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『リンダ リンダ リンダ』は“バンドバトル”映画だった!?【4K版公開記念】山下敦弘監督に聞く制作秘話

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ライター:#BANGER!!! 編集部
『リンダ リンダ リンダ』は“バンドバトル”映画だった!?【4K版公開記念】山下敦弘監督に聞く制作秘話
『リンダ リンダ リンダ 4K』山下敦弘監督 ©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
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「イハさんのことは“スマパンって聞いたことあるな…”ぐらいでした(笑)」

本作の劇伴を手がけたのは、スマッシング・パンプキンズのギタリストであるジェームス・イハ。90年代後半から開始したソロ活動や、日本のアーティストへの楽曲提供やプロデュースでも知られている。

音楽プロデューサーの北原京子さんのアイデアなんですが、たぶん「いまイハがそういうことに興味を持っている」みたいな情報を聞きつけて、いろんな可能性を含めて北原さんの判断でオファーしたんだと思います。

でも当時、僕はイハさんのことを知らなくて、説明を受けて「あ、スマパンって聞いたことあるな……」ぐらいで、後で周りに聞いたら「すごい人だよ」って知らされるんですけど(笑)。

当時はパスポートが切れていてニューヨークでの作業にも立ち会えなくて、結局イハさんとは映画が完成してから一、二度会えたのかな。なので僕からのオファーということではないんです。たまたま、あのときのタイミングで奇跡的にご一緒できた、という感じですね。

そんなイハによる劇伴は、ソロ楽曲のファンには納得、しかしスマパンでの活動のみを知る人にとっては控えめとも感じられるほど繊細で、登場人物たちの“バンド活動”で鳴らされる音を邪魔しない。

たぶんイハさんは、そのへんのバランスはすごく考えてくれたと思います。ずっと日本語で喋っている映画だから、イハさんは風景として捉えてるんだろうなというか、言葉の意味とかドラマチックというよりも彼女たちが佇んでいる、生活している風景として映画を捉えているというか、ニュアンスや雰囲気で音楽をつけているなという感じがあって。

でも、それがすごくハマっていて、なんだか不思議なんですが、逆に音楽作業でやり直しとか時間がかかるといったことは全然なく、出来上がってきたものが全部スッとハマっていった。いま思えば、あんなにうまくいった音楽作業は他になかったなっていうくらいです。

『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

「ペ・ドゥナさんに出てもらうことが優先で、むしろ設定が後付け」

劇中、ペ・ドゥナ演じる韓国からの留学生ソンは文化祭で母国(ハングル文字)についての展示を一人で行い、暇を持て余している。20年前の“日本における韓国のイメージ”は興味深いが、いま同じ設定で同じシーンを描くならば、まったく異なるものになるだろう。

ぜんぜん違うでしょうね。それこそK-POPとかドラマや映画とか。2000年代半ばって、これから(いわゆるK-コンテンツが)くるぞっていう気配はありましたけど、まだ現在とは違う状況だった。いま描いたら、普通に“韓国かっこいい、かわいい”とかってなるかもしれないし、そこは分からないですけれども。

『リンダ リンダ リンダ 4K』撮影メイキング ©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

当時の自分がペ・ドゥナさんにオファーした時点でああいうキャラクターが出来上がったというのは、日本と韓国の距離感が縮まっていなかったというか、いまも縮まっているとは思わないですが――たぶん、どこかで文化的な親和性とか、温度差がすごくあった時代だったんだとは思います。でも作っている側も“韓国と日本”ということは、そこまで意識していなかったんですけどね。ペ・ドゥナさんと仕事がしたい、だったら留学生役かなと、その設定のほうが後付けで、彼女で成立させるということばかり考えていましたから。

『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

「グループショットには、そこに映っている誰かの“無意識”も映る」

映画『リンダ リンダ リンダ』には軽音部顧問の小山先生 (甲本雅裕)以外の“大人の視点”がなく、介入もしてこない。

中原俊監督の『櫻の園』(1990年)っていう映画がすごく好きで。(女子校の)演劇祭の話なんですけど、舞台当日の朝の集合から上演までみたいな話で、基本的には女の子たちだけの視点で描いているんです。どこかで何か、この映画からの影響はあったなと思っていて。

だからなるべく大人だったり先生たちの視点を入れずに、彼女たちだけの世界でやろう、みたいなことは脚本のときからあったと思いますね。ある種この映画の中で大人は部外者だし、男子もどちらかと言えばそう。“女の子たちの世界”っていうのは、どこかで意識していたんじゃないかと思います。

『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

本作の映像的な特徴としてロングショットやトラッキングショットの多用が挙げられるが、言われなければ気づかないほど自然でもある。劇的な展開があるわけでもない学園映画で、その“間”が気にならないほど観客を惹きつける理由は何だろうか。

当時の自分には、主人公を決めたくないというのがあったと思うんです。そうすると4人を均等に捉えるような、つまり単独でカットを割らないみたいなことを、どこかで意識していたんだろうなとは思っていて。当時は「山下作品には独特の間があって……」とかよく言われたんですけど。

グループショットにすることで何が映るかっていうと、“誰かの無意識”が映るんですよね。要はセリフを話していない人、話を聞いている人とか、それこそ聞いてなくて別のことを考えている人とか、そういった無意識も同時に映っている。

それをもっと細かく操作していくと、観ている人にも親切な分かりやすいものになると思うんですけど、『リンダ リンダ リンダ』は不親切というか(笑)、物語を進めている人以外も同じフレームの中にずっと収めている映画なので。

でもその無意識さが、じつはこの映画の武器なんじゃないかとも思っていて。結局は、ただ高校生の日常、文化祭を定点観測したような映画でもあるので、何か他の映画より強みがあるとしたら、10代の役者たちの無意識が映っている、というのが特徴なんじゃないかと思います。

『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

近年は再びフィルムで撮影する作品が増え、世界的に有名な映画祭でもフィルム作品の割合が上がっている。『リンダ リンダ リンダ』も35mmフィルム作品だが、最後に“4K版の注目ポイント”について聞いてみた。

この映画は綺麗になったからといって良くなるっていうものでもないんですが(笑)、4K化するうえで僕とカメラマンの池内義浩さんが意識したのは、とにかく当時の印象を再現しようというか。要は35mmで暗い映画館で上映していた当時の、いちばん綺麗な状態を意識していたので、決して「4Kで生まれ変わりました!」というわけではないんです。

でも、なるべく当時のフィルムの質感だったり、いまと比べて暗かった映画館も含めて、あの時代の映画を観ているような感じにしたつもりではあります。なので多分、20年前に劇場で観た人は懐かしいと思うだろうし、(映像が)明るいなと思うかもしれない。そして、これから初めて観る若い人にとってはフィルムの質感自体が、ちょっと暗い映画ということも含めて新鮮に映るんじゃないかなと思っています。

『リンダ リンダ リンダ 4K』は8月22日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国ロードショー

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『リンダ リンダ リンダ 4K』

文化祭前日に突如バンドを組んだ女子高生たち。コピーするのはブルーハーツ。ボーカルは韓国からの留学生!?
本番まであと3日。4人の寄り道だらけの猛練習が始まった!

出演:ペ・ドゥナ 前田亜季 香椎由宇 関根史織(Base Ball Bear)
   三村恭代 湯川潮音 山崎優子(新月灯花/RABIRABI)
   甲本雅裕 松山ケンイチ 小林且弥

監督:山下敦弘
脚本:向井康介 宮下和雅子 山下敦弘
主題歌:「終わらない歌」(ザ・ブルーハーツ)
音楽:James Iha

制作年: 2025