きいですね。あと、やっぱり何かメッセージのあるもの、ポジティブに前向きに生きていけるきっかけになれたら――世界平和というと莫大に感じますけれども、映画を通じて人々の意識をポジティブに持っていくことで、そういう貢献ができたらって思います。そのために映画を作っていますね。
HIKARI監督
「オーディション会場で“私が目指さなくていいところだ”と思った」
――カメラマンになって写真の道を突き進もうという方向に向かっていく人もいると思いますが、映画という表現に向かわれたのは、やっぱり映画のメッセージ性を重要視されたということでしょうか。
人生で本当にたくさんの仕事をしてきたんですが、それこそ10代の頃には……“マネキン”というお仕事を聞いたことはありますか? デパートメントストアで日替わりで職場が変わっていくような仕事をしました。大学院に行くまで、20代の頃はとにかく自分がやってみたいと思ったことは全部しました。ラスベガスのツアーガイドも含めて。
それでカメラマンをしながら、俳優の仕事をしていて「あ、もうこれでいいかな」と思った瞬間があったんです。というのは、クリームチーズのコマーシャルのオーディションを受けたんですが、私はCMとかミュージックビデオの仕事をすることが多くて。そのとき、もう何百人っていう俳優さんたちが3人分の役のためにオーディションに来ていて、「まず、これは絶対に受からないな」と、っていうか「これ、私がしなくてもいいな」と思ったんです。「もう私が目指さなくていいところだ」って。
そのときに1時間くらい待たされたので、オーディションを受けてお芝居している人たちを見たときに「この人、上手だな」「この人は面白いな」っていうのを頭の中で組み合わせていった。自分がもう全然無理なのはわかっていたので。いまでも覚えていますが、(会場を)出ていくときに「もう役者はいい」と思ったんですね。
カメラマンの仕事は、やっぱりカメラが好きだから、いまでも友達の誕生日や結婚式に呼ばれたら写真を撮ってプレゼントしているんですが、カメラマンの次は、さきほど言ったように、それまで見てきた体験を映像に残したいっていう感覚です。そのオーディションのときに見ていた「この人、良いな」「この人は良くないな」「こうしたら面白いな」というのが映画監督になるきっかけだったかもしれないですね。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
「大好きな役者さんがオーディションに来てくださったので、大変でした」
――日本人キャストの方々が、山本真理さんなど邦画であまり見かけない方と、森田望智さんや宇野祥平さん、板谷由夏さんなど邦画の常連と言える方が混ざっていて、とてもいいキャスティングでした。日本人キャストをどのようにして決めましたか。
メインのキャスティングでブレンダンが決定したところから、キャスティングディレクター2人にオーディションをセットアップして頂きました。アメリカ側は高田ゆみさん、日本側は川村恵さんという方です。日本中の、本当にたくさんの役者さんにオーディションを受けていただきましたね。その中で、まず英語のセリフが話せる方たちを選出し、最終的にはブレンダンとのケミストリーで決定しました。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
でも、大好きな役者さんがオーディションに来てくださったので、キャスティングは大変でした。誰に決まっても本当に素晴らしい作品になると思いましたが、柄本さんが決まったときに、じゃあこの役は柄本さんとちょっと年が離れている方じゃないとダメだなとか、そういう形でみんなで決めていきました。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
日本ではオーディションがなかなかないので、「今回が人生で初めてのオーディションです」という俳優さんも多かったですね。アメリカはスタジオシステムでオーディションしないとダメなので、日本では有名な俳優さんでもスタジオ側は全く認識がないので、オーディションのときは私も日本に来ました。(宇野)祥平くんとかは『37セカンズ』(2019年)にも出てもらったので、“この役は祥平にやってもらいたい”と思って電話して、「小さい役やねんけど」って言ったら「なんでもやります!」って二つ返事で。もう一緒にやっていて、気心はわかっているので安心して演出できるし、とにかく楽しかったです。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
仲良くしている内田英治監督が「この役者さんいいよ」って、いろんな俳優さんを紹介してくれて。クィアの役(佳恵)を演じた森田(望智)さんのことは『全裸監督』で知ったんですけれど、すごく大好きな役者さんです。小さい役ですけれど、彼女のお芝居はやっぱり重みがありますね。
山本真理さんは彼女の芯が通った強さ、愛子(役)に必要な力強さが彼女の中にあったので。彼女はもともと日本でジャーナリストの仕事をされていて、脚本を書いたりもするすごく多彩な俳優さんで。Apple TVの「モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」というゴジラのテレビシリーズで、すごく大きい役を演じているんですよ。
それこそ(「モナーク」では)平岳大さんのお母さん役で、素晴らしいんですけれど、それを見たときに「あ、彼女がいいかな」ってピンときて、あとはオーディションでブレンダンとの相性がすごくよかった。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
ブレンダンを選んだのは直感で。私、結構直感で生きていく人間なんですけど、『ザ・ホエール』の質疑応答を見て「ああ、彼、めちゃめちゃいいかも」と思って。彼を見て声を聞いていると、すごくセンシティブでスタッフに対してのいたわりや優しさが画面から伝わってくるぐらい。その質疑応答を見たときに、繊細なところ、ちょっと寂しいところ、情熱的なところも含めて、フィリップ役に必要な資質を持っていると思いました。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
――あの不器用そうなところに人間味があってよかったです。冒頭でブレンダンが小田急線に乗り遅れたりしているところから身近に感じました。ブレンダンは日本について、どんな印象を語っていましたか?
彼は日本が大好きですね。『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(1999年)で初めて、それこそ何十年も前に日本に来たときにすごく感動したみたいで、「なんて居心地がいいところなんだ」って。だからこそ3~4か月ものあいだ撮影に来ていただけたし、普通はそのハードルがなかなか高いですからね。お子さんがいたりすると、みんな来られなかったりもしますからね。
――ロケ地を探すのにも、すごいご苦労があったということですが。
そうですね。「ここ、いいな」と思っていてもなかなか許可が下りなかったり、「行けそうです」「でもダメでした」となったりするのが日本では多いじゃないですか。たとえば船のシーンでは、日本の制作会社が安価で頑張って撮った、みたいなイメージが欲しかったので、遊覧船よりもあえてそういうものを探しました。なかなか難しいですよね。たまたまいいものが見つかったからよかったんですが、ゴミ処理場に船があって、製作陣が頑張ってくれたんです。
『レンタル・ファミリー』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
『レンタル・ファミリー』
CM撮影のために来日した俳優のフィリップはそのまま東京で暮らすが、仕事は少なく生活は厳しい。説得されてレンタル家族の仕事を引き受け、さまざまな家庭で日本の問題を垣間見ることになる。出会った人々とのつながりから仕事に魅力も感じ始めるが……。
監督:HIKARI
出演:ブレンダン・フレイザー、平岳大、山本真理、柄本明、ゴーマン・シャノン・眞陽 ほか
2026年2月27日(金)より全国公開