奪われたスニーカーを取り返せ! ベイエリアのリアルを描く新世代フッド・ムービー『キックス』

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ライター:BANGER!!! 編集部
奪われたスニーカーを取り返せ! ベイエリアのリアルを描く新世代フッド・ムービー『キックス』
『キックス』©2016 FIGHT FOR FLIGHT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
米オークランド・ベイエリアを舞台に、物騒なストリートでくすぶる気弱な少年がイカすスニーカー欲しさに荒ぶっていく姿を描く、00年代カルチャーを反映した新たなフッド・ムービーの登場だ。

クールなスニーカーさえゲットすれば、何でもできるような気がした

『キックス』©2016 FIGHT FOR FLIGHT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

90年代フッド・ムービーの遺伝子を受け継ぎ、かつ00年代以降の最新カルチャーを散りばめた新感覚のストリートムービーが誕生した。米オークランド・イーストベイで育ったジャスティン・ティッピング監督が自身の経験を盛り込んだ初の長編映画『キックス』だ。

物語は、15歳のブランドン少年が暮らすイーストベイ・エリアを舞台に繰り広げられる。背が小さく引っ込み思案なブランドンは当然ながら女子にはモテず、貧しい家庭事情のためいつもボロボロのスニーカーを履いていることもあり、何かにつけて周囲からイジられていた。

そんな彼にも二人のマブダチがいるが、いつもハイだけどモテモテのリコはエア・ジョーダン3を、ぽっちゃり体型でR&Bが大好きなアルバートはエア・ジョーダン6を履いていて、仲間内でも一目置かれる存在。現状を打破し劣等感から抜け出したいブランドンは、バイトに精を出してタンス貯金をはたき、ついに念願のエア・ジョーダン1(AJ1)をゲットする。

それまでのうつむきボーイから一転、テンション爆アゲになったブランドンは言動もアッパーになり、さらに女の子から逆ナンされるなどイケイケ状態に。そんな彼と一緒に「良かったね!」と喜びたいところだが、もともとがいじめられっ子だけに嫌な予感しかしない。案の定不安は的中し、街にたむろするゴロツキ集団にボコボコにされ、大事なAJ1も奪われてしまう。まさに天国から地獄に突き落とされたブランドンは、マブダチ2人を無理やり伴ってAJ1を奪い返そうとするのだが……。

たかがスニーカーにそんな……と言うことなかれ、ここ日本でも“エアマックス狩り”と呼ばれる蛮行が横行していた時代がある。とはいえベイエリアでは銃が出てくるのでその100倍は物騒な話なのだが、とにかく多くのファッションクラスタにとってシューズは重要なポジションを占めるアイテムである。スニーカーと最も深く関わりあってきたヒップホップ・カルチャーにおいては、RUN-DMCの時代から単なるシューズの枠を超えた存在だったことは言うまでもない。中でも様々な社会現象を巻き起こし、ブラック・カルチャーそのものを象徴してきたのがNIKEの大ヒット作“エア・ジョーダン”シリーズなのだ。

新人からベテランまで、物語に生命力を吹き込むキャスト陣

『キックス』©2016 FIGHT FOR FLIGHT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

主人公ブランドンを演じるジャキング・ギロリー(14歳)の初々しさは非常にリアルだが、これは子役時代から長いキャリアを持ち、ラッパーとしても活動する彼の幅広い表現力の賜物だろう。さらに、マブダチのアルバートを演じるクリストファー・ジョーダン・ウォーレスはその名の通り、NYブルックリンが生んだ偉大なラッパー、“ビギー”ことノトーリアス・B.I.G.と、R&Bシンガー、フェイス・エヴァンスの息子! リコ役のクリストファー・マイヤーと共に、まるで『friday』(1995)のようなコミカルな演技も見せてくれる。

そして、ブランドンの叔父・マーロンを演じているのは『ムーンライト』(2016)でアカデミー助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリ。スニーカーに命をかける若者たちを、時に叱咤しつつ深い愛情で導くコワモテの犯罪者という、まさに“ストリートキッズたちのメンター”といった風情のキャラクターは、『ムーンライト』のフアンと同じくアリのハマり役と言えるだろう。

このキャストなら普通に撮っても重厚な作品になりそうなものだが、ティッピング監督はストリートのリアルな映像の合間に、フワフワしたカメラワークとドロッとしたスロー映像を挿入。この不思議なバランス感覚が物語にファンタジー的な要素を与えつつ、さらに“謎の宇宙服の人”が上空からゆっくり降臨してくるものだから、いわゆるストリート系横ノリ映画だと思って観ていた人はびっくり必至である。

この宇宙服の人、ブランドンの成長を促す存在なのか、彼の思考・行動の写し鏡なのか、もしくは物言わぬイマジナリーフレンドなのか……。そのへんは各々想像を巡らせていただくとして、荒々しさや貧しさばかりがフィーチャーされ、とにかく物騒と思われがちな(実際そういう側面も大いにあるのだが)、現代アメリカに生きる黒人たちの生活や文化を、新鮮な切り口で見せてくれた監督のセンスに拍手を送りたい。

そんな物語のサウンドトラックは、もちろんヒップホップ。劇中でケンドリック・ラマーや2Pac、Nas、Jay-Z、ウータン・クランなど有名ラッパーたちの曲がたびたび挿入されるだけでなく、曲タイトルや歌詞が展開の合図を兼ねていたり、歌詞字幕でシーンを語らせる演出が超カッコいい。E-40やToo Short、故マック・ドレ、キース・ジェンキンスなど、00年代初頭にベイエリアで生まれたムーブメント“ハイフィー”関連のラッパーも多数フィーチャーされているので、ぜひサウンド・トラックもチェックしておきたいところだ(アーティスト/曲リストは公式サイトに掲載されている)。

 

一対のスニーカーを引き金に負の連鎖が始まり、いつしか“奪う側”に廻ってしまうブランドン。スニーカーに取り憑かれた彼はやがて最大の敵と対峙し、自らの行為に落とし前をつけることになる。ビギーの名曲「Party and Bullshit」の歌詞をつぶやきながら。

全米屈指の治安の悪さで有名なオークランドが舞台とはいえ、ここまで“どこか遠くで響く銃声”が身近に、そしてリアルに胸を打つ(=超怖い)作品はそう多くないだろう。憧れ焦がれた“キックス”と引き換えに少年が得たもの、そして失ったものとは? スニーカーやヒップホップ・ヘッズでなくとも必見の、フレッシュな魅力にあふれた新世代のフッド・ムービーだ。

『キックス』は12月1日(土)より、渋谷シネクイントにてロードショー ほか全国順次公開

 

『キックス』公式サイト

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