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「人々が抱く疑念を使って、金や権力を得ようとする」他人事じゃない恐怖体験『入国審査』監督コンビが語る

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ライター:#橋本宗洋
「人々が抱く疑念を使って、金や権力を得ようとする」他人事じゃない恐怖体験『入国審査』監督コンビが語る
『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
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“入国審査”の、あの緊張感

海外の空港で入国審査を受ける時、やけに緊張するのはなぜだろう。パスポートの期限は切れていないし書類も揃っている。なのに何かミスしてるんじゃないかと不安になる。単なる旅行者でもそうなのだから、移民となったら不安は何倍にもなるはずだ。

アレハンドロ・ロハスフアン・セバスチャン・バスケスが共同で監督・脚本を手掛けた映画『入国審査』(8月1日[金]より全国公開)。スペインからアメリカに移民として入国しようとするカップル、ディエゴとエレナがニューヨークの空港で味わう“入国審査という恐怖体験”を描いたタイトなスリラーだ。

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

「私にはトラウマがあります。映画に描かれた通りの経験をしてきた」

入国審査でストップをかけられ、理由も告げられず別室で尋問されるディエゴとエレナ。2人の人生、その裏側まで暴こうとする審査官の言葉はあまりにも不躾、かつ容赦がない……。

監督デビュー作、しかも17日で撮影されたという低予算の作品ながら、本作は15ヵ国の映画祭で20あまりの賞を獲得。胃を締め付けるような緊張感が最後まで途切れない展開は必見と言っていい。

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

来日した監督コンビへのインタビュー、まずは“入国審査の不安”について聞いてみた。

確かに入国審査は怖いですよね。自分が誰であるかを問われ、権威を恐れてしまうからでしょう。それは人間として当然の感覚です。まして私にはトラウマがありますから。映画に描かれた通りの経験をしてきている。(バスケス)

20年来の友人だという2人はともにベネズエラ出身。現在はスペインに移住しているが、その過程で何度も理不尽な経験をしてきたという。本作は彼らの実体験がベースになっている。

今でも、「なぜスペインのパスポートを持っているんだ」と問い詰められるんじゃないかという怖さがありますね。(バスケス)

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

ロハスは以前、妻とアメリカの特殊能力ビザを申請。事前承認があったにもかかわらず、領事館担当者の杜撰な審査で不承認になったことがあるという。主人公カップル同様に“住みたい国に疑惑をかけられる”という経験をしたのだ。ロハスは言う。

本当に困難な状況というか。移住というのは人生ごと引越しするわけです。よりよい生活、新天地を求めてね。なのに、その場所が自分のことをジャッジしようとする。歓迎してくれないどころか、審査は辛いもの。非人間的な経験で、それは映画の中で主人公たちも直面します。(ロハス)

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

審査官たち(こちらも2人)の冷酷さは、本作の見所でもある。印象的なのは、そのうち1人が南米系であることだ。つまり自分も移民、もしくは移民の子孫。なのに移民に辛く当たる。

実際に、2次審査を担当した審査官には南米系の名前の人が多かったんです。自分のルーツを忘れてしまっているんですね。

この審査官を演じたローラ(・ゴメス)はドミニカ出身でニューヨーク在住。実際に空港の移民局で働いているいとこを役作りの参考にしたそうです。もう1人の審査官役はベン・テンプル。アメリカ出身でマドリッド在住です。2人とも「審査官がどれだけ酷い言葉を放ってくるか、よく分かっています」と言ってました。(ロハス)

『入国審査』© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

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『入国審査』

移住のために、バルセロナからNYへと降り立った、ディエゴとエレナ。エレナがグリーンカードの抽選で移民ビザに当選、事実婚のパートナーであるディエゴと共に、憧れの新天地で幸せな暮らしを夢見ていた。ところが入国審査で状況は一転。パスポートを確認した職員になぜか別室へと連れて行かれる。「入国の目的は?」密室ではじまる問答無用の尋問。やがて、ある質問をきっかけにエレナはディエゴに疑念を抱き始める──。

監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ

2023年|スペイン|スペイン語、英語、カタルーニャ語|77分|ビスタ|カラー|5.1ch|原題UPON ENTRY|日本語字幕 杉田洋子
配給:松竹
後援:駐日スペイン大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京

制作年: 2023