南米屈指の貧乏国ウルグアイが大麻を解禁した理由とは?
「ウルグアイ」と聞いてイメージするものは? 南米で2番目に小さい国、第1回ワールドカップで優勝したサッカー代表チーム、日本から一番遠い国……そんなところだろうか。なんとなく、のんびりした国民性という印象を勝手に抱いていたが、実はウルグアイは“世界で初めて大麻を合法化した国”でもある。南米の小国が世界に先駆けて、全国民に対し「ハッパ吸っても逮捕されないよ」と宣言したのだ。
2013年に大麻合法化にGOを出したのは、かつて“世界一貧しい大統領”として世界中で話題になったホセ・ムヒカ氏(2015年に退任)。合法化の最大の目的は、栽培・流通を国の管理下で行うことによって闇市場での価格を爆下げし、密売組織を弱体化させること。先進国としては2018年にカナダのトルドー首相が始めて大麻の合法化に踏み切ったが、その理由もやはり犯罪組織の資金源を断つことだった。
合法化したまではよかったけど……自国が抱える問題を大胆映画化!
そんなウルグアイの意外な一面を知った上で、同国発の映画『ハッパGoGo 大統領極秘指令』をぜひ観てほしい。なんだか仰々しいタイトルとは裏腹に素人が撮影したような粗い映像なのだが、むしろドキュメンタリーとしては臨場感たっぷり。いわゆるヤラセ感もなく、リアルな映像と相反する異様な光景にぐんぐん惹き込まれる。
本作はまず、薬局を経営するアルフレドと母タルマの親子が合法化に乗じて“大麻入りブラウニー”を販売するという、物騒なのか平和なのかよく分からない展開から始まる。薬局には長蛇の列ができ、ニュース番組に取材されるなど国中の話題になるのだが、なんと原材料が麻薬密輸業者から仕入れたブツだったものだから、アルフレドは犯罪者として独房行きに! っていうか、そんなことある!?
……そう、本作は一見するとノンフィクションのようだが、実は完全なモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)作品。ウルグアイの大らかな国民性と国家レベルの斬新な実験が炸裂したユニークかつ痛快な風刺劇に仕上がっているが、あのムヒカ元大統領ががっつり出演しているだけに、途中まで「これガチなの!?」と戸惑う人も少なくないだろう。ちょいちょいウルグアイの貧乏っぷりをアピールしてくるので、ホームビデオのような安い映像にも説得力ありまくりだ。
とはいえ、国の大麻事情に関する部分はほぼノンフィクションである。政府によって合法化されたところまではよかったが、数ヶ月経っても肝心の大麻栽培が追いつかず国民からクレームが殺到。カナダも同じような問題を抱えているのだが、それまで密輸組織によって賄われていた巨大な需要を、政府が一手に賄うことはできなかったのだ。
特に事件は起こりません! 終始ユル~い雰囲気が心地良いモキュメンタリー
しかし、ウルグアイ政府による大麻栽培~販売計画が遅々として進まない状況に『ハッパGoGo』制作陣は、逆に大クライアント国のひとつであるアメリカから大麻をがっつり輸入しては? というアイデアを思いつく。そこでムヒカ大統領が薬局のブラウニー親子に司令を出し……というムチャ設定が誕生したというわけだ。
この前代未聞の司令を受けた親子は、オバマ大統領と会談するムヒカ大統領(実際に2014年にホワイトハウスに招かれた)より一足先に渡米し、自国への大麻供給ルートを開拓すべく奮闘。いくつもの栽培場や大麻イベントなどを訪れるが、当然ながら年間50トンもの大麻をウルグアイに合法的に運ぶのは実質不可能。しかし慣れない土地ですったもんだしているうちに、予想外の出会いが親子に光明をもたらすことに……という、モキュメンタリーならではの超展開が繰り広げられる。
作風としては『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)などに近いが、無理矢理トラブルを起こそうとするサシャ・バロン・コーエンたちとは違い、この『ハッパGoGo』では特に大きなハプニングは発生しない。とはいえ鑑賞後には深く考えさせられ、そしてウルグアイに行ってみたくなる、そんな映画だった。
最後の最後にムヒカ大統領が制作陣に放つ「政府高官を笑い飛ばす、共和国的なことには価値がある」という言葉にはニヤリとさられつつもグッとくる。『ハッパGoGo 大統領極秘指令』は、ウルグアイが世界に誇るべき輸出品と言えるだろう。
『ハッパGoGo 大統領極秘指令』は2019年7月13日(土)より新宿K’s cinemaにて公開
『ハッパGoGo 大統領極秘指令』
世界で初めて大麻を合法化したウルグアイ。だが、国内に大麻がなかった! ホセ・ムヒカ前大統領が友情出演。若き監督3人が米大麻業界に挑む破天荒なインディペンデント映画!
制作年: | 2017 |
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監督: | |
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