「よくある音楽伝記映画にはしてほしくなかった」BOSS本人も登壇!『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』記者会見
「撮影まで、できる限りブルースと一緒にいるようにした」
――スプリングスティーンを体現すること
ジェレミー・アレン・ホワイト(以下、J):もちろん、とても気後れすることでした。とくにブルースのように現役の、誰もが知っているスターなら、なおさらのこと。それに僕自身もご多分に漏れず、彼の歌を聴いて育ってきたので。
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』©2025 20th Century Studios
最初に彼に会ったのは、彼のコンサートを観に行ったときでした。彼は素晴らしいパフォーマーで、最初から彼の持つすべてのスキルを見せられたような気分でした。とても圧倒されましたよ。そして彼を知れば知るほど、つまり彼のことを尊敬して好きになればなるほど、彼を演じるプレッシャーは大きくなっていった。
でも、自分はできる限り彼のことを観察し、彼から学ぶことが大切だと思っていました。そして脚本に集中すること。幸いこの物語は「ネブラスカ」の時代にフォーカスしていたので、この時代についての彼の話を聞き、70、80、90年代初期のコンサートの映像を観て、ひたすらこの時期の彼の状態に集中したんです。
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ブルースはとても寛大で、僕に1955年のギブソン「J-200」を送ってくれました。彼がネブラスカの録音に使ったギターで、僕が映画のなかで弾いているものです。彼は可能な限り、映画がリアリティに近づくことを望んでいました。それでもちろん、僕もこのギターで特訓しました。そして撮影まで、できる限りブルースと一緒にいるようにした。彼はその点も大変寛大で、多くの時間を僕らに割いてくれたんです。
もちろん当初は僕とスコット、ブルースで一緒に話し合い、外見的に何かするべきなのか、相談しました。僕はブルースにとくに似ているわけじゃないですから。でも何かを試すたびにいつもトゥーマッチな感じになり、結局コンタクトレンズで目の色を変えるぐらいに留めたんです。
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』©2025 20th Century Studios
――偶像と自分自身のギャップ
J:映画でも描かれているように、この時期のブルースは突然成功して、名声を得て、世間が押し付ける偶像と自分自身のギャップに戸惑っていたんだと思います。思うに、音楽的な方向性やステージでの表現に関しては、彼は明確なものを持っていた。でも自分自身に関しては、何が起こっているかを理解したり、コントロールするのがとても困難だったのでしょう。僕自身もいま、この時代の彼と同じような年齢なので、その状況はすごく共感できます。とくに若い頃というのはまだ自分自身が固まる前だし、環境が急激に変わると混乱してしまうのだと思います。
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』©2025 20th Century Studios
「アメリカの正真正銘のアーティストを可能な限り正確に描く」
――ざらついた映像的アプローチ
S:この時代だけでひとつの映画にするのは決して簡単ではありませんでした。ブルースがその栄光とはかけ離れ、とても孤独で内に向かっていた時期ですから。一番のチャレンジは、いかにそれを観客に響くものにできるかという部分でしたが、それは沈黙のなかで伝えるしかない。それに、アートの創作について描いた作品というのは多くはありません。
ブルースは本作をサイコロジカル・キャラクター・ドラマと呼んでいましたが、自分にとってはクリエーションについてのサイコロジカル・ドラマでもありました。同時にそれを、ブルースの記憶にアクセスすることで描きたかった。ブルースは子供時代の思い出はモノクロだったと語っていて、それでネブラスカのジャケットやライナーノーツもモノクロで作られている。だから自分にとっても、彼の子供時代をモノクロで描くのは必須で、自分自身を曝け出し、子供の頃から抱えてきた解決できないトラウマに真正面から向き合う勇気を持った男を見せることが重要でした。
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幸いなことに僕は、マサノブ・タカヤナギという素晴らしい撮影監督を得ることができました。僕とマサは、カメラを4トラックのレコーダーのように使おうと話し合いました。とてもシンプルに、ブルースの記憶にあるように映像を撮ろうと。
幸運なことにブルースは僕が脚本を書いているあいだ、撮影中、編集作業とすべてのプロセスに付き添ってくれた。僕は申し訳なく感じながらもその都度、このときあなたはどんな精神状態だったのか、どんな風に感じたか、部屋はどんな様子だったか、何を着ていたか……といったことを根掘り葉掘り尋ねました。それがいかに彼にとってうんざりすることだったのかは、わかっていました。でも僕にとってはそれこそが、アメリカの正真正銘のアーティストを可能な限り正確に描く手段だったのです。
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』©2025 20th Century Studios
――父と息子の関係
B:スコットは父と息子の関係についてとても深く理解していて、それを映画に入れ込んでくれた。父は20年ぐらい前に他界して、この映画を目にすることはできないけれど、スコットは自分の人生、仕事、そして何よりも家族のこと、父の苦悩、葛藤をこの映画で讃えてくれたんだ。それは自分にとって大きな意味を持つことだった。
S:父と息子の関係というのは普遍的なものでもあります。そして親子のあいだに問題を抱えた人は少なくない。本作はもちろんスプリングスティーンの物語ですが、同時にわたしは、映画を観た人が自分自身も反映できるような普遍性を持ち得るものにしたいと思いました。実際すでにこの映画を観た人から、そういった反響の声を聞く機会もありました。
さらにわたしは、本作で深刻な鬱の状態にあったブルースを描くことで、ふだん映画で取り上げられないような、この時代の男性社会ではとくにタブー視されていたメンタルな問題に目を向け、そんな人々の声に耳を傾けるような作品にしたいと思いました。幸いにもブルースの寛大さと芸術的な勇気により、それが可能になったのです。
取材・文:佐藤久理子
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は11月14日(金)より全国公開
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』
『Born in the U.S.A.』の前夜、彼は何と向き合っていたのか――
ロックの英雄、そしてアメリカの魂――
50年にわたり第一線を走り続け、今も世界中のスタジアムを熱狂させるブルース・スプリングスティーン。
世界の頂点に立つ直前、彼は、成功の重圧と自らの過去に押し潰されそうになりながら、わずか4トラックの録音機の前で、たった一人、静かに歌いはじめる。ヒットチャートも栄光も求めず、ただ心の奥底から掘り出した“本当の声”を、孤独と痛み、そして創造の原点とともに刻み込んだ――。
主演はエミー賞俳優ジェレミー・アレン・ホワイト「一流シェフのファミリーレストラン」、監督・脚本は『クレイジー・ハート』(アカデミー賞R受賞)のスコット・クーパー。
『ボヘミアン・ラプソディ』の20世紀スタジオが贈る、音楽映画の枠を超えた、心を揺さぶる体験がここに。
彼の魂の旅路が、いまスクリーンに映し出される。
監督:スコット・クーパー『クレイジー・ハート』
出演:ジェレミー・アレン・ホワイト「一流シェフのファミリーレストラン」, ジェレミー・ストロング『アプレンティス』, ポール・ウォルター・ハウザー「ブラック・バード」, スティーヴン・グレアム「アドレセンス」, オデッサ・ヤング『帰らない日曜日』
| 制作年: | 2025 |
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2025年11月14日(金)より全国公開