巨匠モーリス・ジャールによるエキゾティックで観念的な音楽
本作の劇伴を作曲したのは、『アラビアのロレンス』(1962年)、『ドクトル・ジバゴ』(1965年)、『インドへの道』(1984年)でアカデミー作曲賞を受賞した巨匠モーリス・ジャール。ラインとは『危険な情事』に続いての共同作業だった。
生前のジャールのインタビュー記事に目を通すと、彼は「費用を節約するためにシンセサイザーをオーケストラ代わりに使う」というやり方には否定的な見解を示していた。そんなジャールが『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)や『追いつめられて』(1987年)などでシンセサイザーを活用するようになったのは、「普通のオーケストラや生楽器では出せない音」で曲を作る手法に可能性を見出したからだった。ジャールのこうした意欲的な試みは、『ジェイコブス・ラダー』の音楽でも絶大な効果を発揮している。
脚本家のルービンが見た「地下鉄の駅に閉じ込められる」という悪夢を基に、シュールで恐ろしい出来事が次々と描かれる本作で、ジャールは松居和の尺八、L.シャンカールの10弦ダブルネック・ヴァイオリンとボーカル、東欧の伝承歌をルーツとする女性コーラスグループの演奏をシンセサイザーと融合させ、エキゾティックで観念的な劇伴を作り上げた。旧約聖書の「ヤコブの梯子」に由来する物語の宗教性と、ルービンが若い頃に傾倒していた東洋思想を反映させた音楽設計とも言えるだろう。ときに効果音のようにも聞こえるその楽曲は、”悪魔”と”地獄”の存在をほのめかし、ジェイコブの苦しみをジワジワと描き出す。
多くの場面で悪夢的な音楽が流れる中、時折聴かれる繊細なピアノ曲も印象に残る。本作のメインテーマにあたるその美しい旋律は、“地獄”を彷徨うジェイコブの人間界との繋がり(=大切な思い出)を象徴するものとして、物語に切ない雰囲気を醸し出す。劇中でジェイコブが息子のゲイブ(マコーレー・カルキン)に歌って聞かせる「サニー・ボーイ」も、歌詞の内容を踏まえて聴くと心に響くものがある。
なお本作は公開35周年を記念して、<La-La Land Records>からCD2枚組サウンドトラックアルバムが全世界1,000枚限定でリリースされる。2020年発売の30周年記念盤を買いそびれた方は、この機会をお見逃しなく。
『ジェイコブス・ラダー 4K レストア』
ベトナム帰還兵のジェイコブは、今はニューヨークの郵便局に勤め、同僚の恋人ジェジーと暮らしている。しかし最近になって、ベトナム戦争中に敵の襲撃を受けた凄惨な体験が悪夢となって蘇り、さらに身の回りに奇妙な出来事が次々と起こり始める。ベトナム時代の戦友もまた同じような悪夢や幻覚に悩まされていることを知り原因を探るジェイコブだったが、そこには驚愕の事実が待ち受けていた……。
監督:エイドリアン・ライン
出演:ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ、ダニー・アイエロ、マット・クレイヴン、マコーレー・カルキン
| 制作年: | 1990 |
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2025年10 月 17 日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開