聞いてないよ! 盲目じいさん宅に侵入した若者たちの末路
「スパイダーマン」シリーズなどの監督で知られるサム・ライミの出世作『死霊のはらわた』(1981)は、人里離れた森の小屋を舞台に5人の若者たちに降りかかる惨劇を手作り感満載で描いた心温まる血まみれスプラッター。 生涯ベストの一本にあげる人も少なくなく今なお語り継がれている伝説の作品で、近年も『死霊のはらわた リターンズ』(2015~)としてTVシリーズ化されております。
そんな作品なので当然リメイクも作られたわけですが、その異様な作風は賛否を巻き起こしました。というのも、本家サム・ライミがプロデューサーなのにオリジナルにあったユーモアは省かれ、ただただ陰惨な雰囲気。暴力描写は直接的でとにかく過剰。身体は微塵も遠慮なしにザクザク切り刻まれ、撮影で使われた血糊は200リットル超え! 正直、観てる最中は「なにもそこまでやらなくても……」とドン引きしてましたが、ブレーキがぶっ壊れたまま走りきる実直な姿勢は惚れ惚れするものがありました。
前置きが長くなりましたが、そんな作品を手がけたフェデ・アルバレス監督が再びサム・ライミをプロデューサーに迎えておくる長編第2作目が、今回ご紹介する『ドント・ブリーズ』。
舞台は小汚い廃墟が立ち並ぶデトロイト。そこで暮らすロッキー(ジェーン・レヴィ)、アレックス(ディラン・ミネット)、マネー(ダニエル・ゾヴァット)の3人組は、空き巣常習犯。彼らはアレックスの父親が勤める警備会社の情報を盗んでは近所の邸宅を荒らし回っていた。そんな中、3人は一軒家にひとりで暮らす老人(スティーヴン・ラング)が大金をしこたま隠し持っているという噂を耳にする。しかもその老人は盲目。……楽勝!
ということで、サクッと老人宅に侵入。しかしそこで3人が対峙した盲目老人は、抜群の戦闘スキルとネコ並みに発達した聴力を誇る元海兵隊員だった!
家に来た悪党たちに盲目の主婦が立ち向かう、というオードリー・ヘプバーン主演の名作スリラー『暗くなるまで待って』(1967)を元ネタにしている本作。ということは、バカな若者が目の見えないランボーに正当防衛という名のキツ~イ鉄槌を食らわされる映画? というと、そうではないところが本作のミソ。侵入者である3人組は悪行はするけど善人だし、本来ヒロイックなはずの盲目老人はとんでもなく不気味なモンスターとして描かれる。その理由は後半に判明するのですが、ただでさえ恐ろしかった老人のさらなる狂気に戦慄すること間違いなし。
とはいえ、リメイク版『死霊のはらわた』(2013)で大ヒンシュクを買った「やりすぎ精神」はだいぶ抑えられていて、一定の恐怖はキープしつつもホラー映画が苦手な人でも楽しめるようになっているところもポイント。そのおかげか映画は大ヒットを記録し、続編も速攻で製作決定。フェデ・アルバレス監督とサム・ライミは『死霊のはらわた』での汚名を完璧に返上しきったのでした。
当時無名だったフェデ監督の才能を買ったライミ監督
ちなみに『死霊のはらわた』以前はまったくの無名だったフェデ・アルバレス監督がサム・ライミに拾われたのは、フェデ監督がYouTubeにアップした『Ataque de Pánico!(英題:『Panic Attack!』)』という作品がキッカケ。突然現れた巨大ロボット軍団に街が蹂躙されるだけの約5分間なのに、観たい画を観たい構図できっちり描く確かな演出力は凄まじいもの。実際アップしてから数日間でサム・ライミのほか、ハリウッドの有名スタジオからも多数お声がかかってきたんだとか。
そんなフェデ・アルバレス監督の最新作は、来年公開の『蜘蛛の巣を払う女』。スティーグ・ラーソンによる小説「ミレニアム」シリーズの映画化で、スウェーデン版の三部作とデヴィッド・フィンチャー監督による『ドラゴン・タトゥーの女』に次ぐ、三度目の実写化。製作総指揮はデヴィッド・フィンチャーということで、サム・ライミとのタッグとはまた一味違ったフェデ監督作品になっているとのこと!
文・市川力夫
ドント・ブリーズ
サム・ライミが製作を務めたスリラー。盲目の老人の家へ強盗に入った若者たちが、真っ暗闇の中で逆に追い詰められていく様を描く。
街を出るための逃走資金が必要になったアレックスは、恋人や友人と共に、大金を隠し持つと噂される盲目の老人宅に強盗に入る。だが、その老人は超人的な聴覚を持ち、どんな“音”も聴き逃さない異常者だった。真っ暗な地下室へと追い詰められたアレックスらは、そこで衝撃的な光景を目にしてしまう。
制作年: | 2016 |
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監督: | |
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