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カンフーとヒップホップの“理想的な融合”とは?70年代から続く蜜月を「ラップ・フー」映画から紐解く

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ライター:#BANGER!!! 編集部
カンフーとヒップホップの“理想的な融合”とは?70年代から続く蜜月を「ラップ・フー」映画から紐解く
『ブラック・ダイヤモンド』© 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

“カンフーとヒップホップの関係”について考える

音楽好きの映画ファン/映画好きの音楽ファンならば、“カンフーとヒップホップ”の関係について一度は思いを馳せたことがあるだろう。そこにはウータン・クランの総帥RZAがカンフー映画マニアというファクトだけでは説明できないケミストリー、幅広い層の琴線に触れる不思議な魅力がある。

ブルース・リーの活躍をきっかけに、比較的低予算で量産できるエンタメ作品としてハリウッドに輸入されたカンフー映画は、沸々と煮えたぎっていたブラックカルチャーと共鳴。やがてカンフーや空手を盛り込んだブラックスプロイテーション作品が多数作られることとなる。

『黒帯ドラゴン』© 1973 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

そしてヒップホップもカンフー映画と相性が良かった。権力者からの暴力的な制裁や経済的抑圧に、個の力で立ち向かう影の実力者という構図。ジョセフ・シュロス(作家/民族音楽学者)の「武道(マーシャルアーツ)がヒップホップにもたらした真の貢献は、師匠やメンターを敬いながらも自らの自尊心を損なわない方法を示す、徒弟(見習い)制度のモデルを提供したことである」という指摘にも膝を打つ。

Y2Kの徒花なのか? “ラップ・フー”という特殊ジャンル

90年代から00年代初頭には、有名アクションスターが人気ラッパーと共演するパターンの映画がいくつか作られた。その多くが単発に終わったため“企画モノ”のイメージが強いが、中にはリュダクリスがレギュラー出演する『ワイルド・スピード』のように超人気シリーズとなった例外もある(※カンフー要素はほぼナシ)。なお、RZAがカンフー愛を注入した『アイアン・フィスト』(2012年)も、マニアが長年の夢を結実させた例外作品と言えるだろう。

アイアン・フィスト (字幕版)

PrimeVideo「アイアン・フィスト (字幕版)」

2002年にはスティーヴン・セガールが有名ラッパーのジャ・ルールと共演した『奪還 DAKKAN -アルカトラズ-』が公開されたが興行的に大コケし、その後セガール主演作は長らく劇場から姿を消すことになってしまう。当時イケイケだったジャ・ルールも『ワイスピ』1作目(2001年)に出演するなど好調のように見えたが、本業におけるプロップスの低さと持ち前のナルシシズムが悪い意味でセガールとケミストリーを起こしたのか、すこぶる評判が悪い。とはいえ、そのへんの事情が関係ない日本の映画好きからはそこそこ評価されている作品でもある。

一方で、同じく映画的に高く評価されているわけではないものの、地域や世代を超えて尊敬を集めたラッパーDMX(2021年没)と、カンフー映画界の生ける伝説ジェット・リーが出演し、ジョエル・シルバーが制作した“ラップ・フー”と(ごく一部で)呼ばれている三部作は、いまだ多くの映画ファンから愛されている。

その三作とは、ジェット・リーとアリーヤ共演の『ロミオ・マスト・ダイ』(2000年)、スティーヴン・セガールとDMX共演の『DENGEKI 電撃』(2001年)、そしてジェット・リーとDMXがW主演した『ブラック・ダイヤモンド』(2003年)だ(※監督はすべてアンジェイ・バートコウィアク)。

『ブラック・ダイヤモンド』© 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ラップ・フーの快作『ブラック・ダイヤモンド』の見どころ

強盗団のリーダーであるフェイト(DMX)は、謎めいた男スー(ジェット・リー)から「“ブラック・ダイヤモンド”には手を出すな」と警告される。フェイトはその言葉を無視し、宝石商の金庫からありったけの宝石を強奪。しかし娘が犯罪組織に誘拐されてしまい、引き換えに“ブラック・ダイヤモンド”を要求されるのだが……。

『ブラック・ダイヤモンド』© 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

オープニングからエミネムとDMXのコラボ曲で始まる本作。さらに冒頭シーンからジェット・リーが鳥肌モノの危険スタントを披露し、DMX一味のダイヤ強奪シーンへとサクサク展開する。騒動の中心であるデカい黒豆みたいなダイヤモンドはマクガフィン的な存在であると同時に最大のツッコミどころでもあり、アクション面でも最後まで重要な役割を果たす。

『ブラック・ダイヤモンド』© 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

リーとDMXがカチ合うのは中盤手前。ひょんなことから共闘することとなり、スタイルの異なるバトルを交互に披露する。DMXのワイヤーアクションも“腕っぷしがウリの無骨な男”としてのリアリティを損なわない絶妙な塩梅で、常に冷静沈着なリーが見せるガチのスタントとのギャップも可笑しく、スカッと小気味良い。しかも悪役がマーク・ダカスコスという豪華さで、その壮絶な死にっぷりも見どころだ。

『ブラック・ダイヤモンド』© 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

また、近年もサスペンスや人情ドラマなど幅広く活躍する美魔女優ガブリエル・ユニオンや、『X-MEN2』(2003年)のレディ・デスストライク役で知られるケリー・ヒュー、コメディほか様々な作品で顔を見せるシャイ・マクブライドや、ラップ・フーの常連俳優アンソニー・アンダーソンなど、脇を固める実力派たちとの共演も楽しめる。

『ブラック・ダイヤモンド』© 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ジェット・リーとDMX ~カンフーとヒップホップの理想的な融合~

1982年のデビュー作『少林寺』が日本でも大ヒットし、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ(1991年~)を経て『リーサル・ウェポン4』(1998年)でハリウッドに本格進出したジェット・リー。“ラップ・フー映画”に欠かせない存在だったジェット・リーの主演作の中には、『キス・オブ・ザ・ドラゴン』(2001年/リュック・ベッソン監督)のようにサントラがヒップホップ曲メインだったり、あのマッシヴ・アタックが全曲書き下ろした『ダニー・ザ・ドッグ』(2005年)のサントラなど興味深いものが多い。

かたや1990年代後半から2000年代初頭にかけて活躍したDMXは、独特なダミ声による攻撃的なラップスタイルと祈りを交えたリリックで一時代を築いたラッパー。1998年のデビューアルバムがビルボード200で1位を獲得し、その後も5作連続で1位を記録。ヒップホップ史上初めて5作連続でアルバム初登場1位を獲得したラッパーとなった。晩年も様々な映画でタフガイぶりを見せてくれたが2021年に急逝し、50歳という若すぎる死にジェット・リーからも追悼の言葉が寄せられた。

最新ヒップホップにも影響を与え続けるカンフー映画

そして2010年代以降の最重要ラッパーであるケンドリック・ラマーも、カンフーに熱い眼差しを向けている。2017年リリースの大ヒットアルバム「Damn.」収録曲のミュージックビデオでカンフー着を纏ったケンドリックは、ジャッキー・チェンとクリス・タッカーが共演したアクション・コメディの続編『ラッシュ・アワー2』に出演したドン・チードルを招聘しているのだ。

かつてチードルが演じたキャラクター名を拝借した”カンフー・ケニー”なるオルターエゴを生み出したケンドリックは、カンフーをテーマにしたスペシャル映像を世界ツアーのステージ上で披露。古典作品をベースにブラックスプロイテーションの猥雑なバイブスも感じさせるその映像は、1985年のディスコなカンフー映画『ラスト・ドラゴン』からの影響を指摘する声もある。

『ラスト・ドラゴン』はブルース・リーに憧れる黒人青年が、愛する女性を守るため権力者や悪党に戦いを挑む……という物語で、実際に空手やテコンドーの有段者だというタイマックが主人公リーロイを演じている。共演のヴァニティはシンガーとしてプリンスのバックバンドを務めていたが、同作で俳優として本格デビューすると、1988年にはカール・ウェザース主演の『アクション・ジャクソン/大都会最前線』でも存在感を示した。

ブルース・リー作品だけでなく『ベスト・キッド』(1984年)=空手の要素も混入した『ラスト・ドラゴン』のごった煮感は、ケンドリックが客演したSZAの「Doves In The Wind」のミュージックビデオにも投影されている……というのは少々強引かもしれないが、2020年代以降はコロナ禍を経て興った“日本ブーム”が世界のヒップホップシーンに再び影響を与えつつあるので、ラップ・フーの本格リバイバルにも期待したいところだ。

『ブラック・ダイヤモンド』『ラッシュアワー2』『アクション・ジャクソン 大都会最前線』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年10~11月放送

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