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「人々が抱く疑念を使って、金や権力を得ようとする」他人事じゃない恐怖体験『入国審査』監督コンビが語る

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ライター:#橋本宗洋
「人々が抱く疑念を使って、金や権力を得ようとする」他人事じゃない恐怖体験『入国審査』監督コンビが語る
『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
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「人々が抱く疑念を使ってお金や権力なりを得ようとする、多様性を恐れる人たちが使うツール」

現在、世界中を排外主義が襲っているように思える。アメリカはもちろん日本でも「日本人ファースト」を謳う政党が支持を集める時代だ。その根元にいるのは、やはりドナルド・トランプなのか。

答えから言うと「ノー」です。アメリカの移民政策、入国審査はトランプが大統領になる前から酷かった。私や周りの人間はよく知っているんです。

大統領が共和党であれ民主党であれ、酷い扱いを受けた移民はいます。ただトランプ政権下だと、そのことがよりクリアに見えるんですけどね(苦笑)。だからトランプは排外主義の根源ではないけれど、“顔”ではある。彼の主張に賛同する人間が増えているのは恐ろしいことです。どっちの国が上か下か、なんて本当はない。みんな平等のはずなのに。(ロハス)

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

バスケスはこう付け加える。「今、世界に広まっているのは“分かち合うよりも守れ”という考え方です」。なぜ分かち合うことができないのか? 自分の“外側”にいる人間を信じることができないからだ。

映画『入国審査』の審査官も同じ。主人公たちに次から次へと疑念をぶつける。言い出したらキリがないようなことまでも。

劇中では、少しずつ疑念が重なっていくという構成にしました。疑い出したらキリがないというのは、まさに今の世の中ですよね。それは世界中の政治家たちのツールなんです。

人々が抱く疑念を使って、お金なり権力なりを得ようとする。そこでは、移民が日々の生活を脅かす敵のように見られてしまう。つまりこのツールは、多様性を恐れる人たちが使うものなんです。(バスケス)

アレハンドロ・ロハス監督、フアン・セバスチャン・バスケス監督 『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

「人の人生を変えるようなきつい尋問も、彼らにとっては1日の仕事の一部でしかない」

極度の緊張と恐怖の果てに主人公カップルが迎えるのは、意外なようにも妥当なようにも思える結末だ。ラストカットの切れ味は抜群。観たら、しばし放心状態になる。

あのラストは最初から決めていました。その背景にあるのは、審査官にとってはきつい尋問も日常の仕事でしかないということ。人の人生を変えるような仕事でも、彼らには毎日のことであり、主人公たちの件も1日の仕事の一部でしかない。(バスケス)

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

見事なデビューを飾ったロハスとバスケスが参考にしたのは、社会派エンタメの巨匠シドニー・ルメット。「何度もルメットに立ち返りました。たとえ20回見た作品でも、また見る価値がある」とロハス。バスケスはルメットに加え「とても絞り切れないけど……」と、マイケル・マン、アレハンドロ・イニャリトゥ、さらにポール・グリーングラスをお気に入りの監督として挙げてくれた。

確かに、この監督たちの映画と『入国審査』には共通する部分がある。たとえば骨太なドラマ性であり、現実社会との濃厚なつながり。それに巧みな語り口だ。

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

次回作は脚本の準備段階。それぞれの単独監督作になるそうだ。ストーリーテリングのうまさからして、アクションやホラー、ミステリーなどジャンル映画を撮っても面白いのではないか。2人とも「パーソナルなものを持ち込めるのであれば、ジャンルにこだわりはないです」と言うだけに、今後にも注目したい。出世すること確実。『入国審査』を見れば、誰もがそう思うはずだ。

アレハンドロ・ロハス監督、フアン・セバスチャン・バスケス監督 『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

『入国審査』は8月1日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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『入国審査』

移住のために、バルセロナからNYへと降り立った、ディエゴとエレナ。エレナがグリーンカードの抽選で移民ビザに当選、事実婚のパートナーであるディエゴと共に、憧れの新天地で幸せな暮らしを夢見ていた。ところが入国審査で状況は一転。パスポートを確認した職員になぜか別室へと連れて行かれる。「入国の目的は?」密室ではじまる問答無用の尋問。やがて、ある質問をきっかけにエレナはディエゴに疑念を抱き始める──。

監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ

2023年|スペイン|スペイン語、英語、カタルーニャ語|77分|ビスタ|カラー|5.1ch|原題UPON ENTRY|日本語字幕 杉田洋子
配給:松竹
後援:駐日スペイン大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京

制作年: 2023